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フェンネル (Fennel)
Fennel has two face, as,cough& Aromatic stomachic.
フェンネルは西洋では気管支系のトラブルに、東洋では消化器系のトラブルに伝統的に使用されてきたハーブです。
学名:Foeniculum vulgare (フォエニクルム・ベルガレ)
和名・別名:スイートフェンネル、フヌイユ、ういきょう(茴香)
科名:セリ科
使用部位:種部
植物分類と歴史
フェンネルはセリ科ウイキョウ属の多年草植物で、原産地は地中海沿岸から西アジア(ヨーロッパやインド、中国、エジプト)などに広がる。日本では、長野県、岩手県、富山県などで多く栽培されており、沖縄料理においては『いーちょーばー(胃腸葉)』と呼ばれ、整腸作用のある島野菜として珍重されている。日当たりさえよければどこでも育つといわれ、草丈1~2mにもなる大型のハーブだ。全体に黄色味がかった緑色をしていて、葉先が細かく、ふさふさに分かれ夏になるとかわいい黄色い花をつける。葉・茎・種子すべてを利用することができる。
日本ではあまり野菜というイメージは少ないがヨーロッパではスーパーでもよく見かける野菜又はハーブとして知られ、英語でフェンネル(Fennel)、フランス語で(Fenouil)、イタリアではフィノッキオ(Finocchio)と呼ばれ、イタリア料理の食材としても知っている方も多いだろう。
通常フェンネルと呼ばれるのはハーブとして上の葉の部分を指し、フィノッキオは野菜として根元近くの肥大した鱗茎を食用とするものを指す。
フレッシュハーブとして使う葉は、その花が開く前に収穫をする。そして秋には茎全体を刈り取って乾燥させ、種子を収穫する。種類としては株の根元が白く肥大するフローレンスフェンネルは野菜として利用される。また葉が赤銅色になるブロンズフェンネルなどの種類がある。ティーや生薬として使用されるのはスイートフェンネルと呼ばれる品種になる。
学名の意味・名前の由来
フェンネル、フヌイユ、フィノッキオ、ウイキョウなどさまざまな名前を持つのも地中海からヨーロッパ、中央アジア、中国、日本と東西またにかけてシルクロードを通って伝わってきた植物らしいと言える。(地中海沿岸のどこにでも生えている野草でその後古代ローマやエジプトで栽培が始まり、中国を経由して日本に伝わったという説が有力だ。)学名は黄緑色の茎の色から「Foeniculum フォエニクルム(枯れ草)」の名がつけられ、種小名の「vulgare ベルガレ」は「普通の」の意味とされる。
フェンネルがシルクロードを通って中国に伝わると「茴香」(カイコウ)と呼ばれる。これは見た目からではなく、「魚の香りを回復する」ことから名づけられたとされる。ただしこれについては回復するのが、魚の香りなのか、それとも醤油の香りなのか、あるいは香りが辺り一面に漂うことからつけられた。など諸説あるようだ。
日本では同じく「茴香」と書くが、鎌倉時代などに流行した唐音にならって、カイコウではなく、ウイキョウと呼んでいる。深江輔仁の「本草和名」(918年)に「和名 久礼乃於毛」(くれのおも、呉母)という名で登場している。
また俳句に詳しい知人に聞いた話しだが、かつて松尾芭蕉の門下、向井去来や野沢凡兆が残した俳諧七部集『猿蓑』所収の歌仙「市中(まち)は の巻」では
「茴香の実を吹落す夕嵐」 去来
「僧ややさむく寺にかへるか」 凡兆
「さる引の猿と世を経る秋の月」 芭蕉
という流れがあり、ちょうど種子の収穫時期にあたる「茴香の実」が秋の季語として使われ、一般にも知られた植物であったようだ。
ところで中国では「茴香」は厳密には、「小茴香」と「大茴香」そして、「姫茴香」と使い分けられている。いわゆるフェンネルは「小茴香」であり、「大茴香」は八角(八角茴香)ことスターアニス、「姫茴香」はキャラウェイのことである。みな香りが特徴のスパイスなので、香りが巡る(茴香)と称したのだろうと考える。
フェンネルの歴史
古代エジプトではすでに医学に利用されていた。エーベルス・パピルスと呼ばれる紀元前1550年頃に書かれた医学書(パピルス)で、神官文字で「フェンネルがあるのに摘まないのは愚か」と書かれているほど、多くの効能を活用していたようだ。
栽培も盛んに行われ、歴史上もっとも古い作物のひとつとされる。古代ギリシャ神話には、巨人神の一人、プロメテウスがフェンネルの茎に太陽の火を隠して地上に降り、人間に初めて火を与えたと書かれている。
フェンネルといえば、あまりにも有名な古代逸話が2つあるので、簡単に紹介しておく。
愛と憎悪のフェンネル
ギリシャ神話に出てくるフェンネルは燃え尽きる想いを讃える女神のような存在として描かれている。フェニキアの王キニュラスとその王女のミュラの息子であったアドニスは、ギリシャ中の女性が羨ましがる程の美少年だった。
当時ギリシャの女神の一人、アフロディテは人間の子アドニスに恋をしてしまう。アドニスの母親の亡き後、養母となった冥府の女王ペルセポネもまた、アドニスに恋してしまう。気がつくとアドニスを渡したくなくなり、そしてついに、2人の女神は争いになり天界の裁判所に審判を委ねることになった。
その結果、1年の3分の1は、アドニスはアフロディテと過ごし、3分の1はペルセポネと過ごし、残りの3分の1はアドニス自身の自由にさせるということになる。(まるで大岡裁きのよう・・) しかしアドニスは自分の自由になる期間も、アフロディテと共に過ごすことを望み、その結果、ペルセポネはアドニスの態度に大いに不満をもつようになるわけで、そこでアプロディーテの恋人であった軍神アレースに、こうそそのかした。
「あなたの恋人は、あなたを差し置いて、たかが人間に夢中になっている」と。
これに腹を立てたアレースは、アドニスが狩りをしている最中、猪に化けて彼を殺してしまった。。。 女神アフロディテは悲しみにくれ、涙を流した。その悲しみを受け止めるように一気に咲き誇りあっという間に散って天に召されていく・・その植物こそが、フェンネルだった。
1年に一度、その姿を植物に変え、死んでいったものたちの燃え尽きる想いを受け止めるフェンネルはその後もたびたび人間たちのそばでひっそりと咲き続けては、悲しみを全部引き受けて散っていってくれるのだった・・という結末。
当時の人々は地中海沿岸の道端にひっそりと咲くフェンネルに、悲哀を感じたのかもしれない。
讃えるフェンネル
さらに有名な話に、フェンネルとマラソンの話がある。(あの遠距離走のマラソンだ)知らない方のためにちょっと紹介しておく。
ギリシャ軍の兵士の一人に、「Marathron」(マラトン)という街からアテネの街まで、42.195キロを駆け抜け、ギリシャ軍の勝利を伝えて走り息絶えた少年兵士がいたという話。
その少年の想いを大切に受け取ったギリシャの勇者たちは、マラトンとアテナイの街を結ぶ街道を、びっしりとフェンネルの小さな花たちで埋め尽くした。(フェンネルの花たちは、独特な甘い香りをただよさせていました。この道を駆け抜けていった若き兵士の想いを多くのギリシャの民に末永く伝えるために。。)という話だ。
後にギリシャの子孫たちはイスラムのキャラバン隊とともに東洋に向かい、「茴(めぐる)香りの小さな花の精」として、名前を『小茴香(しょうういきょう)』と呼ぶようになった。という話もある。なんとも叙事詩的な話だ。植物と人間の関係は様々な神話・逸話から感じられる。
ローマ人にもとりわけフェンネルは珍重されていた。詩人のワーズワースによれば「古代ローマの剣闘士は、荒々しい喧嘩好きが集まっており、彼らはフェンネルの効果を期待して食事にそれを混ぜていた。そして勝者はフェンネルの花冠をつけていた」と記している。
ローマ人に追われて大移動したケルトの民にとって、フェンネルは悪魔や災難から身を守るハーブでもあったようだ。また万病に効く9つの聖なる薬草のひとつでもあった。ケルト民族の末裔がイングランドの地に渡りアングロサクソンとなり、そのケルト神話の中で「9種のお守りのハーブ」の一つとしてフェンネルは大切な位置を占めていた。
この神話では、薬草の神ヴォトンがこの世に9種の聖なるハーブを与えたとされ、のちのイングランドの10世紀の草本書でも、フェンネル、カモミール、タイム、パセリ、セロリ、ローズマリー、ニガヨモギ等があり、毒や感染を治療するために使われていた。そもそもケルトでは9は特別な数字のひとつで、完結や変化再生を表す数字なのだそう。東洋でも偉大なる吉数と言われた時代があったようだ。
のちのシェイクスピアのハムレットでもオフェーリアが国王にフェンネルを差しだすシーンがある。これはフェンネルが「へつらう」という象徴でもあったことに由来するらしい。
今でもイタリアではへつらう時の言葉に、「フェンネルを与える」という表現がある。さらに中世に入ると魔女よけとして、鍵穴につめたり、ドアや窓に下げたりした歴史がある。特に、夏至の前夜は魔女が動き回ると考えられていた。
安全性と相互作用
安全性:クラス1(適切な使用において安全)
相互作用:クラスA (相互作用は予測されない)
(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
学術データ(食経験/機能性)
フェンネルは古代ギリシャやエジプト時代から薬用としてだけではなく、料理の食材としても栽培されてきたハーブだが、特にスイートフェンネルは古代エジプトでは、すでに栽培が行われていた。古代ローマ時代になると強壮用の食物として用いられていた。その後ヨーロッパに北上し、古くから薬草として人々の生活の中で欠かせないハーブとなる。「フェンネルを見ても摘もうとしない者は悪魔だ」という言葉があるほどだった。兵士は戦場に行くときには、種子を携帯して胃腸を保護し、妻たちは減量のために使用していた。ヨーロッパで食に活用されていった背景は、古代フランク王シャルマーニュ(カール)大帝(771-814)がえらく好み、宮殿に栽培させていたことが大きい。盛んに食事に用いられるようになったのは中世以降で、特に種子は目に良く、若返りの効果もあると信じられていた。そのため、当時は煎液を洗眼用に使ったり、浴剤としてふんだんに使ったりしていた。また家庭の常備薬のように消化促進、咳止めなどにも使用されていたという記録も残っている。また新大陸時代の清教徒時代のアメリカでは、空腹をまぎらわすためにフェンネルやディルの種子を噛んで礼拝のときの空腹を紛らせたことから、「礼拝の種」とも呼ばれていた。
中国では諸説あるようだが、フェンネルの全草に強い芳香があるため「香りを回らす」という意味で、ブレンドスパイスの五香粉(ウーシャンフェン)※や漢方薬にも用いられてきた。日本にも平安時代に渡来し、薬用として利用されていった。
※五香粉(ウーシャンフェン)とは、中国料理に使われる代表的なブレンドスパイスのことを指す。5種類のスパイスが使われ、陳皮、シナモン、クローブの3種類が共通で、残り2種類は地方によって異なる。
ところでフェンネルと一言で言っても、利用できるのは3つのパートがあり、そのパートによって使い方や食べ方が異なる。ひとつは白く膨らんだ「鱗茎」と呼ばれる根元のカブのような部分。そして綺麗なグリーンで針のような葉の部分。最後は秋に採れる種の部分だ。フェンネルの鱗茎部分は、ちょうどセロリの根元のような食感と独特の香りがあり、生のまま、又は加熱調理して食用とする。葉の部分はキッチンハーブとして利用、サラダの他、刻んで和え物に加えたり、スープに加えるなどして使われる。種は、ハーブティーとして飲用にされている。簡単に紹介しておく。
・フィノッキオ=フェンネルの鱗茎
フェンネルの根茎はイタリアではフィノッキオと呼ばれ、セロリのように野菜として売られている。そのため家庭でもセロリのようにバリボリと生のまま食べられる。レストランやビストロでもサラダのような形でメニューに載っているのを良く見かける。丁度セロリの根元のような食感と独特の香りがあり、生のまま、又は加熱調理して食する。生で食べるとアニスのような、甘いセロリのような香りがとても強く、かなり好き嫌いの分かれる野菜だ。しかしヨーロッパでは比較的一般的な野菜の1つなのだ。
フェンネルは火を通すと強い香りが和らぎ、ぐっと食べ易くなり、甘みも増すし、食感もホクホクっとするので、ちょっと苦手意識のある人にもお勧めだ。家庭栽培ではスィートフェンネルが一般的だが、野菜としては、茎の根元が肥大するフローレンスフェンネルが主に売られている。丸々とした根元を刻んでサラダにミックスしたり、大きく切ってスープやグラタンに使われる。
・フェンネルの葉
葉の部分はハーブとして利用される。どちらのフェンネルも葉は細かく刻んでサラダや魚類の香り付けに。枝のまま魚の腹の中に詰め、オーブン焼きにするのも定番だ。サラダや和え物に加えたり、スープに加えるなど多岐にわたる。イタリアでは、パンを焼くときにフェンネルの葉をパン種の下に敷いて風味づけとして使われる。他にも、ソースやスープ、若葉はオリーブ油やお酢に漬け込んで調味料としても使われている。魚のスープをとるときに臭み消しとして、数種類のハーブと合わせて、「ブーケガルニ」として使われる。各地方により中に入るハーブはまちまちですが、フェンネルはこの中に欠かせないハーブです。フランスの魚料理のブイヤベースにも使用されます。
*ブーケガルニとはフランス語で「香草の束」のこと
夏になると黄色い小さい花を多数枝先に複散状に咲かせ、挽夏~初秋には小さい米粒大の果実をつける。やや青味が残っているうちに茎ごと切りしばらく乾かしておくと茶褐色になり、揉んだり叩いたりすれば、バラバラとたくさん収穫することができる。これがフェネルシード。
アネトールを主成分とする独特の芳香とかすかな甘味が特徴。主に香辛料として様々な料理に用いられており、なかでも魚料理と相性がよく(魚臭さなどを消臭する効果があり)、古くから魚料理に合う「魚のハーブ」といわる。魚を調理する際に振りかけるだけで、魚臭さが無くなり、食欲をそそられるフェンネルの甘い香りが漂う料理になる。かつてイギリスのハーバリスト、ニコラス・カルペッパーは、「未だに忘れられていない古き良き習慣は魚をフェンネルと共に煮ることだ。」と記している。乾燥させた種子はアニスに似たすっきりとした甘さとぴりっとした風味があり、フェンネルは魚の香草焼きに欠かせないハーブとなっている。
またほのかな甘みとピリッとしたスパイシーな風味は、カレーなどのインド料理のスタータースパイスとしても使われるのでご存知の方も多いだろう。またハーブティーとしても、咳止めのハーブティーとしてヨーロッパの薬局では風邪のシーズンに子供達に振舞われる。その他、パンやお菓子に練り込んで焼いたり、リキュールの香り付けなどに使われる。
ところで、見たことがある方も多いかもしれないが、インド料理店でレジ横などにカラフルなアメのようなものが置いてある。あれは「ソーンフ」と呼ばれるもので、実はフェンネルをカラフルな砂糖でコーティングしたものだ。
そもそもソーンフというのがヒンディー語でフェンネルのことで、インド料理店ではガムのようにお口直しとして使われる。お口直しの他に、良くフェンネルが使われるものに漢方薬がある。胃腸薬などに利用されていることは知られていると思う。この薬の主成分は「安中散」という漢方薬ですが、それはウイキョウつまりはフェンネルやケイヒつまりはシナモンなどの混合粉末のことだ。
フェンネルの機能性
種の精油は全体の約8%含み、その中のフェンチン (d-fenchone) とアネトール (anethole) 、エストラゴン (estragon) が芳香成分。その他にペトロセニン酸、オレイン酸、リノール酸、フラボノイド (ルチンなど) 、ビタミン類、ミネラルなどが含まれている。
アネトールは分子構造が女性ホルモンのエストロゲンと似ていることから、生理不順や更年期障害の改善、授乳期の女性では母乳の出をよくする効果が期待されている。消化促進作用や去痰(たん)作用がある。フェンコンも精油成分で、胆汁の分泌を促して消化をよくする働きや、鎮痛・鎮静作用などがある。
ギリシャ時代にはシードばかりではなく、葉や根もしぼったり、煎じたりして、目薬やヘビやイヌの咬傷にも使われていた。ディオスコリデスは「薬物誌」で、葉や種子を食べると乳の出が良くなることや、生理周期が整うこと、茎の汁を目薬にすることなどを記載している。
またそれ以外にも食欲を抑える働きに利用され、古代ローマの女性たちはダイエットの特効薬として愛用した。またダンデライオンなどと同様、乳気に飲むと母乳の出をよくすることでも知られるが、子宮を刺激するので、妊娠中は避けたほうが良い。また大量の使用も避けるべきだ。近年では、利尿作用と発汗作用があり皮下脂肪中の老廃物を体外に排出すとされ、ダイエットハーブとしても注目されているが、エビデンスは定かではない。
そういったこともあり、当スクールでは、もっぱら咳止めと胃腸薬としての使い方を推奨している。ドイツでは、小児科病院でよく処方されているハーブだ。
またフェンネルのエッセンシャル・オイルも強い薬効があり、はちみつと一緒にお湯に溶かしたりしたものは、咳止めの薬として使われてきた。フェンネルはもっぱら西洋では気管支系の自然役として、また東洋では古くから伝統的自然薬の芳香性健胃剤として位置づけられ、消化を促すと共に駆風作用によって鼓腸(胃または腸管内にガスが充満する状態)や疝痛に用いられている。
ここで芳香性健胃剤について少し整理しておく。
芳香性健胃剤とは・・
漢方では散寒薬として体内の冷えや冷えによる症状を改善する働きとして利用され、インドの伝統医学アーユルヴェータでも、フェンネルは消化薬とされている。身体全体を温めることで冷えからくる嘔吐や胸やけ、食欲不振、腹痛に自然薬として活用される。また芳香性がストレスを発散し、停滞した胃腸の働きを活発にして胃痛を和らげる働きがある。漢方薬の安中散に含まれる桂皮、縮砂(しゅくしゃ)、良姜(りょうきょう)、茴香(ういきょう)は香りで胃腸の機能を調える芳香性健胃薬だ。特に消化器系を暖める作用がつよく胃腸の働きを活発にする。また腸の動きをよくしてガスを出しお腹のはりをとる駆風作用にすぐれている。
自然薬にはその成分の特性により大きく3つに分類される。
苦味健胃薬
オウバク、センブリ、ゲンチアナ、ニガキ
芳香性健胃薬
ケイヒ、トウヒ、ハッカ、ウイキョウ、コウボク、チョウジ
芳香性辛味健胃薬
ショウキョウ、サンショウ
生薬処方としては、漢方方剤の安中散(あんちゅうさん)や、太田胃散(漢方+西洋薬の処方)、口中清涼剤の仁丹などが知られる。
西洋では主に、フェンネルは鎮痙作用や去痰作用をもつため上気道カタルにも用いられる。こうした働きはセリ科のアニス(Pimpinella anisum)やキャラウェイ(Carum carvi)とも共通するため“AFC tea”として広く用いられ、こうした作用は3種に共通する精油成分であるトランスアネトール、エストラゴール(メチルカビコール)、フェンコンなどによるものと考えられている。
講義でこの3種のハーブを「セリ科3兄弟」として紹介している。
特にドイツでは、この3兄弟の精油成分配分の違いにより、駆風作用の効力と去痰作用の効力を以下のように区分している。
駆風作用の効力
キャラウェイ>フェンネル>アニス
去痰作用の効力
アニス>フェンネル>キャラウェイ
それぞれの精油成分配合は以下のとおり。
フェンネル: 50〜70%
アニス: 80〜90%
キャラウェイ:d-カルボン50〜60%、d-リモネン25〜45%
フェンネルはちょうど中間に属し、どちらにも程よく有用なのだ。
それ以外にもドイツではフェンネルは催乳の目的にも用いられることがあり、また甘い風味を生かして矯味(きょうみ)※、矯臭(きょうしゅう)※を兼ねた鎮咳、去痰駆風剤として、小児科でフェンネルシロップやフェンネルハニーなどの剤型で活用されている。ドイツでは赤ちゃんも生後2週間からフェンネルティーを飲むことができる。
矯味:苦い薬物に添加して飲みやすくすること。
矯臭:匂いのある薬物に添加して飲みやすくすること。
以下各国でどのような目的に用いられているかを整理しておいた。
各国でのフェンネル処方
○ドイツ
多くのハーブを伝統的自然薬として用いることが認められているドイツでは、フェンネルを医療用に用いる重要な植物の一つとして位置づけている。かつてコミッションE(薬用植物評価委員会)では、医薬品として用いるフェンネルの精油含有量を先述のように規定した上で、消化不良、胃腸障害、上気道炎などへ使用することを認めている。
消化不良改善薬、咳止めシロップ、胃薬などに配合されるほか、小児科用薬として、フェンネル水、トローチ、フェンネルジュース、フェンネルシロップが用いられている。
○フランス・イギリス
ドイツと同じように胃薬や咳止めなどに用いられているが、フランスではアニスシードを一緒に用いることが多い。なお、イギリスでは、ドイツと同じように消化不良や咳止めシロップとして使用している。
○アメリカ
医薬品としてではないが、薬効をもつハーブとして消化促進や駆風(おなかのガスをとる)に使用されている。また、咳止めに、フェンネルシロップ、フェンネル蜂蜜などが利用され、乳汁分泌を促す目的にも用いられる。その他、瀉下作用をもつハーブの刺激を和らげるために、下剤的に用いられるハーブレメディーにもしばしば配合されている。
○インド
アーユルベーダ薬局方では、フェンネル、フェンネルエキスを腹部膨満感、消化不良、摂食障害、乳児疝痛(※)へ用いることを勧めている。
※乳児疝痛:
生後3ヶ月ぐらいまでの子供が激しく泣き続ける症状を指し、胃腸の痛みがあるのではと推定されているが、詳しい原因はわかっていない。
○中国
中医学では、「去寒、鎮痛、理気、消脹(寒気をとり、痛みを和らげ、気のめぐりを良くし、膨満感を取り除く)」の働きがある生薬とされ、西暦1200年頃にはすでに処方に組み込まれていた。現在では、拒食、食欲減退に伴う上部腹痛、小腸疼痛、疝痛に使用されている。その他、筋の緊張が伴う痛みにも有効として月経困難症に伴う下腹部痛、冷え、吐き気、下痢などにも応用できるとし、鎮痛効果を目的に使用していることが他国とは異なる特徴的な使用方法だ。「太平恵民和剤局方」という書物にフェンネルを用いた処方、安中散が記録されている。
○日本
医薬品として第十七改正日本薬局で種が生薬として収載。中国から伝えられた安中散が、冷え性で体力の比較的低下している人の「胃痛、胸焼け、食欲不振など」の症状に用いられている。また、痰を切る働きがあるとして去痰薬としても利用される。
香辛料抽出物 (ウイキョウ等を抽出し、又はこれを水蒸気蒸留して得られたものをいう) は既存添加物 (香辛料等、苦味料等) としての使用が認められている。
精油除去ウイキョウ抽出物 (ウイキョウの種子から得られた、グルコシルシナピルアルコールを主成分とするものをいう) は既存添加物 (酸化防止剤) としての使用が認められている。
フェンネルを摂取する際の注意点
妊娠中はウイキョウ油(精油)、種子は禁忌である。
また授乳中の経口摂取は危険性が示唆されている。授乳期に摂取すると、母乳の出をよくすることが知られていますが、同時に子宮を刺激するともいわれているので妊娠中は摂取しすぎないよう気を付ける必要がある。
また、にんじん、セロリ、ヨモギ、セリ科の植物にアレルギーのある人は、フェンネルにもアレルギーが起こる可能性があるので摂取には注意が必要。
ウイキョウ油にはエストロゲン様作用があると示唆されているので、乳がん・子宮がん・卵巣がん・子宮内膜症・子宮筋腫の患者は摂取を避けるべきである。
ドイツのコミッションE (薬用植物の評価委員会) では、医療従事者の監督下以外では長期間使用してはならないとしている。
おそらくこの注意は、治療目的で一日に種子 (果実) 5.0~7.0 gを与えた場合に該当する。
フェンネルの植物療法
代表的なフェンネルの植物療法的使い方をご紹介しておく。
・ハーブティー
フェンネルの種子はハーブティーとしてもよく利用される。フェンネルの持つ甘みとスパイシーな香りは食欲を抑える働きがあり、またフェンネルには、炎症を鎮める効果もあり、風邪などを引いたときにフェンネルのハーブティーを飲むと早期回復が期待できるといわれる。ハーブティーとして利用する場合、浸出時間は少し長めにすることがポイントだ。子供たちの咳にはフェンネルティーに蜂蜜などを入れて飲ませてあげると良い。
・エッセンシャルオイル(精油)
フェンネルはエッセンシャルオイルとしても強い薬効がある。欧米では、はちみつと一緒にお湯に溶かし、咳止めの薬として利用されている。ただし国内では、精油の飲用は法的に不適切なので、トリートメントオイルとして関節炎やリウマチの患部に塗ることで炎症を和らげるといった利用も期待できる。
フェンネルのハーブバス
1リットルの熱湯にフェンネル一握りをミルや乳鉢で砕いてから加え、しばらくおくか5〜6分加熱する。これを布などでこして、基本の入浴剤とし、浴槽に入れる。
(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)
参考文献
「ディオスコリデスの薬物誌」小川 鼎三著
「カルペパー ハーブ事典」ニコラス・カルペパー (著) 戸坂 藤子 (翻訳)
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編集
「中世ヨーロッパの生活」ジュヌヴィエーヴ・ドークール著大島誠訳
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
「The complete New Herbal Richard Mabey著
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集
「Fifty Plants that changed the course of History」 Bill Laws著
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
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