猫のハーブは人の気持ちも落ち着かせる〜キャットニップ

キャットニップ

猫のハーブは人の気持ちも落ち着かせる〜キャットニップ

キャットニップ  Catnip

キャットニップは古代ローマ時代にはすでに民間療法薬としても用いられ、リラックス効果に加え、喉の痛みや風邪の予防のために飲まれていたハーブです。

学名:Nepeta cataria (ネペタ・カタリア)

和名・別名:イヌハッカ、チクマハッカ、セイヨウマタタビ、キャットワート

科名:シソ科

使用部位:葉部


leaf3_mini 植物分類と歴史

キャットニップはシソ科イヌハッカ属の植物で、西アジアやヨーロッパ原産の多年草です。
現在ではヨーロッパ、アジア、中国、朝鮮半島等北半球各地で見られる。現在ではアメリカ大陸にも自生し、世界中で栽培されています。
ハッカに少し似た味がして、ハーブティーとしても利用されるほか、サラダや肉料理にも使われます。イギリスでは生け垣にみられる野草でもあり、カラミントと呼ばれることもあります。古くから薬草として利用された品種がNepeta catariaで、淡い緑色の葉に白い花をつけます。開花期には1m以上になり、白味を帯びた葉は丸みのあるギザギザした形をしていて、表面に短くて細い毛が生えていてビロードのようです。

  

キャットミント(Nepeta faassenii ファーセニー)と呼ばれる種もあります。
キャットニップと混同されやすいですが、こちらは同属ではあるが別の種になります。また花壇の縁取りとして好まれるのは、かわいらしいラベンダーに似た涼しげな青紫色の花をつけるネペタ・ムッシーニ(N.mussini)という品種です。これもキャットミントと呼ばれることもああります。
メディカルハーブとして利用するのはキャットニップのみで、その他は園芸種として栽培されます。ちなみにキッチンハーブで知られるオレガノは「花薄荷」と呼ばれます。

キャットニップ(Catnip)という名は「猫が噛む草」という意味です。また別名のキャットワート(Catswort)は猫草「猫の好む草」の意味があります。属名のNepetaは、古代ローマの町の名ナペティ(napeti)に由来します。当時、キャットニップはこの町の貴重な植物で特産品だったようです。ミントとペニーロイヤルを合わせたような良い香りをどういうわけか猫が好むことから、種名のcatariaは「猫」を表わします。

英名ではキャットの名がつき、猫と関係がある植物でありながら、日本ではイヌハッカと呼ばれます。
これは犬も好むという意味の名づけでなく、日本に自生している薄荷に似ているが、薄荷よりも香りなどが劣るから「犬薄荷」ととなったとされます。諸説ありますが、日本では植物などで本種よりも質の劣る場合や役に立たない場合に「犬」という表現を付ける場合があります。(犬山椒、犬ほうずきなど)
また別の説では、元来イヌとは動物の「犬」ではなく、「否ぬ」からきた言葉とも言われています。やはり本種の薄荷よりも香りが弱いという趣旨から、本種ではないという意味で「否ぬ」を使ったのではないかとも考えられます。
また、日本に帰化したものが長野県筑摩郡で発見されたことから、和名の別称としてチクマハッカとも呼ばれています。

キャットニップは猫だけでなく、人間が食べたり飲んだりしても効果があるわけですが、面白いのは人間にも猫にもリラックス効果があるのに、一部の猫にだけ興奮作用もあらわれる点です。多頭飼育している場合は、一度にキャットニップを与えると興奮した猫が他の猫とケンカを始める可能性があるらしいです。この働きについては、香り成分が関与していますが、後ほど、機能性の中で後述します。

またキャットニップはセイヨウマタタビとも呼ばれます。葉をこすり合わせてネコに臭いを嗅がせるとマタタビを嗅がせた時のように、頭を振りながら舐めたり、体を擦り付けるなど酔っ払ったような行動を取ることから名づけられました。

マタタビ(木天蓼、Actinidia polygama )は猫が好む植物として有名な木ですが、キャットニップとは種類は異なります。マタタビは山に行くと時々見かけるマタタビ科の蔓性低木で、小さなキウイフルーツのような実ができます。

あまり知られていませんが、実は食用のキウイフルーツもマタタビ科で畑にキウイフルーツの木を植えていると猫がその木の下でゴロゴロすることもあるようですよ。

キャットニップの歴史

キャットニップは古代ローマ時代からハーブティーとして、発汗作用や鎮痛作用、解熱作用を期待し、喉の痛みや風邪の予防のために飲まれていました。
ディオスコリデスの『薬物誌(マテリア・メディカ)』でも取り上げられています。特に中国やインドから紅茶がもたらされる前まではよく飲まれたものでした。またこの根は口に噛むとおとなしい性格の人を強く、荒っぽい気性に変えるといわれ、死刑執行人はこれを食べないと仕事ができなかったという話もあります。
また中世のハーバリストは疝痛、頭痛、発熱、歯痛、風邪、及び痙攣の治療として何世紀にもわたってキャットニップを使用しています。17世紀のハーバリストであるニコラス・カルペパーは「キャットニップは不妊を直し、鎮痛までも和らげる」と、ハーバルバスに入ることを推奨しています。またキャットニップはヤロウなどとともに薬として、新大陸へも運ばれました。現在はワシントン州などで栽培され花のついた先端部を用いて水蒸気蒸留法によって精油が採取されているいます。


leaf3_mini 成分ほか

カルバクロール、ネペタラクトン、ネペトール、タンニンなど

leaf3_mini安全性と相互作用

安全性:クラス1
相互作用:クラスA
(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
通常の使用の範囲では安心して使えるハーブです。妊娠中・授乳中の使用に関しては、問題は確認されていないものの、最終的な安全性は確立されていません。


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

キャットニップの食経験

キャットニップはヨーロッパでは調味料や食材として、葉を肉の香り付けに使用したり、新芽をサラダやスープに入れたりして活用していました。
15世紀イギリスの料理人が調理する前に肉に葉をこすり、サラダに加えて香りを立たせたといいます。
ティーは催眠、発汗を促し、解熱効果にすぐれるほか、不安症、神経症、刺激がないので落ち着きのない子供によく飲ませるなどさまざまな薬効に富んでいます。若芽のジャムは悪夢を防ぐという言い伝えもあります。また、ワインに浮かべて飲むと「気分の落ちこんだ人にとても良い」とされていました。
中世以降は、キャットニップは眠気を誘ってくれ、風邪、胃腸障害、発汗、精神安定、頭痛、湿布薬、消化促進などに効果があり、強い発汗作用もあり、風邪の発熱時に利用されてきた歴史を持ちます。

キャットニップの機能性

古くから利用されている働きに発汗作用や解熱作用があります。
これらの作用はキャットニップに含まれるネペタラクトンという二環性のテルペノイドに鎮静作用、解熱作用、発汗作用があるためです。
このネペタラクトンはマタタビに含まれるイリドメルメシンと似た構造をしています。ネコ科の動物に与えるとマタタビを与えた時のように酔っぱらったような行動をとるのはこのためです。
  
ネペタラクトン(左)とイリドメルメシン(右)

また弛緩、鎮静作用もあるため、気持ちの高ぶりを鎮め、ストレスや不安の解消など神経系の興奮を落ち着かせて、不眠の改善にも有用です。朝や寝る前にハーブティーとして摂取すると快適な睡眠に効果を発揮します。落ち着きたい時や緊張している際に飲むと効果的ですよ。

ところで。。
このネペタラクトンという成分がなぜ猫に効果的なのか?この点に特化して中枢神経への作用について調べてみました。
ちょっとうんちく。ご興味のある方はどうぞ。

猫にみる中枢神経への働き

キャットニップのネペタラクトンによってネコ科の動物がほとんど反応するらしいです。最初にキャットニップのにおいを嗅ぎ、舐め、そして噛んでみたり、時にはそれに頬や顎を擦りつけてみたり、葉に身体ごと擦りつけたりもするようです。
キャットニップを嗅いだ猫がとる行動で一番多いのは寝転がることで、これは発情期のメス猫が寝転がるのに似ています。しかし、キャットニップの場合はオス猫でも寝転ぶほか、避妊・去勢された猫でも反応します。この時の反応は様々で、よだれを垂らす猫やハイテンションになる猫もいるといいます。反応する時間は比較的短く5~15分程度、それから少なくとも30分ほど経たないとまた反応することはないようです。でも面白いことに、キャットニップに対する反応は遺伝によるもので、3匹に1匹はキャットニップに反応しないらしいです。子猫も全く反応しないので、反応するかしないかは性的成熟度も関係しているようです。一体なにが起こっているのでしょうか?
獣医学関係の資料を調べてみたら、コーネル大学獣医学部のネコ科保健センターの報告資料にそのメカニズムのようなことが記載されているのを見つけました。ネペタラクトンはネコの鼻にある受容体に結合し、神経伝達物質に影響を及ぼし、中枢神経系の活動を阻害するとのことです。
キャットニップを嗅いだネコが酔っ払ったような行動を取るのは、このためのようですね。

ネペタラクトンの神経作用

ネコがネペタラクトンに反応している姿はまるで麻薬で陶酔感を覚えている人間のようであり、多幸感に包まれているように見えます。
果たして、人間がキャットニップのハーブティーなどを飲んでリラックスするメカニズムと何か、共通なことがあるのではないかと思ったりして。。

しかしネペタラクトンを摂取したネコの脳内で具体的に何が起こっているのかについては具体的な作用機序がわかっているわけではなく、またネペタラクトンがネコにとって大麻やモルヒネのように作用しているかどうかも証明されているわけではありません。

獣医学の分野では、中枢神経系のオピオイド受容体を遮断するような化合物(ナロキソンなど)をネコに投与すると、ネペタラクトンの作用が抑制されることがこれまでの研究で示されていることから、ネペタラクトンにネコが反応するメカニズムにはオピオイド受容体が関係していることが示唆されています。ただ、これまでは「およそ3分の1のネコはネペタラクトンに反応しないため、すべてのネコがネペタラクトンの影響を受けるわけではない」と考えられていたようです。

2017年に発表された研究では60匹の飼いネコを対象に、キャットニップに対する反応の調査が行われました。
その結果、キャットニップに対して寝転がったり声を出したりという能動的な反応を示したネコは全体のおよそ20%で、残りの80%のネコが、まるで「スフィンクスのような体勢でうっとりする」という受動的な反応を示したと報告されています。「この研究の結果は、ほとんどのネコが何らかの形でキャットニップの影響を受けていることを示唆している」と前述のコーネル大学の報告資料で触れています。
研究ではライオンやヒョウ、ジャガーなどのネコ科の動物もネペタラクトンに反応することが示されました。ただし、トラだけはなぜか影響を受けないらしい。実に面白い反応ですね。

研究者たちは、ネペタラクトンは猫の自然なフェロモン、つまりコミュニケーションをとるための分子に似ているのだと考えています。
一度その混合物が猫の鼻に入ると、フェロモンの働きと同じ受容体とくっつき、猫の脳はフェロモンがたくさん出ているというシグナルを受けるようです。猫は口蓋(こうがい)の奥にヤコブソン器官と呼ばれる特殊な器官をもっています。よく、動物番組などで猫が人の足の匂いなどを嗅いで、すごく嫌な顔をするシーンなどをよくみますね。これがヤコブソン器官の作用なのです。

鋤鼻器官」(じょびきかん)とも呼ばれるこの器官は、人間は退化してしまい存在しないですが、主としてフェロモンのような極めて微量な分子成分を感知する働きを持っています。キャットニップの成分がこの器官を通じて猫の脳の3つの重要な部分(匂いを処理する嗅球、感情や決断に含まれる扁桃体、そして他の何かの間の性的反応を司る視床下部)を刺激するようです。
特に視床下部に関与するということは、なぜキャットニップに反応した猫が発情中のメス猫のように地面に転がるのかという、ヒントになりそうです。逆に子猫が性的に成熟する6ヵ月前後までキャットニップになにも反応しないのかも納得できます。

キャットニップだけではなく、ほかの植物も同じような理由で猫を魅了することがあります。
それらの植物は猫のフェロモンのような働きをする混合物を生み出しています。例えばマタタビはアクチニジンと呼ばれる分子を生み出しますが、これは猫のフェロモンに似ている物質です。このアクチニジンは、キウイフルーツにも含まれ、前述のキウイフルーツの木の下で猫がゴロゴロするという話もこのアクチニジンが関係しているのでないでしょうか。


マタタビにはそのほかマタタビラクトンと呼ばれる、い草の香り成分で働き蟻の肛門腺分泌物やマンゴーにも含まれる「イリドミルメシン」「イソイリドミルメシン」の成分も含まれており、これらの成分に猫が反応します。
一般的に、猫を魅了する植物は猫にとっては確実に安全です。中毒性はないがそういった植物によく遭遇する猫は、だんだん反応が弱くなっていくようです。慣れてくるということなのだろうか?

これらの物質は異なる生物に作用して、特定の行動を引き起こしたり、生理に何らかの影響を及ぼしたりする「アレロケミカル」の一種です。
アレロパシー(植物が他の植物の生長を抑えたり、あるいは動物や微生物を防いだり、あるいは引き寄せたりする効果の総称)の物質です。これら植物に含まれるアレロケミカルが動物に作用する成分を持っていることはよく知られ、極端な例としては大麻に含まれる「カンナビノール」が挙げられます。これを人間が摂取するとうっとりとするわけですが、なぜそのような作用を及ぼすのか、未だ十分に明らかになっていません。

まだまだ調べたりですが、猫とある種のフェロモン受容体が中枢神経に作用することは間違いなさそうです。ということは、やはり人間にも同様のことが言えるのではないか?と思ってしまいます。

そういえば、猫だけでなく人にもマタタビが良いとされ、旅人がマタタビ酒を飲み元気を出し、また旅に出たという話を聞いたことがあります。マタタビの実は通常、細長い実だが「マタタビミタマカ」という虫が蕾の時に卵を産み付け、それが成長するとこぶ状の実になります。それが、薬効が高く9月中頃から自然に落下し始め、落下したものを採集しよく洗い、焼酎に漬けてマタタビ酒を作るそうです。

キャットニップのネペタラクトンにリラックス効果があり、不眠の改善にも有用とされる理由もこの辺りにヒントがあるのでしょうか。

それ以外にも精油成分としてふくまれるカルバクロールタンニンには殺菌作用もあり、風邪対策に効果的です。
カルバクロールはオレガノの精油に含まれているモノテルペンの誘導体で、オレガノのもつ特徴的な刺激臭のもととなります。また、抗菌・抗ウイルス作用があるため、風邪などにかかりにくくなります。それ以外の働きとして、通経作用があり、月経を促進する効果があり、ドイツなどでは月経前症候群の治療にも用いられています。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)

「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著
「カルペパーハーブ事典」ニコラス・カルペパー著
「世界薬用植物百科事典」 誠文堂新光社  A.シェヴァリエ
「ストレスに効くハーブガイド」ローズマリーグラッドスター著

「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳

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