生命感覚の賦活と植物療法 その1

生命感覚の賦活と植物療法その1

生命感覚」という言葉があります。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、身体医学、精神医学の医療分野や自然療法、あるいは教育・介護の分野などでたまに耳にする言葉でもあります。その解釈は様々ですが、簡単に言えば、「生きているということを認知する感覚」と言えるかもしれません。

生命感覚は体の痛み、快・不快を感じることと考えてもらうと分かりやすいかもしれません。
例えば、「胃がちょっと痛いかも・・」などと感じたとします。そんな時、「胃が痛い=調子が悪い」ということに人は気づきます。痛みは体からの危険信号です。そのシグナルに気づくと「もう少し胃を休めよう」など体が正常な方向へ向かうよう気をつけるでしょう。

つまり生命感覚とはリスクを感じ取り、生命を維持するための感覚です。また生命感覚は体の内側にある感覚でもあり、生命を維持し、生き生きとした生活を送れるよう調整をしてくれる力とも言えます。この生命感覚を維持することが老化を防ぎ、生活習慣病や認知症の予防、精神ケア・高齢者医療、フレイル(虚弱状態)の予防につながるということが、医学の分野で注目されています。

すなわち、「QOL(生活の質)」を向上させるということにつながるのです。その生命感覚の柱となるのが「五感」です。これまで五感についてあまり興味がなかった方は、ぜひこの機会に五感、生命感覚を研ぎ澄ますことの意義を知ってもらえると嬉しい限りです。

五感と生命感覚

生命感覚を理解してもらうために、五感と生命賦活作用との関係を簡単に整理してみます。

味覚と生命賦活

ヒトを含めた脊椎動物は食物を食べたときに、その食物に含まれる化学物質の一部を口腔内で感知する機構を持っています。これが「味覚」機能です。
味覚は口腔内にある味覚受容細胞(味細胞)と呼ばれる細胞によって知覚され、この細胞が様々な化学物質に応答すると味覚神経(味神経)を介して、中枢にその情報を伝えます。口腔内には、食べ物の味を受けとる「味細胞」と呼ばれる細胞がたくさん存在して、ポツポツとした突起「舌乳頭(ぜつにゅうとう)」として舌の表面に見ることができます。実際に味を感知する器官である「味蕾(みらい)」は、この舌乳頭の部分に集まっています。
舌乳頭の種類ごとの分布の違いによって、舌における味蕾の分布には偏りが生じます。味蕾の総数は人種、年齢、栄養状態により変化しますが、成人で約5000〜7500個程度といわれています。

味覚は「基本味」と呼ばれる5つの味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)に分類されます。この他、ヒトが感じる味には辛味や渋味などがあるが、これらは味覚とは少し異なる感覚(温覚や痛覚)として基本味とは区別されています。

味の質をいくつかの基本的な事に分類しようとする試みは、古くから行われてきました。中国の最古の医学書『皇帝内経(こうていだいけい)』では、味の基本も甘味、塩味、苦味、酸味、辛味に分類しています。また、ギリシャのアリストテレスは、甘味、塩味、苦味、酸味以外に、収斂味、刺激味、辛味、無味、脂味などをあげています。
そして現代ではドイツのヘミングによる4つの基本味、甘味、塩味、苦味、酸味に、日本人が発見した旨味を加えて、5基味と定義されています。
以下に5基味と生命賦活について整理しておきます。

【甘味Sweetness】
人間にとってはもっとも重要な糖分がエネルギーの源で命に関わるから、甘みは誰もが必要性をもっとも感じる味です。
この大事な化合物を積極的に取り入れるため、糖を食べると快い味を感じるように生命は進化したといえます。また甘いものを取ると快感物質であるβ—エンドルフィンが脳内で増えることがわかっています。

【塩味 Saltness】
塩味は受容体がナトリウムイオンを感じ取ることで感じる味です。
カリウムやカルシウムなどが強くなり、ナトリウムがなくなると人は苦く、あるいは嫌な味と感じます。つまり塩味はイオン化したナトリウムが鍵となる味の感覚です。また人間が美味しいと思う許容濃度が狭いのも塩味です。「塩梅」「塩加減」という表現で知られる通り、塩味に関する言い回しは世界中に存在します。動物にとって糖質同様ミネラルも不可欠なので、関わりが深い存在だからということなのでしょう。

【酸味 Sourness】
酸味も塩味同様、水素イオンの刺激によって引き起こされ、腐敗と醗酵のシグナルと言われています。
人はなぜ酸っぱさを美味しさとして感じるのでしょうか。
それは酸味の正体である酢酸やクエン酸などの有機酸が人体にとってエネルギー代謝を促進する有益なものだからと考えられているからです。有機酸には、摂取した栄養物を効率よく分解する働きがあり、消化・吸収を促進し、栄養物の利用効率を高めてくれます。中でもクエン酸は疲労回復効果で知られている成分であり、食品では酸っぱさの基準となる酸でもあります。

【苦味 Bitterness】
苦味成分は自然界においては毒のシグナルとされ、5つの味の中で人が感じる濃度が最も低いとされます。
つまりちょっとの量で苦味を感じるということです。これは毒をいち早く感じとるセンサーのおかげです。また苦味は経験を積むことで好きになっていく経験味ともされ、大人になるにつれて癖になっていく味でもあります。
代表的な成分は毒性の強い成分も多いアルカロイド類、ステビオシドのようにテルペノイドの成分にも苦味を呈するものもあります。人工甘味料の多くに後味の苦味を感じるものが多いのもテルペノイドゆえのことです。アミノ酸の中にもフェニルアラニンのような苦味を持つ成分もあります。苦味を持つ成分の多くは親油性が多いのも特徴の一つです。ルチンのような配糖体の成分は植物中では苦味を感じないものの、抽出温度や時間によって結びついていた糖が切れて、ケルセチン本来の苦味が出てくる成分も多いです。
その辺りの感じ方(閾値という)が低い人、高い人というのがいます。子供ほど苦味に敏感ですが、歳を取ると苦味に鈍感になっていくのも閾値と関係があります。歳を取るにつれ閾値が低くなり、苦さを感じないのです。苦味の閾値が上がれば、生命感覚も向上するということです。

【旨味とうまみ Umami】
うま味はグルタミン酸ナトリウムを代表とするアミノ酸、あるいは核酸などの成分による味覚のひとつです。
アミノ酸の発見者池田菊苗博士の功績が大です。味覚は食品の味、「おいしさ」を決める上で最も中心となる要素です。人の味センサーは認識に関して違いがあります。甘みや旨味のセンサーはわずかしか存在せず、逆に毒のシグナルである苦味は数十種類のセンサーで見極めます。人の味覚センサーの種類は少なくても、味を見分ける能力は極めて高いです。
でも、この味覚のセンサーが障害を起こすと味覚障害と呼ばれる状態になります。その原因の一つは加齢による味蕾の減少・委縮です。
個々の味蕾にはおよそ50個の味細胞が存在していますが、この味細胞は10~12日という短いサイクルで次々と新しい細胞と入れ替わっています。その数は子どもの頃が最も多く、40歳頃からは急速に減少します。高齢者になると新生児の2分の1から3分の1にまで減ってしまいます。そのため味覚の認知に時間がかかるのです。
2つめに、偏った食生活による亜鉛不足が挙げられます。
亜鉛が不足すると味蕾細胞の新陳代謝が起こりにくくなり、味蕾の働きが悪くなる。味蕾は体の中でも新陳代謝の活発な部位であり、亜鉛が不足すると一番に影響をうける場所です。過剰なダイエットや外食の取りすぎなど食生活の乱れがあると起きやすくなります。それ以外にも唾液分泌の低下もその要因となります。加齢や唾液分泌が低下する疾患によって起こります。また唾液は味の成分を溶解して味蕾へ運ぶ役割を果たしているため、味を感じるには唾液が必要不可欠です。また唾液は味蕾細胞を保護する役割もわかっています。
コンビニなどで手軽に食べ物が食べられるようになった現代社会、また医療の発達で寿命が延び、高齢者が増えてきたことも要因です。まさに現代病と言える味覚障害を引き起こすような食習慣をしていないかこの機会に見直すのも良いかもしれないですね。

次回は、他の感覚、嗅覚や触覚、嗅覚と生命賦活についてお話しします。
>>>生命感覚の賦活と植物療法その2

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