生命感覚の賦活と植物療法 その3

生命感覚の賦活と植物療法その3

前回は、味覚と生命感覚についてお話ししました。最終回は植物療法と生命感覚との関係性をお話ししたいと思います。

植物療法と生命感覚

植物療法とは植物が自ら生合成するフィトケミカル(植物化学成分)を含んだ粗抽出物を用いて、人が生まれながらにして有している自然治癒力(自己治癒力と自己調節機能)に働きかける療法です。

かつて医学・薬学の父として知られるギリシアのヒポクラテスは、400種類以上のハーブを処方したことで知られています。
植物療法は世界で最も歴史がある自然療法であり、かつ現代でも社会の健康度を高めるために、セルフケアや臨床の場で大きな期待を担っています。WHOや欧米の医療機関などでも認められ、ドイツ、フランス、イギリスなどでは、6、7割の医療機関で専門の医科が存在するほどです。

医薬品が単一成分であるのに対してハーブは天然の多様な成分から構成されます。これが医薬品とハーブの根本的な違いです。
現在、使用されている医薬品のおよそ4分の3は植物由来となっています。その一例を挙げるとドイツやフランスではイチョウ葉エキスエキナセア、ノコギリヤシなどのメディカルハーブは医薬品扱いとなっていますし、また植物性医薬品の開発が相次ぎ、その一部はスイッチOTC薬として、わが国のドラックストアでも販売されています。ご存知の方も多いのではないでしょうか?

また、ドイツではハーブ製剤による治療カテゴリーを4つに分類しています。
その4つとは、①化学合成薬よりもハーブ製剤の方がファーストチョイスになるもの、②ハーブ製剤が化学合成薬の代わりに使用できるもの、③ハーブ製剤がアジュバント(補助)として用いられるもの、④化学合成薬の効果を妨害したり遅延させたりするためハーブ製剤は禁忌となるもの、です。
残念ながら植物療法は日本では医療行為ではなく民間療法という位置づけですが、それでも、薬物療法が切り札とならない心の病や老人性退行疾患の増加などを背景として、現代医学と補完・代替療法のいずれをも視野に入れ、患者中心の医療を目指す統合医療(integrative medicine)の普及が進みつつあります。
クラウターハウスでもいくつかの精神医療機関での植物療法外来で監修というかたちでご協力をしております。

厚労省でも「統合医療情報発信サイト」の運営などの事業を行い、統合医療の認知と普及を後押ししています。

統合医療情報発信サイト
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html

医薬品が誕生する以前の数千年にわたり、人類は植物の持つ力を経験則として利用してきました。
例えば、シソ科の植物は菌に犯されないよう、自分の身を守る抗菌力を手に入れました。トマトは虫に襲われると化学物質を放出して周囲の仲間に危険を知らせます。さらにトマトはイモムシを共食いさせ身を守る 葉の味をまずく栄養価を下げる二重作戦をとることがわかってきました。またマメ科の植物は細菌と共生し、それぞれにとって必要な栄養分を交換し合います。

このように、植物は動けないからこそ植物独自の“社会”を築き、ここまで地球上に繁栄してきました。その植物がもつ成分だけでない自然治癒力や生命力を高める働き、そのものさえも人に応用しようという自然療法が植物療法なのです。

世界的には五大植物療法と呼ばれる領域があります。各国でも医療・介護領域とのコラボレーションとして、コメディカル(co-medical)医師と協同して医療を行う医療専門職種の総称、具体的には看護師・薬剤師・管理栄養士以外にも、保健師、理学療法士、社会福祉士、公認心理師など全34職種)のサポートツールとして、広く応用されているのです。

五大植物療法と医療・介護領域

以下、簡単ですが、5大植物療法と呼ばれるメディカルハーブ(薬草)療法、アロマセラピー、フラワーレメディ、園芸療法、森林療法についてその応用範囲と生命感覚の賦活に役立つ領域について少しご紹介します。

メディカルハーブ(薬用植物)は物質性(成分など)を有し、身体面にも作用するのに対して、アロマセラピーは嗅覚を介した情動への作用と本能の賦活に特徴があります。またフラワーレメディこと、イギリスのバッチ博士の花療法については、メカニズムについて科学的な説明は現段階ではできませんが、水に転写された野生の花の微細なエネルギーが細胞の情報(記憶)レベルに働きかけて、感情に調和をもたらす療法として主にメンタルケアに応用されています。特にドイツやイギリスなどでは医療機関でも実際に使用されています。
また園芸療法は植物を養育することで生命の交流が起こり、QOLが高まるとされ、土や草木に触れることで触覚の賦活にも寄与するため、我が国でも文科省が学校教育、介護分野での活用を推進しています。
森林療法は20世紀初頭のクナイプ療法の1つの分野としてドイツを中心に発達し、現在では世界各地で利用されています。

クナイプ療法とは
クナイプ療法とは今から約120年前にドイツのセバスチャン・クナイプ牧師が実践した自然治癒力を利用した治療方法です。クナイプ神父は青年時代に結核を罹患しましたが、冷水浴を行い完治させた経験から考え出された自然療法と言われています。クナイプ療法は大きく5つの分野で構成されており、それらを専門の医師が患者それぞれにあったように処方をして、各専門技術者が指導をして治療を行います。その5つの療法は次に挙げるものです。
(1) 水療法:温冷水浴
(2) 運動療法:1日2時間ほどの森林内散歩
(3) 食物療法:栄養のバランス
(4) 植物療法:薬草・ハーブを使った食事、入浴、アロマテラピー
(5) 調和療法:心身や身体内外の自然との調和
クナイプ療法は医療施設を持った保養地で行われます。そこには医師や看護婦、クナイプ療法士、理学療法士、カウンセラーがおり、治療を受ける人はそれらの専門家が往診・常駐できる保養施設に中・長期滞在をします。

国内でも広がる森林療法

 
我が国では林野庁を中心に各自治体でも採用され、森林セラピーガイドやセラピスト育成を通じて国内に多くの専門団体が「森林セラピー基地」と呼ばれる活動拠点を誕生させるに至っています。
人間にとって500万年前の原初の体験の場である森林に身を置くことで、人生の振り返りが起こり、新たな一歩を踏み出す力が生まれます。それをエンパワーメントと呼び、五感全体を刺激し生命感覚を高める療法として効果が期待されています。
心が疲れている方、体調に不安を抱える方は、一度森林療法を体験してみてはいかがでしょうか。

特定非営利活動法人 森林セラピーソサエティ
https://www.fo-society.jp/

今後注目されている活用領域

今後の植物療法の領域として以下の分野が期待されています。

①メンタルヘルス領域

国内での精神医療における植物療法の導入は医療行政の法的見解の違いなどもあり、なかなか公共の医療機関では、まだまだ困難な状況が続いてますが、開業医レベルでは国の混合治療の緩和とともに欧米に近づきつつあるようです。消費者レベルでは植物療法への理解はこの数年進んできています。一方、職場での不健康な状態での勤務(プレゼンティズム)による労働損失コストは社会問題の一つとなっています。
企業側もコストではなく、投資の概念で福利厚生を充実させる傾向にあります。その中で勤務時の健康度を高め労働生産性を高めるのに、植物療法は大変役立つツールの一つになるでしょう。さらに今後はヘルスツーリズムで森林療法を体験するなどの試みが増加しそうです。

②介護・高齢者領域

つい最近の話ですが、国の認知症施策推進大綱に基づき、日本認知症官民協議会等での議論等を通じ、独立行政法人経済産業研究所でのアロマセラピーの注意機能の改善効果が実証されたことは大きなニュースになりました。
経済産業省 METI Journalより
https://meti-journal.jp/p/15593-2/

  
高齢者の抗不安薬や睡眠薬の使用は転倒などを招くため、作用が緩和なハーブティーなどで対応したいものです。アロマやハーブの活用はポリファーマシー(多くの薬を服用することにより副作用などの有害事象を起こすこと)の回避にもつながると言われています。また、介護施設などで園芸療法を導入するケースもでてきました。さらにケアラーケア(介護などに従事する人へのケア)の領域では介護ストレスに対してフラワーレメディの利用がおすすめです。

③緩和ケア領域

終末看護やスピリチュアルペイン(生きる意味や価値を見失うといった人生に関わる苦悩)に対して、アロマセラピーやフラワーレメディの活用が試みられています。「何もしてあげられない」という家族が患者にオイルマッサージを行うことは、家族にとっての救いにもなりえます。また吐き気や便秘、痛みやしびれといった化学療法剤の副作用対策にもアロマやハーブは役立ちます。
 

④環境教育

「自然欠乏障害」や「自然欠乏症候群」(自然の中で五感を働かせる経験が不足している状態)というキーワードが話題になっています。
都市型のライフスタイルは人が享受すべき自然刺激が得られないため、さまざまな弊害を生んでいます。
例えば、子供の注意欠陥・多動性障害(ADHD)もその原因のひとつとされています。「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」というヒポクラテスの箴言(しんげん)が思い出されます。
 
アロマやハーブ、園芸療法や森林療法は、自然欠乏障害を改善するツールとして最適です。幼児教育では森の幼稚園や森の学校などの試みも広まっていますし、高齢化社会においてもこの問題は大きいです。

かつて自然の中で育ってきた経験を持つ高齢者にとって一人在宅状態の見えない苦痛は生命感覚を低下させていきます。
欧米でクリニックや病院で植物療法が医療として活用されているように、わが国の医療機関でも薬物療法と植物療法が適材適所に臨床応用される日が早く来ることを期待したいですね。

いかがでしたか。
3回にわたって、植物療法と生命感覚、植物療法の可能性について、昨今の学術報告、行政・省庁の動向、海外での活用例などを取り上げながら、ご紹介してまいりました。ぜひ皆様の心身のケアに身近な植物療法から始めてみてはいかがでしょう。

生命感覚の賦活と植物療法シリーズ その1はこちら。
>>>生命感覚の賦活と植物療法その1

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