魔除けのおまじないは老いからも守る抗酸化ハーブ〜セージ

セージ Sage

キッチンハーブの代表のひとつ、セージは抗菌力と抗酸化のハーブです。

学名:Salvia officinalis (サルビア オフィキナリス)
和名・別名:ヤクヨウサルビア、コモンセージ
科名:シソ科
使用部位:
葉部

leaf3_mini 植物分類と歴史

古代ギリシャ時代から薬草として活用されてきた古い歴史を持つメディカルハーブ(薬用植物)です。
シソ科サルビア属の多年草。和名はヤクヨウサルビアで原産地は地中海沿岸あたりです。育てたことがある方はご存知でしょうが、葉は、薄い産毛が生え、あたかもベルベットの手触りのようだと評されることも多いです。


Saviaという学名は治療力があるという意味のラテン語salvere(サドヴェレ)という意味からきています。このハーブをつかうと健康になるということから由来されましました。この名がフランスに渡り、Sauge(ソージュ)となり、さらにイギリスで、sage(セージ)となったと言われます。

同種にクラリセージ(Salvia sclarea)、パイナップルセージ(Salvia elegans)などがあります。 セージは園芸種など近縁種も多く(約500種以上)、一般的に薬用や食用で使われるのが、このコモンセージとよばれるSalvia officinalisです。それ以外にクラリセージ(Salvia sclarea)は、精油としてアロマセラピーで使用されるセージです。
今日では薬用で使用されるものをセージと呼び、園芸種をサルビアと呼び分けています。
古代ギリシャの哲学者テオフラストスの著作「植物誌」(紀元前3世紀頃)にも2種類のセージが登場し、大プリニウスの「博物誌」(1世紀)の中の「植物薬剤編」にも記録があります。
そこでは「セージには野生種と栽培種がある、ブドウ酒とともに飲むと遅れている月経を促進する、煎じ汁を飲むと月経過多を止める、セージの葉そのものを傷口に貼ると出血を抑える、蛇に噛まれたときには毒消しになる」等々のことなどが記載されています。 まさに今日のセージのもつ機能性の裏付けみたいな話です。
古代ローマではセージは万能薬と認められていて、行軍中もセージの種を蒔きながら進んだり、蛇にかまれた際の毒消しとして使われたり、長生きの薬として利用されていましました。 また800年のフランク王国カール大帝がスパイスやハーブの栽培を奨励した9世紀ヨーロッパには各地のカロリング朝フランク王国の修道院にセージを含む薬用植物園が作られて栽培されましました。修道院は病人の手当てや病気の治療には薬草を使用してきましました。
ここでちょっと修道院医学とも呼べる薬草の歴史について少しご紹介しましょう。

修道院医学の歴史

中世フランスのベネディクトゥス修道会では自分で自分を養える時給自足の生活が求められましました。そのために野菜やハーブを自家栽培したことが食事の香辛料や治療にも使われるようになり、植物の効能についての知識を修道院間で分かち合い、貴重な種や苗を交換しました。
ドイツやベルギーの修道院が地中海のローズマリーやラベンダーやメリッサ(西洋ヤマハッカ)をリュックに詰めアルプスを越え北の土地に自生させていったのです。

<最古の「ロルシュ薬草書」とヒルデカルトの「フィジカ」>

最も古い修道院の薬草書は、790年頃ヴォルムス近郊にあるロルシュ修道院のリヒボード大修道院長のヴァラフリート・ストラーボ(Walahfrid Strabo, 809-849年)監修で著された植物処方の集大成「ロルシュの薬草書」といわれています。
ドイツのハイデルベルクから30㎞ほど北にあるロルシュ旧修道院は8世紀に設立されたベネディクト会修道院の遺構です。神聖ローマ帝国カール大帝の孫・曾孫の東フランク王が葬られ、13世紀にマインツの大司教領に組み込まれるまで、北は北海から南はアルプスまで勢力を及ぼした帝国直属修道院でした。
また彼はハーブに関する最初の本と言われる詩集「小さな庭ホルツゥスル(Hortulus)」を元に、1981年以降、ロルシュ修道院の敷地内に中世の処方に使われた薬草園が置かれています。
この叙事の名著はセージ、ヨモギ、フェンネル、ケシ、ミントなど24の薬草の外観と効能について詩の形式で讃えています。

「バラーフリート・ストラボ(809-849年)のベネディクト会修道院薬草園」

さらにカロリング朝の王に仕えた宮廷顧問の修道士たちは理想的な庭園の設計も行っています。そして最も代表的な修道院医学の本はドイツ、ビンゲンのヒルデカルト(ビンゲンの修道院の修道院長であったので、そう呼ばれた。)による「フィジカ(自然学)」と「カウゼ・エト・クーレ(原因と治療)」です。
12世紀に書かれたこの本には約200種類にもおよぶ薬草や効能について書かれています。ドイツの薬草学の租と言われる所以であります。ヒルデカルトは、作家や作曲家、言語学者、詩人などでもあり、更には預言めいたことも遺している神秘学者の面もあり、不思議な中世の魔女でもあったのでしょう。彼女の薬草学においては、植物を「冷と温」に区別し、それが対抗することによって人間の体内バランスを整え、悪魔から身を守るという考えがそのベースにあります。 どこか東洋の「陰と陽」の二極論にも通じるところがあるような気がします。ただし中国で悪魔がいたかどうかは定かではないですが。


「ヒルデカルト・フォン・ビンゲン」

中世のセージ

さて、セージがヨーロッパ南部や地中海沿岸地方からイギリスに渡ったのは1世紀頃といわれており、前述のスカボロフェアの歌詞には「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム・・」とハーブの名前が何度も出てきますが、おそらくハーブは昔から妖精のお守りとして効果があったと言われているため、魔よけの呪文として唱えていたのかもしれないですね。
それほどイギリスでは、生活に欠かせないハーブの一つだったようです。

17世紀に入るとイギリスのハーバリスト(ハーブ研究家)のニコラス・カルペッパー(Nicholas Culpepper)が「造血の効果があって肝臓によい」「記憶力を強くするのに非常な能力があって、感覚を暖め敏感にする」「下肝臓に効果がある薬で血液を増やす。セージの葉と根の煎じ汁をのむと排尿を促し、胎児が死んでしまった場合は子宮から流産させ、髪を黒くする。傷の出血を止め、潰瘍をきれいにする。」などと述べています。
またヨーロッパに東洋のお茶が伝わるとセージとお茶を混ぜた飲料が飲まれるようになり、イギリスでは多量のセージがオランダから輸入されるようになりました。当時の中国でもセージは大変珍重され、「薬用サルビア(薬用鼠尾草)」として、オランダ商人は1枚のセージの葉と大箱3箱の最高級中国茶を取引していたそうです。あっちから仕入れてこっちに売る、まさしく商社だったのであります。
また歯磨き粉ができる以前は、歯を白くし歯茎を丈夫にするものとしてセージが利用されていましました。セージには空間を清める力があると考えられており、ネイティブアメリカンがスマッシングという空気の浄化として使っていましました。(正確には、セージの仲間で、食用ではないホワイトセージSalvia apianが使われる)
現代でも北米・カナダなどでは新しい引越し先でセージを焚いて部屋を清めたり、アロマキャンドルなどと一緒に引越し祝いとしてプレゼントしたりするそうです。またセージを煮た後の水をスプレーすると抗カビ、殺菌効果があるとされています。まさに抗菌力パワーです。


leaf3_mini 安全性と相互作用

安全性:クラス2b(妊娠中に使用しない)、2d(推奨量を超えない)
相互作用:クラスA(相互作用が予想されない) (Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

セージのように古いハーブの歴史を紐解くと一晩あっても語り尽くせないので、この辺で食経験についていくつか伝統的利用法をご紹介したい。
強い抗菌力が示す通り、古代・中世のヨーロッパの牧畜に頼っていた民は過酷な冬を迎えるとき、家畜の肉を貯蔵するのに防腐や香りづけにタイムやセージ、その他のハーブを使った。そこから「ソーセージ」という名前がついたと言われる。セージは食品の腐敗防止に優れていたため肉の加工に適していたのだろう。

セージが料理に使われたのがいつ頃なのかは定かではないが、イギリスでは料理がヘンリ−8世の時代に庭に料理用のハーブを育てていたあたりからではないかと言われる。1741年に書かれた料理本(イギリスのダラム大聖堂の修道院で発見されたラテン語の本)にセージと玉ねぎを使ったスタッフィングが収載されています。(スタッフィングとは感謝祭に食されるローストチキン、当時は鷲鳥ことガチョウが使われた)
他にもセージをつかった料理に「冬のめんどり煮」というのが記載されていて、にんにく、胡椒、セージを熱し煮込む。これは冬でも手に入る材料で出来る季節感を表したレシピ。若鶏ではなく、めんどりなのは、老いて卵を産めなくなった鶏からさばいていったからです。

「12世紀ごろの食事風景ー当時は食器がなく手づかみで食べていましました。」

さらに、この書物の中では堅く閉ざした外枠の中で調理することで、汁を逃さずに美味しいしっとりとした肉を作る方法も知られていましました。いまでいうオーブン料理でしょう。簡単な作り方を紹介します。
「材料としてパセリ、セージ、ヒソップ、ローズマリー、タイムを用意して雄鶏に詰め、サフランで色付けする。この雄鶏を深鍋の中に置くが、鍋に触れないようにするために木の切れ端の上に載せて、薬用植物と高級なブドウ酒をその回りに囲むように注ぐ。深鍋の上の蓋は小麦粉と水で作られた厚い練り粉で封をしました。
次に深鍋を炭火の台に置いて、鶏が煮えたと思ったなら、深鍋を火から離して、鍋が冷たい床と接触して割れないように藁の上に置く。鍋が冷めると蓋を外して鶏を引き上げる。脂肪分は鍋の中の香り高い肉汁からすくい取られ、ブドウ酒のシロップ・砂糖・小粒の種なしブドウ・香辛料を最後の仕上げに注ぎ込んで、できた混ぜ物をスプーンですくって鶏の上にかけた。」

イギリス以外でも伝統的なセージ料理はヨーロッパにあります。有名なものがイタリアのサルティンポッカ(saltimbocca)です。イタリア語で「口に(ボッカ)飛び込んでくる(サルティン)」の意味で、短時間で簡単にできることから)は、仔牛肉・鶏肉・豚肉などに、生ハム(プロシュット・ディ・パルマ)とセージを乗せたり、並べた料理です。12世紀から14世紀ごろまでは地中海料理が当時のヨーロッパで流行していたため、スペイン、ギリシャでもポピュラーな料理であります。
またセージをてんぷらにする「フリッターセージ」も中世のころから食されていた定番料理です。そのほか緑色の大理石のように色鮮やかなイギリスのチーズ「セージダービー」はセージを使ったチーズとして有名です。これはイギリスのダービーというチェダリング製法のチーズを基本にセージをマーブル状に混ぜて作ったセージの爽やかな風味のチーズ。ちょっと変わったチーズだが、機会があればぜひお試しあれ。
食材としてのセージの活用はヨーロッパを中心に伝統料理として料理の歴史を彩ってきているわけだが、ここからは食品の機能性について紹介していきたい。

ローズマリーに次ぐ抗酸化力を示し、また収斂作用と抗菌作用を持つことがセージの基本特徴です。
また、セージを使用したヘアートニックは、抜け毛の予防にも効果があるとされ、オーガニック系の化粧品などに天然エキスとしても使われています。それ以外にも伝統的植物療法の活用の歴史が現在の研究につながっている機能性について紹介しておきます。

●女性特有の不定愁訴の緩和

古くからセージは更年期の諸症状の緩和、失禁防止などに有用とされてきましました。中でも代表的な働きのひとつ「収斂作用(引き締め効果)」はセージに含まれるカテキン型の縮合タンニンによるもので、汗などの過剰な分泌を抑える働きがあるため、寝汗や過度の緊張などによる心身症的な多汗、更年期の自律神経失調症状としての発汗異常やホットフラッシュなどに効果を発揮する。また血行を促進する作用があるため、月経痛の緩和や過小月経、稀揮発月経、無月経などの月経不順に対して働きかける。
*ただし、精油成分のツヨンには、腎障害を引き起こす可能性が指摘されているため、妊娠中や精油の長時間使用は禁忌です。

●抗炎症作用による脳機能亢進

ローズマリーなどにも含まれるカルノシン酸(Carnosic acid)という天然の化学物質の作用があります。

*カルノシン酸は、セージに含まれる香り成分でポリフェノールの一種。記憶力を改善する働きや神経成長因子の生成を高める働きで認知症予防に役立つといわれています。さらに強力な抗酸化作用があり活性酸素の発生や酸化力を抑え、ダメージを受けた細胞を修復し免疫力を高めたり、動脈硬化やがんの発生を防ぐ働きがある成分。

このカルノシン酸には、脳内の細胞間で様々な情報をやり取りしたり、記憶力に関わる働きをするアセチルコリンの働きに直接的な影響を与える作用があることがわかっており、アセチルコリンの量が低下することと、その症状に深い関係があることがわかっています。
アルツハイマー型認知症の予防と症状の改善にカルノシン酸が多く含まれるセージが有用です。いくつかの研究によって、アルツハイマー型認知症の症状には、アセチルコリンの減少が深く関わっていることが分かっているが、アセチルコリンが減少する原因の1つに、酵素のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)が何らかの原因で増加すると考えられています。
現在世界中でアルツハイマー性痴呆症の改善のために処方されている治療薬のほとんどがAChE阻害剤と呼ばれる薬です。アセチルコリンは重要な神経伝達物質で神経細胞から分泌されたアセチルコリンを受け取った神経細胞は興奮状態になるが、興奮状態が長時間持続すると死んでしまうため、AChEが働き、アセチルコリンを酢酸とコリンに分解する。
カルノシン酸が含まれたセージをアルツハイマー型認知症の42人の患者に4カ月間摂取してもらった臨床検討が2003年2月のthe Journal of Clinical Pharmacy and Therapeuticsに、イランのテヘラン大学の研究チームによって報告されており、認知機能の大幅な改善が見られたことが報告されています。
セージはアルツハイマー予防の目的であれば、1日に生の葉を5-10枚(1人分)を料理に使って食べるかドライをハーブティーとして飲んでもよい。
*ただし関節炎、関節痛、頻繁な痛風発作を患っている人は、セージに含まれるカルノシン酸の作用でアセチルコリンが増えることによって症状が憎悪することがあるので要観察。

<植物療法レシピ>

すぐできる植物療法のセージ活用法をいくつか紹介します。
●口内炎・歯周病対策歯磨きペースト
材料:ドライセージ+天然塩
作り方:大さじ2杯の天然塩を厚手の鍋に入れ焦がさないようにかき混ぜながらサラサラになるまで熱し、火を止めドライセージの粉を大さじ2杯加え、混ぜ合わせる。(焦がさないように)そのままでも良いがペパーミントのパウダーをひとつまみ加えると爽やかな感じになるのでおすすめ。

●美肌&制肌ジェル
材料:ドライセージ+100円ショップで買えるジェルボトル+グリセリン
作り方:ドライハーブで濃いハーブティーを作る(100ccに5g程度で5分以上熱湯抽出)、十分に冷めたところで、100ccのジェルボトルにグリセリンを5cc程度加えてよく混ぜる。夏場は日焼け後に。冷蔵庫で冷やすとひんやりして気持ち良い。冬の帰宅時のお肌ケアにも使える。また髪にリンスすれば白髪予防に。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献
「修道院の医術」ルーツィア・グラーン著
「魔女の薬草箱」西村佑子著 山と渓谷社
「ハーブ歳時記」北村佐久子著 東京堂出版
「ヨーロッパの食文化」マッシモ・モンタナ―リ著 
「中世の食生活」B・A・ヘニッシュ著 藤原 保明 訳

「中世ヨーロッパの生活」ジュヌヴィエーヴ・ドークール著 大島誠訳
「西洋中世ハーブ事典」マーガレット・B・フリーマン著
「カルペッパー ハーブ事典」 ニコラス・カルペッパー(著)
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編集
「ハーブティーブレンドレッスン」ハーブティーブレンドマイスター協会編集  「The Green Pharmacy」 James A Duke著
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集
「Fifty Plants that changed the course of History」 Bill Laws著

参考論文
*カルノシン酸のNrf2を介した神経保護効果に関する分子生物学的解析2012.6 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 小坂邦男
参考データベース
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ編
(独)国立健康・栄養研究所 監訳
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17595884 
米国国立医学図書館 PubMed(パブメド)

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