肝臓ケアの伝統食材は腸内改善・延命にも有用か〜ウコン

秋ウコン

肝臓ケアの伝統食材は腸内改善・延命にも有用か〜ウコン

ウコン Turmeric

肝臓のケアだけでなく、腸内環境の改善、認知症予防などの機能性も注目されています。

学名: Curcuma longa L.(クルクーマ ロンガ)

和名・別名:秋ウコン、キゾメグサ、ウッチン、ターメリック、クルクマ、インドサフラン

科名:ショウガ科

使用部位:根茎


leaf3_mini 植物分類と歴史

ウコンは被子植物門・単子葉植物綱・ショウガ目・ショウガ科・クルクマ属に分類される多年草です。原産地は東インド地方、現在ではアフリカ、中南米の熱帯から亜熱帯の高温多湿な地域(インド、中国南部、台湾、東南アジア、沖縄など)で栽培されている熱帯植物となります。世界中で50種類ほどのウコンが見つかっていて、最も多く栽培している国はインドですが、その年間生産量は約35万tにものぼります(2015年現在)。
約50種類あるウコンのうち、インドでは30種類以上の品種が確認されています。ウコンは熱帯植物のため、インドの中でも暑い南部で主に栽培されており、一年を通じて栽培可能ですが、乾季の6月に植え付け、翌2月~4月に収穫されています。日本では沖縄や鹿児島などで栽培されており、沖縄は日本最大のウコンの生産地です。
ウコン類には多くの近縁・類似種があるため、基原植物の分類は難しいといわれています。また日本の「ウコン」は中国では「姜黄(キョウオウ)」、塊根を「鬱金(うこん)」といい、生薬の認識に違いがあります。数あるウコンの中でも、日本で一般的にウコンと呼ばれているものは、ターメリックで知られる秋ウコン、それ以外に春ウコン、紫ウコン、黒ウコンなどが知られています。それぞれ特徴があり、その特徴に合った方法で利用されています。以下に、4つのウコンの違いを簡潔に整理しておきます。

◆ 秋ウコン:学名Curcuma longa L.
初夏から秋にかけて白い花を咲かせます。高さは50~150cm、葉は長い柄のある長楕円形で両面とも無毛でツルツルした手触りです。白い花として見られるものは、多数の苞葉(ほうよう)からなる花穂(かすい)となっています。根茎は主根茎と側根茎からなっていて、肥厚します。その切断面は黄~オレンジ色をしており芳しい香りがあります。
利用できる部分は根茎です。晩秋に地上部が枯れたら掘り上げて、薄く切って生でまたは乾燥して粉末にします。日本では沖縄で広く栽培され、オレンジ色の根茎の断面によって、鬱金(ウッチン)の愛称として親しまれています。着物の染料やカレー粉、たくあんの色付けとしても利用され、機能性成分で知られる色素成分のクルクミンを豊富に含んでいます。秋ウコンは強い抗酸化力を持っているので、肝臓の機能を強化したり、血管の健康を守る効果があることは皆さんもご存知でしょう。
秋ウコンの主な成分
・黄色色素(0.3%):クルクミンおよびその誘導体
・精油成分(約1~5%)、ターメロン、ジヒドロターメロン(約50%)、ジンギベレン(約20%)、シネオール等
秋ウコン
秋ウコン

◆ 春ウコン:学名Curcuma aromatica Salisb.
wild turmericとも呼ばれています。生薬名を姜黄(キョウオウ)といい、春から初夏にかけて赤い花を咲かせるため、春ウコンと呼ばれています。葉の裏面は軟毛がありビロードの手触りがします。根茎の切断面は鮮黄色をしており、日本では沖縄の西表島にも自生しています。機能性成分のクルクミンを少量含みますが、どちらかというと精油成分やミネラルを多く含んでいるのが特徴です。また豊富な食物繊維とミネラル、精油の働きによって、腸に適度な刺激を与えることから、おなかの調子を整えることに用いられています。ただし医薬品原料としては認められていません。
秋ウコンが主に食材、スパイスとして利用されることが多いのに対して、春ウコンは、主として生薬として用いられてきました。ただし中国では秋ウコンを姜黄(キョウオウ、漢名:薑黄)、春ウコンを鬱金といい、日本とは逆の呼び方になっています。いずれも外形はショウガのようであり、お互いが極めてよく似ているので、どこかの時点で間違いや誤解が生じたのかもしれません。根茎の色から判断すると秋ウコンは橙色(だいだいいろ)に近い濃い黄色であり、春ウコンは黄金色と言えるような明るい黄色です。
日本薬局方外生薬規格に収載され、食薬区分では「1-b成分で主として医薬品として使用されるもの」に分類されています。
春ウコンの主な成分
・黄色色素:クルクミンおよびその誘導体
・精油成分(6%)、α、βクルクメン(65.5%)、セスキテルペンアルコール(22%)、カンファー(2.5%)
春ウコン
春ウコン

◆ 紫ウコン:学名Curcuma zedoaria Rosc.
初夏にピンク色の花を咲かせるため、夏ウコンとも呼ばれ、日本では屋久島や沖縄で栽培されており、生薬名を莪朮(ガジュツ)といいます。白ウコンとかハナショウガと呼ばれることもあります。葉表面の主脈に沿って赤紫色の筋があり、また根茎の断面が紫色をしていることから、紫ウコンと呼ばれるようになりました。機能性成分のクルクミンは含まれておらず、精油成分やミネラル、アントシアニンを含んでいるのが特徴となります。血行を良くする働きが古い時代から知られています。日本薬局方に収載される医薬品原料です。
紫ウコンの主な成分
・黄色色素:(0%)
・精油成分(1~1.5%)、ジンギベレン、クルゼレノン、クルクモール、ゼデロン、シネオール、カンファー等
紫ウコン

紫ウコン

これらウコン3種(秋ウコン、春ウコン、紫ウコン)はいずれも花は咲きますが種子はできず、すべて根茎で繁殖(栄養繁殖)する、いわゆるクローン植物です。また気温の低い地方は露地では越冬できません。春ウコンは葉の裏のビロードのような繊毛によって、秋ウコンと見分けることが可能です。左右2列に多数の葉をつけ、茎は葉の基部である葉鞘が折り重なったものなので、偽茎と言われています。高さは1m以上にもなります。春ウコンは春開花しますが開花率は低く20%程度です。
根茎の成分も三者で異なっています。黄色色素クルクミンは秋ウコンに最も多く含まれ、春ウコンの10倍も含まれています。紫ウコンにはクルクミンは含まれていません。精油成分は秋ウコンが1~5%に対して春ウコンは6%と多く成分も異なっています。なお、日本薬局方には秋ウコンは生薬として紫ウコンは医薬品原料としてそれぞれ記載されていますが、春ウコンは記載されていません。
春先には普通の状態(常温)でも冷蔵庫内でも出芽するため、生のままで保つには冷凍庫を用いる必要があります。一般には乾燥したものを粉末にして利用することが多いです。ウコン粉末の一部は糊料を加えて成型され、錠剤製品となります。成分的には、できるだけ低温で乾燥したものがよいとされており、乾燥したものは生重量の約20%前後になります。粉末になった春ウコンの品質のよいものは、鮮やかな黄色(金色)で香りも強く、擂り下ろした生ウコンに近い味と香りがします。

そのほか属種が異なるものとしては、黒ウコンがあります。
◆ 黒ウコン:学名kaempferia parviflo
原産のタイではクラチャイダム(Krachai Dam)と呼ばれ、日本では沖縄で栽培されており、初夏に薄いピンク色の花を咲かせます。上記の3種のようなクルクマ属ではなく、バンウノン属の植物で、根茎の断面は濃い紫色をしており、クルクミンを少量含みます。ミネラルの一種であるセレンやアントシアニン色素も含んでおり、滋養強壮に良いとされています。日本では別名「黒ショウガ」ともいわれています。色からも分かるようにクルクミンの含有量はわずかですが、フラボノイドのメトキシフラボンやアミノ酸を豊富に含んでいます。なかでもアミノ酸のアルギニンは、マカの約2倍も含まれています。他にもアントシアニンも多く含まれ、抗酸化作用などにも効果があるとされています。
黒ウコン
黒ウコン

ウコンの歴史

ウコンの栽培の歴史は古く、インドのアユルヴェーダの薬草としても知られています。そのインドで古くから広範に栽培されてきたことからも、今日ではウコンはインドが原産と考えられています。インドでは釈迦の時代(紀元前5世紀頃)には護摩壇に捧げる植物とされ、「奨水(しょうすい)*」として顔をのぞかせ「生薬」としても登場しています。
* 奨水:七奨水と呼ばれる煎じ薬のようなもの。初期仏典には、ショウガ、ウコン、サトウキビ、ザクロ、バナナ、マンゴー、プドウを使ったことが記されている。風邪や胃腸の調子が悪いときの薬として服用することをすすめていたという。

インドの古典医学書「THE SUSHRUTA SAMHITA(スシュルタ・サンヒター)」のなかにも「血液が流出せざる場合に使う」とか「鎮静効果をもつ植物」として紹介されています。ウコン類が日本や中国にいつごろどのようにして伝播したかは明らかではないですが、少なくとも紀元初めにウコンが倭の国(日本)や周の国(中国)で、薬草として広く認識されていたことだけは確かなようです。特筆すべきは、この記述の「倭の国から周の国に“献じた”」という内容です。
文献を調べていると、中国の古典『神農本草経』にウコンが記載されているという記述がところどころに見られます。しかし実際には『神農本草経』にウコンは記載されていませんでした。
*書名にもある「神農」とは、紀元前2740年頃の古代中国に登場する伝説の人物とされていますが、実際には、農学者的存在だったようです。また「本草」とは中国医学における薬草のことです。

『神農本草経』は、この神農が著した薬草図鑑といわれていますが、この本の実物はなく、西暦500年頃に南朝の陶弘景が本書を底本にして『神農本草経注』として出版しました。この中には365種の薬が紹介されていましたが、ウコンの記載はありません。しかし明時代末の1596年に李時珍(りじちん)の著述により本草書の集大成とされた『本草綱目』(ほんぞうこうもく)にはウコンが記載されています。
また西遊記のモデルとなった玄奘(600~664)の『大唐西域記』の中にもインドの衣食に関する部分では「…身には諸種の香料を塗る。いわゆる栴檀、ウコンである。」と記されています。中国の代表的詩人、李白(701~762)の「客中行」という作品の中に、「蘭陵のうま酒はウコンの香もかぐわしく…」とウコンという文字が見つかっています。西洋人で初めて東洋に渡ったとされる、マルコ・ポーロは福建省の福州という町でショウガを探しに出かけた時に、ウコンに出会い、彼の著書「東方見聞録」の中に記しました。「一見サフランに似ているが、本当はそうでもない。一種の花弁の実も多産し、サフランと同じ用途に使われている……」。

ウコンがヨーロッパの記録に初めて登場したのは1450年頃。ドイツのフランクフルトに「薬種リスト」が出回り、それにウコンがショウガとともに記されていました。16世紀になるとウコンはドーバー海峡を渡り、イギリスでも多くの商人たちが入手していました。それも香辛料としてではなく、着色料として輸入されていたようです。ターメリックという言葉が初めてイギリスで使われたのが1538年といわれています。

では、日本ではどうか。前述のとおり、ウコン類は卑弥呼の時代からありました。幻の女王で霊能力者でもあった卑弥呼はもともと倭人(天照大神ではなかったかという説もある)、中国(周の国)の王にウコンを献上しました。「魏志倭人伝」に書かれている、倭人が体に巻きつけている布は、ウコンで染められたものだといわれています。さらに卑弥呼の時代から200年経った5世紀前半の遺跡・月ノ輪古墳(岡山県)からは、数多くの染め糸が出土しました。それらの糸は、赤、黄、青、緑に染められていて、その染料として黄色はウコン、緑はウコンと藍をかけ合わせたものではないかと考えられています。そして江戸時代、発明家の平賀源内(1726~1779)は、薬草の研究家としても一流でした。彼の著書「物類品隲」の第3巻にウコンについての記述があります。この時代は八代将軍吉宗の治世であり、いまの小石川植物園が薬草園として作られたように、薬草の研究には非常に力を入れていました。大河ドラマ「篤姫」でもウコンが大きくかかわっていたのはご存知のとおりです。

現在の日本最大のウコンの産地は沖縄です。
琉球でウコンが栽培され始めた時期はかなり古いと考えられますが、15世紀の交易品(山田長政の頃)としてリストの中にあるので、効能効果が認められた価値ある商品となっていたようです。1430年に琉球王朝が誕生し、南方の諸国と交易のあった琉球王朝はウコンを入手し、1647年には砂糖とともにウコンにも専売制度を敷きました。ウコンは薬用以外にも食用や染料、花穂は観賞用としても用いられるなど利用範囲が広いので、当時の庶民にとっては必要性が高く、王朝が財源を確保するには最適なものでした。この専売制により、ウコンの栽培は厳重な警戒のもとに実施され、植え付けの時は必ず王府の監視員が立会い、一人一人に根茎の数を確認し、作業終了後は服装検査まで行ったといわれています。
沖縄の他には鹿児島も産地のひとつです。1609年、琉球王朝は薩摩藩の支配下に入り、ウコンを薩摩藩へ販売、薩摩藩はそれを染料や生薬として全国的に流通させるようになりました。当時の資料によると、ウコンを琉球(沖縄)の農民から買い上げた価格の40倍以上で大阪の商人に売っていたという記録もあります。幕末の時代、薩摩藩が500万両ともいう巨大な借金を返済し、その後の10年で50万両という大きな蓄財をなした背景には、このウコンの貿易もあったようです。この蓄財で外国の優秀な兵器を買い、その力を以って徳川幕府を倒す原動力にしたわけです。琉球同様、薩摩でも、藩の専売商品として厳しく管理され、価格が下落しないように生産調整もされていました。
こうして、西洋医学が入ってくるまでの間、日本でもウコンは万能薬として盛んに用いられていったのです。


leaf3_mini 成分ほか

・黄色色素のクルクミノイド類(主にクルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミン)が3~6%含まれる。
・精油(4~5%)には、ターメロン、セスキテルペン類などが含まれる。この他、糖質、カリウム、ビタミンC、カロテンなどを含む。


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

 ウコンの食経験

ウコン(ターメリック)と言えばカレーです。
ウコンが長い間継続して栽培され利用されてきたのは、本来その栄養・薬効を含め体に良いからであったに違いありません。薬としてではなくカレーなど常食するものにウコンを取り入れた先人の知恵は、まさに「薬(医)食同源」でしょう。熱帯地方の高温多湿の環境下ではとりわけ食物の腐敗が早いだけでなく、さまざまな微生物が繁殖しやすいです。当然、病原菌やウイルス病が広まるのも速いです。そのような条件下で、健康を保ち病菌に感染するのを防御する力をウコンに見出したのではないでしょうか。まさに現代版の腸管免疫です。しかもこの植物は栄養繁殖のみであり、いわゆる品種改良が極めて困難な植物です。そのために安定した品質を維持する上でも都合が良かったのです。

ところで、ガラムマサラとカレー粉の違いはご存知でしょうか? 飲食関係の方ならおおかた知っているかもしれませんが「ターメリックとレッドチリを入れるのがカレー粉、入れないのがガラムマサラ」です。インド人に言わせると、緑黄色野菜や色合いの強い食材の料理にはターメリックは入れないらしいです。理由は色を濁らせるから。またクルクマ属ではないけれども親戚にあたるショウガ科のなかには、私たちの食生活にもなじみ深いショウガやミョウガがあります。これらはウコンと違い、かなり北方の地域でも栽培できます。日本国内で広く栽培される理由も、寒さへの強さによります。これらにも薬効があることが知られています。日本ではウコンよりもショウガのほうが広く受け入れられました。食事を豊かにする薬味としてだけではなく、体にもいいという先祖の生活の知恵だったのでしょう。

ウコンに関しては文化的にも興味が尽きません。熱帯アジアでは、ウコンで着色した米や木綿を結婚式やお祭りに多用し、お守り(魔よけ)にもしているところが多いです。たとえばバリ島の結婚式では、新郎新婦のテーブルに「芭蕉の葉にウコンの根とチャンパカという木蓮科の花を載せた飾り」を用意するそうです。またインドでは、紀元前5世紀頃にはウコンが仏陀の護摩壇に捧げる植物とされていました。ヒンドゥー教ではウコンを神聖な植物として考えられているためなのか、人々が身につけている銅製のお守りの筒や、儀式に使われる糸のほとんどは、ウコンで染められているといいます。インドでは結婚式の当日に花婿と花嫁が全身にウコンの粉末を塗り、いざ式になると、二人はウコンを火に焚べて結婚を祝うそうです。
また、ウコンは化粧品としてインドの女性たちに愛用されています。ウコンにレンズ豆の粉と紅色のサフランを加え、それを肌に塗るというものです。さらに生ウコンとレンズ豆をすり、牛乳で練ったものは顔のシミを防ぐのにいいそうです。ぜひお試しいただきたいです。ウコンは、インドからやがてシャム(現タイ)の宮廷にも伝わり、女官たちもウコンを肌に塗っていました。「昔の宮中の女官たちはウコンを塗っていたから肌が黄色かった」という文献もあります。昔のタイの宮廷の女性たちはウコンで化粧をしていたようです。タイでもインドと同じように結婚式にウコンが使われ、式の前、花嫁はからだを洗い、ウコンを肌に塗るといいます。また出家して僧侶になる時には、髪を剃り、その後にたたきつぶしたウコンを塗るそうです。またサルタン(回教国の君主)の厳粛な式典や祝宴に出席する時には、人々は必ず上半身にウコンを塗ります。そしてマレーシアには、ウコンの粉末を産後の女性の下腹部につける風習が残っています。さらに赤ん坊のヘソの緒の切り口にウコンを塗る風習もありました。これはヘソの緒の傷を癒すだけでなく、悪霊から女性や赤ん坊を守るためだとされています。

 ウコンの機能性

前述のとおり、アユルヴェーダの古典医学書スシュルタ・サンヒターのなかに、ウコンは「血液が流出せざる場合に使う」とか「鎮静効果をもつ植物」として紹介されています。ヒンドゥー教ではウコンを神聖な植物として考え、人々が身につけているお守りや儀式に使われる糸はウコンで染めています。インドのベンガル地方の村では、子供たちがちょっとした怪我をしたときなどに“ウコンでも摺りこんでおけ”などという風習もあるそうです。さしずめ日本での民間療法の一つ「“あかぎれ”に生味噌を摺りこんでおけ」と同じような感覚なのでしょう。
ウコンには殺菌作用もあり、病原菌を寄せつけないと言われています。かつてのインドでは毎日の沐浴の後に、ウコンを擂ったものを油とともに体に塗る習慣があったようです。またタイの百科事典「サーラーヌコムタイ」には、次のような記述があります。「その昔、タイにおけるウコンは肌につける香料としてもっとも愛用されていた。水浴びなどした入浴後、ウコンの粉末を体に塗って使用されていた。ウコンの効用という点では、肌荒れなどの治療や予防という面で、効果があることがよく知られていた。虫さされやそのほかの原因による不愉快なかゆみに非常に薬効があると愛用されていた。」
また漢方では、上薬、中薬、下薬(または上品(じょうぼん)、中品(ちゅうぼん)、下品(げぼん))の三分類があるが、春ウコンは上薬とされており、副作用のない安心できる薬とされています。ちなみに上薬は毎日飲んでも大丈夫な保健薬で、中薬、下薬は病気のときに限って飲む治療薬とされています。

ウコン類は抗菌作用、鎮痛作用、胆汁分泌促進作用、血圧降下作用、子宮収縮作用、コレステロール分解作用、抗腫瘍作用、胃腸管系作用など多岐にわたって研究されています。紫ウコン(ガジュツ)は医薬品芳香健胃薬の原料として日本薬局方に収載され、生薬として古くから胃腸管系の病気に使用されています。秋ウコンは日本薬局方外生薬規格に収載され、そして春ウコンは医薬品原料としては認められていませんが、どちらも伝承的に肝機能によいと言われています。

伝統的食材と機能性研究に関しては、時として特許侵害のトラブルがおきやすいようです。
今でこそ伝統知識は「種の多様性条約」で保護されることになっていますが、そのきっかけにもなった訴訟を紹介しておきます。
1993年アメリカでターメリックの治療目的使用が特許申請されたことがありました。1995年3月28日に米国特許5,401,504を取得、譲渡人はミシシッピ大学医学部です。これに対しインド政府はウコンは伝統的知識で、アユルベーダで広く用いられている治療方法であるので特許にはならないと主張し裁判を起こしました。ウコンは南アジア諸国でよく使われる香辛料ですが、はるか昔からその薬効が知られていたもので、特許が継続している各国では大きな経済的影響が出てしまっていたという背景があったのです。
結論は、原告インドは巨額の訴訟費用を負担して特許は無効にすることができました。「種の多様性条約」が発効する前の特許裁判事件でした。この事件は結構有名でこの特許無効は伝統的知識を端緒として米国で特許が無効になった最初の例となりました。

ウコンは過剰摂取で肝障害が生じることがあります。
その原因はウコンに含まれている鉄分で、この鉄分を少しでも低減させるために抽出エキスを用いることが推奨されています。この抽出エキスの主な成分がクルクミンです。この黄色の色素はクルクミノイドといわれるポリフェノールの一種で、3種類の混合物のクルクミン、デメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミンからできています。これらが活性を示す化合物です。

クルクミン
クルクミン構造式
クルクミンは2つの互変異性体のケト・エノール体が存在し、結晶になるとケト体、溶液中ではエノール体になる。なお固体より溶液中においての方がエネルギー的に安定する。クルクミンは酸性~中性溶液下では黄色であるが、アルカリ性の溶液では赤色である。

構造式
ケト-エノール互変異性

ウコン色素としては鮮やかな黄色が有名ですが、酸性~中性条件の溶液中では明るい黄色を、弱酸性(アルカリ)条件では赤褐色(赤茶色)を呈します。ウコンと同様に赤色の色素を持つものにベニバナ、サフランがあり、料理の色付けに使われています。
このクルクミンは秋ウコンに最も多く、春ウコンの3倍以上含まれています。紫ウコンにはない機能が秋ウコンと春ウコンにはあります。紫ウコン(ガジュツ)には、クルクミンは含まれていません。そのため紫ウコンは医薬品芳香健胃薬の原料として主に、肝臓ではなく胃腸の生薬となります。
抗炎症作用、抗がん作用
日本では肝臓のケアで知られる秋ウコンですが、世界的には抗炎症作用、抗がん作用を目指した研究が進められ、これらの作用はクルクミンとその代謝物によることが明らかにされています。国内研究では名古屋大学の大澤俊彦先生の報告で、クルクミンの代謝物はUGT、SULT以外に、シトクロームP-450により生じるテトラヒドロクルクミン、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下GST)によるグルタチオン抱合体の存在が示唆され、クルクミンの多様な効能発現の解明も進んでいます。
クルクミンと腸管免疫
またクルクミンの腸管免疫との関係も注目されています。クルクミンも腸から吸収されますが、パイエル板のポケットにスッポリ入るサイズに微細化されたクルクミンは腸管免疫機構を適度に活性化するため、免疫調節作用が期待されています。パイエル板の小さなポケットに食品成分などがスッポリと入り込むと、腸間膜リンパ節から免疫細胞が誘引されて、免疫が調節されることが知られています。この腸管免疫機構の活性化を利用すれば、免疫のバランス異常を調節できるのではないかと考えられているわけです。
認知症の予防
さらにクルクミンの生理機能は生活習慣病の予防だけでなく、脳内老化を抑制し認知症の予防にも期待できるのではないかと研究が進んでいます。国立長寿医療センターの研究ではクルクミンをはじめとする「抗酸化フードファクター」による老化制御が報告されています。
クルクミンの代謝物であるテトラヒドロクルクミンがレスベラトロールよりも強力な効果があることが報告され、カロリー制限による寿命延長に重要な役割を果たす転写因子であるFOXOの核内局在誘導作用によって、寿命延長にも関与しているようです。

そのほかクルクミン以外では、秋ウコン中に存在する機能性成分として注目を集めている「ビサクロン」が知られます。
2014年8月に開催された「日本食品科学工学会 第61回大会」で発表されました。「ビサクロン」がエタノール誘発肝細胞傷害抑制活性を有すること、「ビサクロン含有ウコンエキス」のもつ酸化ストレスの抑制や抗炎症作用等の機能が示されています。食品会社での商品化も行われているのでご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 ウコン摂取の注意点

ウコンの色素成分であるクルクミンは国際機関JECFAがADI(一日許容摂取量)を体重1kg当たり3mgと設定しています。これは体重50kgの人で150mgとなります。ADIは人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に影響を及ぼさないと判断される量です。このため短い期間で摂取量が若干上回ったとしても、すぐ問題になるわけではないですが、摂りすぎには注意が必要です。
前述の通り、ウコン摂取が原因と疑われる肝機能障害の症例が報告されています。これはウコンに含まれる鉄分の影響とウコンに対するアレルギー反応(ウコンの分解物が肝臓でタンパク質や細胞などと結びつくと、人によってはそれが免疫系から異物と認識され、肝臓が攻撃を受けてしまうことがある)が考えられ、人によっては注意が必要です。
肝臓に問題のある方は鉄分が肝臓に蓄積されやすく、鉄分が多く含まれるウコンを長期間にわたり多量に摂取すると過剰に溜まった鉄分の影響により、肝臓がさらにダメージを受けてしまうことがあります。C型肝炎や非アルコール性脂肪肝炎の方については、鉄分の摂取上限推奨量は1日当たり6mgとされています。ウコンを含む健康食品を利用する際は、鉄分が少なく管理されたものを選択することが大切です。
数年前に消費者庁からも鉄の過剰症と食事からの効率的な鉄の摂り方について通知が出たように、鉄分は貧血の方、妊婦・授乳婦の方、精神疾患を有する方、また食生活に注意したい方など、それぞれに応じた必要性が議論されていますが、最近ネット上では鉄分の過剰摂取を誘発してしまいそうな記事も見受けられます。ご自身の体の状態を理解しながら、うまく自然の食材を活用する方法を身に付けたいものです。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)

「ハーブのすべてがわかる事典」ジャパンハーブソサエティー著
「沖縄の薬草百科」多和田真淳著 新星図書
「日本薬草全書」田中俊弘著 新日本法規

「スパイスのサイエンス」武政三男著
「スパイス完全ガイド」山と渓谷社
「ハーブ&スパイス大事典」National Geographic Partners, LLC
「アーユルヴェーダのハーブ医学――東西融合の薬草治療学」デイビッド フローリー著
「新版 インドの生命科学 アーユルヴェーダ」上馬塲和夫著

「漢方薬理学」南山堂 高木敬次郎ら 監修
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「新しい薬用植物栽培法――採収・生薬調製」佐竹元吉ほか著

「医学生のための漢方・中医学講座」入江祥史著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

データベース・公文書等
Considerations of Two EU and US Disputes on Medicinal Plant Patents from Traditional Knowledge and Public Interest Hajimu MORIOKA PATENT STUDIES No.40
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus
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 健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳

「今、話題のウコンとその仲間、薬用植物シンポジウム要旨集」1999/5広島大学
「日本医事新報」 no.3702(1995)

「畑作物の収穫と貯蔵」国立歴史民俗博物館
「図録 薩摩のモノづくり――島津斉彬の集成館事業」 尚古集成館

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