受難の花は植物性の精神安定剤〜パッションフラワー

パッションフラワー Passionflower

パッションフラワーは「自然の精神安定剤」といわれ、穏やかな鎮静作用があり、中枢性の痛みにも有用です。

学名: Passiflora incarnate (パッシフローラ インカルナタ)

和名・別名:チャボトケイソウ〔矮鶏時計草〕、西蕃蓮〔セイバレン〕、メイポップ

科名:トケイソウ科

使用部位:地上部の全草


leaf3_mini 植物分類と歴史

トケイソウ科の多年生つる植物で、枝のない巻きひげで他物にからみつき、長さ4 mほどに生長します。花はトケイソウの名前の由来であり、先が3つに分裂した雌しべと5つに分裂した雄しべが中心にあるのが特徴的で、その周りを多数の糸状の副冠が平らに開いています。原産地は米国南部、バージニアからフロリダ、西はミズリー、テキサス、メキシコなどの中南米などです。
パッションフラワーは欧米では古くから鎮静作用や催眠作用のあるハーブとして用いられてきました。ドイツのコミッションEでは神経性の不穏症状に対して使用を認めています。特に不安障害に対して、経口摂取(ハーブティーやサプリメンとなど)での有効性が示唆されています。安全性についてだが、子宮を刺激する成分を含むため、妊婦が経口摂取することは避けるべきとされています。ただ授乳婦の摂取に対しては信頼できる十分なデータは見当たらない。
passionflower
パッションフラワーの花
歴史的にはアステカ族やアメリカインディアンのチェロキー族が鎮静剤や不眠治療として用い、鎮静効果が高いハーブとして知られていました。主に滋養強壮や鎮静剤として伝統療法に活用されていたようです。
1569年にモナルデスというスペイン人医師がペルーで鎮静剤として使用したことがきっかけとなり、精神安定や不眠の解消などに役立つハーブとしてヨーロッパにも急速に普及します。現在もドイツなどでは伝統的医薬品(THMPD)として承認されています。向精神性ハーブという分類に属し、作用が穏やかな為、「植物性のトランキライザー(精神安定剤)」と呼ばれています。
そもそもパッションフラワーという名前はキリスト教の修道会であるイエズス会によって名づけられたとされます。
パッションと聞けば「情熱」という解釈をする人もいますが、ここでの意味はキリストの処刑時の苦しみpati(受難)という意味です。パッションフラワーの姿が十字架に見えたから、らしいですが。
5本の雄しべはイエス・キリストの5個の傷を、花冠の部分はキリストの茨の冠を、5枚の花弁と5つのガクはユダとペトロを除いた10人の使徒を表しているそうです。
しかし日本に伝わったときには、花がまるで時計のように見えたので時計草(とけいそう)と名づけられます。実際に見た人は、その花のどぎつさにびっくりすると思います。

leaf3_mini 安全性と相互作用

安全性:クラス1
相互作用:クラスA
(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

スペインを中心に広まったパッションフラワーだが、すでに北米や南米に住んでいたインディアンはパッションフラワーの効果が生活に密着していたわけですが、植物療法における長い歴史では、結腸、発疹、不眠症、モルヒネ中毒、神経痛、ノイローゼ、眼炎、痔核、発作などの研究が行われてきました。
鎮痛作用については1897年に初めて臨床的に記録され、1904年には鎮痛効果に関する初めての研究が発表され、(Stapleton博士がDetroit Medical Journalで不眠症治療にパッションフラワーを使用した経験を「中枢神経の刺激を和らげ交感神経の神経支配を促進することから、循環や栄養状態を向上する」と書いている。)
20世紀に入ると、薬学的にもパッションフラワーの働きが認められ、1916年から1936年までNational Formularyにもリストされたました。1980年代初頭には痙攣抑制作用、不安緩和、高血圧における有効性が臨床的に確認されています。鎮静作用としては神経質と不眠症を含めいろいろな病気を扱うことで人気が高いです。不眠症でなくても不安感や緊張を強く感じられるようなときにハーブティーやサプリメントを飲むと、リラックスした気分になれる。また痙攣(けいれん)やひきつけなどにも弱めることも明らかにされています。
というように、現在では、エジプト、フランス、ドイツ、スイスなどの薬局方、そしてBritish Herbal Pharmacopoeia、British Herbal Compendium ESCOP monograph、Commission E、German Homeopathic Pharmacopoeia、Homeopathic Pharmacopoeia of the United Statesなどにその名がリストされている。
以下に代表的な機能性についてご紹介しておきます。

●向精神性ハーブ
「植物性の精神安定剤」として古くから向精神性ハーブとして活用されてきました。心を鎮めることにすぐれています。イライラや精神疲労などはもちろんのこと、ストレス性の不眠解消にも役立ちます。精神面に起因する頭痛・胃痛・慢性疲労感など幅広い体の不調に有用です。さらに平滑筋のけいれんを抑える作用があり、女性の生理時の不安感を取り除くため、月経前症候群(PMS)などの精神不調に用いられる。またストレス性の胃けいれんや便秘、そして過敏性腸症候群といった消化器系の不調にも役立ちます。
特に葉にはインドール系アルカロイド類のハルマン、ハルモールとフラボノイド類のアピゲニンが含まれていて、神経伝達物質の分解を阻止し、鎮静作用をもたらすとされます。鎮静剤を常用すると、習慣になって薬がないと眠れなくなってしまう依存性やうつ病を誘発することはありますが、パッションフラワーのハーブティーならそういう心配もなく、安らかな眠りに誘ってくれます。ジャーマンカモミールなどとブレンドすると、リラックスしたい時に役立つハーブティーとして有用です。
医薬品でもパッションフラワーから抽出した成分を用いた「パシフラミン」という睡眠薬があります。また人前や会議での緊張やあがり症を緩和する働きがある植物性静穏剤パンセダンも抽出物が使われています。イギリスでは、約40種類以上の鎮静剤にパッションフラワー抽出物が使われています。ただし米国のFDAでは医薬品ほどの有効性は認められないとしています。つまりパッションフラワーは医薬品ほど強くはないということのようです。裏を返せば体には優しい自然薬と考えるべきでしょうね。実際米国では不眠や鎮静剤としてはサプリメントやチンキ剤での利用が一般的です。

●抗不安作用のハーブ
極度の緊張によって頭痛や筋肉のこわばりがあるようなときにも効果があります。動悸を抑え、血圧を下げる効果も報告されている。またひきつけやてんかんにも効果があり、中枢神経に働きかけて鎮静させてくれます。そしてヒステリーや子どもの多動などにも効果がある。等々の報告がなされています。
パッションフラワーのアルカロイドは脳内の神経伝達物質の分解を阻止するので軽いモノアミン酸化酵素阻害剤(MAOI)としての作用があるとも考えられています。ただしその作用はごく軽いものであり医薬品レベルではありません。科学的報告としては、米国での研究報告があります。
*全般性不安障害の患者36名 (19~47歳、試験群18名) にパッションフラワー抽出物45滴/日を4週間摂取させたところ、オキサゼパム(GABA受容体と呼ばれる脳内の受容体に作用することによって動作するタイプのベンゾジアゼピンと呼ばれる薬の一種)30 mg/日を投薬した群と同等の治療効果が認められた。このことから、パッションフラワーは、抗不安作用を有することが考えられている。*1
また別の報告では、パッションフラワー抽出物は、in vitro試験において、海馬からのGABAの発生をうながすと報告がある。また抽出物をペンチレンテトラゾール(けいれん誘発剤)誘発不安発症マウス(ミオクロニー発作などのてんかん患者類似症状を起こさせたモデルマウス)へ飲用させた結果、明らかに不安症状が減少していました。これらのことからパッションフラワー抽出物は抗不安作用があると考えられる。

●精力回復・ホルモン様ハーブ
精神系ハーブのパッションフラワーには、意外な一面もあります。まだ研究段階のレベルのようですが、精力回復効果が期待されています。米国ではサプリメントなどで、マカやマレーシア人参として知られているトンカットアリなどとともに、エナジー回復、肉体系サプリが多く市場に出ています。また閉経後に使う自然薬として、更年期のホルモン療法にも役立つハーブとしても期待されています。更年期というと女性のイメージが強いが、男性にも目立たないが障害が起こりやすいです。男性ホルモン低下による男性更年期障害は40歳を過ぎた頃から緩やかに始まります。女性の様に閉経の前後に急にホルモンが低下する様な事はないので、男性がイライラしたりやる気が無い・眠れないなどの不調を感じたりしても、それは精神的なもので更年期障害によるものだとは気付きにくいらしい。
パッションフラワーの精神性、抗不安作用などと合わさって、穏やかな改善にも良いのかもしれないですね。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考図書
「魔女の薬草箱」西村佑子著 山と渓谷社
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編集 ハーブの安全性ガイド Chris D. Meletis著」
「ハーブティーブレンドレッスン」ハーブティーブレンドマイスター協会編集
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集
「Fifty Plants that changed the course of History」 Bill Laws著
データベース

Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
米国国立医学図書館 PubMed®

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