生命感覚の賦活と植物療法 その2

生命感覚の賦活と植物療法その2

前回は、味覚と生命感覚についてお話ししました。今回は他の五感について、生命感覚との関係性をお話ししたいと思います。

嗅覚と生命賦活

嗅覚は味覚を助け、複雑な味や香りを区別する手助けをしてくれています。
食べ物や飲み物には数え切れないほどの種類があり、それでいて膨大な味のなかで、甘みや旨味はわずかのセンサーで違いを感じ取らなくてはなりません。とうてい違いを区別することは不可能です。だから「甘い」か「おいしい」ぐらいしか際立った表現方法はありません。

そこで匂いセンサー(嗅覚)が必要になります。嗅覚のセンサーは、288種類(290種という説もある。広義では300種から400種まで幅広い。)もあります。それだけ自然界には匂いの種類が多いということです。この匂いのセンサーが数の少ない味のセンサーをカバーしています。鼻をつまんで食べると何を食べているのか分からなくなります。このように味に関して嗅覚は思う以上に大きな役割を担っています。

「匂い」という感覚は「おいしい」「まずい」だけでなく、口にしたものが食用に適するか、人体に有益かどうかを判断する役割も担っています。初めての食べ物を口に入れる前に匂いを嗅ぐのも、食べて危険はないか、おいしいかどうかの情報を得るための行為なのです。したがって嗅覚は五感のなかでも最も原始的な感覚とも呼ばれます。

匂いの経路

鼻の鼻腔から入ってきた香り分子は嗅上皮嗅線毛にキャッチされ、嗅上皮の嗅細胞によって電気信号に変換され、嗅球という匂い分子の情報を処理し、高次の嗅覚中枢へ伝える脳の領域に運ばれます。嗅球で受け取った香りの情報は、その後、脳の大脳辺縁系に伝えられ、情動の変化や記憶を蘇らせたりする働きにつながっていきます。

味覚と嗅覚の情報を合わせて「風味」といい、味や香りだけではなく食感にも関係します。
懐かしい味、野菜の微妙な違い、お出汁の旨味や旬の果物の美味しさ、みんな風味として記憶しています。これが生命感覚と脳の活性に大きく寄与している一つの理由でもあります。

アロマコロジーとは

ところで、アロマコロジーという言葉をご存知でしょうか。これは芳香を意味するアロマ(aroma)と心理学のサイコロジー(psychology)を組み合わせた造語です。近年、生理学の分野に踏み込んだ研究が盛んになり、芳香の生理・心理学分野への応用として注目されています。


植物療法の一つアロマテラピーは芳香療法ともいい、香り(主に植物の精油)を様々な方法で体に用いて、人間本来のもつ免疫力、自然治癒力を高め、心身のバランスを保ちながら健康維持、増進をしようとする自然療法ですが、アロマコロジーは香りを嗅ぐことで安らぎやストレス緩和といった心理的作用を目的とした心理セラピーの一つでです。
自然の香りは、自律神経や中枢神経に作用して、ほっと一息、こころを落ち着かせてくれたり、動揺した気持ちを和らげたりしてくれるため、日々のちょっとしたこころケアに有用です。

中枢神経系や自律神経系への香りの作用は、脳波や心拍、皮膚温、血流などの変動によって確認することができます。
特に、脳波測定法のひとつであるCNV(Contingent Negative Variation:随伴性陰性変動)では、においの鎮静あるいは覚醒効果を確認することができ、化粧品・香料メーカーでは、このCNV検査を活用した様々な製品開発が行われています。

例えば、バラの香りの研究が有名です。バラの香りには、心と体の両面を癒す効用があると伝承されてきました。嗅覚は実験や科学的な検証方法が難しく本能的なものですが、分析機器や各種測定機器の進歩により、バラの香りはヒトの生理・心理作用にポジティブな影響があることが解ってきました。

鎮静、覚醒効果、免疫力の向上、自律神経失調の回復、スキンケア効果等などが考えられています。人が本来もっている恒常性(ホメオスタシス)の維持により、自己の心理作用や生理機構の変動を打ち消し、元の状態に戻しています。この機能は医学的には、自律神経系、免疫系、内分泌系の機能と関わっているわけですが、芳香植物の香りを嗅ぐアロマコロジーは香りの感覚そのものが人間の心身に及ぼす心理的な効果に寄与しています。まさしく生命感覚を向上し、恒常性を維持するのに一役買っているわけです。

視覚と生命賦活

植物の色素は人体に対しても抗酸化作用、抗がん作用、抗アレルギー作用など、さまざまな生態調節機能が報告され、生活習慣病の予防に役立つ機能性成分として利用されています。その色素成分の働き以外にも色そのものが生命感覚に関係していることも忘れてはなりません。

五感の中で最も情報量が多いのが視覚です。目から飛び込んでくる情報は圧倒的にインパクトが大きいものです。自然の色は人のこころを豊かにし、落ち着かせ、時には興奮させ、さまざまな感情を呼び起こさせてくれます。

ところで飲み物には「水色」という視点があります。日本茶や紅茶などの加工茶はその品質管理のために水色を判断基準の一つにすることがありますが、植物療法で利用されるハーブティーには、成分の持つ機能性に期待する部分と水色の感覚への影響に期待して処方するティーセラピーの視点が欠かせません。

赤や黄色や茶色、あるいは青色から赤色への変化など、自然の色素が織りなす変化を精神のリラックスや高揚に利用する分野です。
ハーブティーの色を見ているだけで気持ちが落ち着ついたり、元気が出たりと、穏やかに心と体に働きかけていきます。自律神経が整って、生命機能が正常化していくのです。

聴覚と生命賦活

お酒やワインに音楽を聞かせると味が良くなると言われます。これはお酒に音楽を聞かせるわけではなく、音楽の物理的な振動エネルギーとして伝えて水分子がアルコール分子を包み込むようにさせる働きによるものです。その結果熟成させたように味もまろやかで おいしいお酒ができます。

人もまた音によって感情が揺さぶられます。神経や脳に刺激を与える自然の音は、気持ちを落ち着かせてくれます。
外で自然の川のせせらぎ、鳥の声、虫たちの演奏などを聞きながら食べる食事は食欲を増し、おいしさを感じさせることは周知のことでしょう。


昨今心理療法の一つにマインドフルネス(瞑想療法)があり、自律神経や脳の活性化に役立ちます。また植物療法の一つ森林療法もフィトンチッドのような成分の持つ効果だけでなく、視覚や聴覚を刺激し自然治癒力を高める方法として国や自治体レベルでも積極的に導入している植物療法の一つです。

日々の煮詰まった時のリフレッシュ方法の一つとして、ちょっと外にでて公園や神社仏閣などの木々に触れ、いろんな音に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

触覚と生命賦活

人は誕生した時には授乳などを通して母親の皮膚と触れ合い、その後、成長とともにうれしい時や悲しいときには腕に抱かれ、そして怪我をした時には優しく疼痛部位を撫でてもらうなどを経験しながら成長していきます。そして人が旅立つ時には、家族が手足を撫でながらその人への思いをめぐらし見守っている中を人は旅立って行きます。このように「触れる」という行為は知らず知らずのうちにあらゆる場面で繰り広げられています。

人と触れ合う時の気持ちよさは、他の手段では代用できないものです。加えて触れることは、スピリチュアル・ケア(生きがいを持てる治療)の基礎を形成する行動であり、脳と脳あるいは心と心との直接的な交流といわれます。

皮膚は脳と同じ外胚葉から発生することから、「第二の脳」と呼ばれ、脳に匹敵する情報処理機能を備えているとも言われます。また五感の中で最も早く発達する感覚が触覚で、触覚、聴覚、視覚の順序で発達し、その逆に退化していきます。皮膚は医学的には一般的なバリア機能以外に昨今、よく耳にすることも増えた「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンとタッチングとの関係があります。

オキシトシンは、脳の視床下部にある視索上核と室傍核にある細胞で産生され下垂体後葉で分泌されるホルモンです。代表的なオキシトシンの効果は母乳の分泌促進、陣痛の活動開始、痛みの限界度上昇、胃腸の活動増進、攻撃性の減少と恐怖感の緩和、落ち着き、脈拍と血圧の調整、記憶力の維持、恒常性の維持などです。繰り返し皮膚に触れる行為(タッチング)により、オキシトシンが分泌しその効果は長期間にわたって持続することが周知されています。

またタッチングの効果としては以下のような研究報告が知られます。
心拍数の減少や血圧低下などに効果、心拍数の低下リラックス効果があったという報告、さらに夜間の睡眠状態が改善やタッチングを行ったことにより全身的疼痛の緩和のみならず睡眠の質の改善も得られた、不安やストレスを訴えた患者の不安が軽減した、また自閉症児へのタッチングは問題行動、多動などに効果があったという報告があります。加えて、思春期の精神疾患患者の不安軽減、注意欠陥多動性障害児には幸福感と自尊感情の向上に、攻撃的な青年の攻撃的性が抑制したなどなど精神ケアにも効果が報告されています。

このようにタッチングケアは、副交感神経を優位にし、免疫力を高め、ひいては自然治癒力を高めることに通じます。さらにコミュニケーションが困難な対象者や終末期にある対象者の重要な治療手段になると考えられています。

以上2回に渡って五感と生命賦活ということについて触れてきました。いかがでしたか。いかに五感が生きるということに大きな影響を与えているということがお分かりいただけたのではないでしょうか?

次回は植物療法と生命感覚を磨くことの関係性についてお話しします。

>>>生命感覚の賦活と植物療法その1

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