植物由来の粘液質について考えてみる

植物由来の粘液質について調べてみた

今回は植物のもつ性質のひとつ、粘液質の機能性について触れてみたいと思います。

粘液質といえば、ネバネバ成分をイメージされる方も多いでしょう。かつてヒポクラテス「体液病理説」の中でヒトの気質の分類の一つとして、感情の起伏が少なく粘り強い気質=黒胆汁質→多血質→胆汁質というように、粘液質の性格的分析をし、ドイツの植物学・教育学のシュタイナーは粘液質の性質は静かで穏やか。忍耐力がある。食べることが好き。動作がゆっくりしている。という人間の本質の一つとして分析しています。

このように粘液質は性格・性質の表現方法として比喩されることもあります。
ここでは性格判断的な概念はちょっと置いておいて、純粋に植物の持つ粘液成分として、植物はなぜ粘液質を作るのか?そもそも粘液質とは何か?を掘り下げてみました。

<粘液質とは>
粘液の成分は生物によって、また粘液細胞の種類によってさまざまであるが、一般的にはムチンと総称される糖タンパク質と糖類、無機塩類などからなる。しかし、もともとムチン(mucin) は動物の上皮細胞などから分泌される粘液の主成分である粘性物質で、植物性のものは存在しないため、科学的には植物由来のネバネバ物質を“ムチン”とは言うべきではない。そのほか通称として「ムチン型糖タンパク質」「粘液性糖タンパク質」とか「多糖類」「多糖タンパク質」「ムコ多糖類」「アラビノガラクタン(AGP)」など様々な表現がある。正確には、植物の粘液質は「糖タンパク質の混合物」で食物繊維であるという表現が正しいかもしれない。性質として分子量の大きなタンパク質などを含む粘液は高分子ゲルとしての要素を備え、粘性が高いだけでなく弾性(ヌルヌル、あるいはネバネバした感じ)をも持ち併せる。

植物はなぜ粘液質を持つのか?

生物には粘液という形で粘液質を体内に蓄えています。その役割は多種多様ですが、こと植物については、以下のような目的があるようです。

1、体外分泌物として

花や苞の部分の粘りは昆虫たちとの関係で進化してきたと考えられています。しかし,植物たちと昆虫たちとの生態的関係は単純ではなく、ときに非常に複雑で、驚くほど巧妙であることがわかってきています。この粘りのもと粘液は花や苞の周辺から、葉、茎、そして根の先端に至るまで、さまざまな場所の分泌細胞、腺点や腺毛からにじみ出てきます。

粘液は単純な糖液ではなく基本的に糖をかなり含んだ糖タンパク質からできています。だから、空気にさらされてもすぐに乾燥して粘りを失うことはないです。
それら糖タンパク質の種類はいろいろで、植物の種類や分泌する部分器官によって、また粘液の果たす役割よっても異なっています。粘液の本来的な役割は、植物体表面の細胞を外敵や物理的障害から保護したり、乾燥した空気から保護(保湿)したり、雌しべの先端で花粉をうまく受け取れるようにしていたりと、様々です。

例えばモチツツジのように茎や葉に腺毛がたくさん生えていて、そこからネバネバした液を出し、蜜を目当てにやってきた様々な昆虫がこの液体に捕殺されます。植物は生殖活動のために花の中に糖液(花蜜)などを用意するわけですが、それをアリたちなどの食害昆虫から防衛するためにベタベタが障害物として働いているわけです。
ポリネーター(花粉媒介役の昆虫)以外の虫たちによる盗蜜や毛虫による花の食害を防ぐ役割があるようです。つまり生殖活動に役立たない昆虫たちを排除するために分泌しているケースなどがあります。


モチツツジの粘液で捕えられて死んだハチ

また中には粘液を分泌する植物が昆虫の糞(フン)から栄養を得ているという例があります。それも「消化酵素を使わずに」です。
一般的にモウセンゴケのような食虫植物は葉の表面に生える粘りつく腺毛に絡め捕られた昆虫を粘液に含まれる消化酵素で溶かして、その溶けた液を葉の表面から吸収し窒素栄養源とします。

モウセンゴケ

しかし南アフリカの湿地に分布する小低木のロリドゥラ属植物(ロリドゥラ科)は、ベタベタの長い腺毛が生える細長い葉に、昆虫の死骸がたくさん付着させているのに、その分泌粘液には消化酵素が含まれていません。ではどうやって栄養摂取するかというと、腺毛に絡め捕られた昆虫を食べにくる肉食の昆虫(カスミカメムシ科のカメムシ)がいて、その肉食性昆虫の糞を植物は葉から吸収していたのです。
つまりロリドゥラ属植物は窒素に乏しい湿地の土壌から栄養を摂るのではなく、肉食性昆虫の窒素豊かな糞から栄養を摂るわけです。さらにこのカメムシは体表に特殊な脂質の層をもち、それが体表から剥がれて、あたかも絨毯のように粘液の上を包むように敷かれ、植物の上を自由に歩き回れるようになっているのです。
まさにカメムシとロリドゥラ属植物との相利共生の関係と言えます。

2、体内分泌物として

植物は糖によって自らを形成するために繊維質という炭水化物の一種である糖質を合成し、それを元に一次代謝産物や二次代謝産物を生成するわけです。
その糖質を蓄え、デンプン、グリコーゲンなどのように生育、生存に必要なエネルギー源として根部などに保存しています。あるいは、植物自体を構成している多糖質性高分子物質として、セルロース、ヘミセルロースなどのように水に不溶でその基体を構成している物質などが存在します。
さらにこの他役割のあまりわからない水溶性高分子物質、複合多糖質もしばしば見受けられます。これらのものは多くの場合、水に溶けて高粘性のコロイド溶液として細胞間に存在しているために、一般に粘液物質と呼ばれています。
植物粘質物質の分類には植物体組織中ですでにコロイドを形成しているもののほかに、デンプンなどと同じような粒状で植物の根、茎、内皮、葉、種子の皮殻などに存在し、水に溶解することによってはじめて粘液となるものも含まれています。これら植物粘質物質はセルロースやデンプンなどのように1種類の単糖から成る場合は少なく、むしろ2種あるいはそれ以上の単糖類から構成されている場合が多いです。また植物の種類によって含まれる単糖の種類、割合あるいは存在比が異なり、しかも結合の様式が複雑であるためにその化学構造の研究はなかなか容易ではないようです。


<粘液質の種類>

よく言うネバネバ成分は糖とたんぱく質が結合することによってできる多糖類であり、納豆や山芋、オクラなどの粘り気の強い食材のヌメリのもととなる成分です。この粘液質は食材に含まれるだけではなく、人間の体内にも存在している成分であり、唾液や胃液といった分泌物や、胃腸の粘液、涙にもムチンが含まれています。ここで多糖類についてちょっと整理しておきましょう。

多糖類の大部分は天然由来の高分子物質となっていて、その起源は大きく分けて、植物由来(種子や樹液、果実等)、海藻由来、そして微生物由来の3つに分類されます。工業的には食品、化粧品、トイレタリーやオーラルケア、薬品、接着剤、繊維、製紙、医療、採掘など非常に幅広い分野で活用されていています。

食品加工で使われる植物由来の多糖類

1、デンプン系
コーンスターチ、ばれいしょ澱粉、タピオカ澱粉、デキストリンなど、澱粉が元となる多糖類です。

2、種子系
種子系の多糖類で代表的なものに、インドや東南アジアに生育する巨大常緑樹でタマリンド(Tamarindus Indica L.)という植物があります。タイ料理でも有名なスパイスなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。


タマリンドの種子

この種子を分離精製して得られるタマリンドシードガム。また学名をCyamopsis tetragonolobaというパキスタンやインドで栽培されている、一年生豆科植物、グアー豆の種子から得られるグァーガム
(このグアーガムは古くから食品をはじめとする様々な分野で利用されており、食品以外の用途向けに誘導体も製造されている。近年ではシェールガス採掘への利用など新たな用途を広げています。)、


グアーガム

また学名Celatonia siliqua Linneの地中海沿岸のような乾燥した土地で栽培、自生している豆科の多年生常緑樹カロブ樹の種子から得られるローカストビーンガムが食用として利用されています。(ローカストビーンガムは原料である樹木の名称からカロブビーンガムとも呼ばれ、カロブ樹は日本ではイナゴ豆(Locust bean)と呼ばれています。その豆の莢や果肉部分は甘みがあり、非常に古くから食経験があります。)


ローカスト

3、果実系

様々な野菜や果物に含まれる天然の多糖類で、植物細胞をつなぎ合わせる役割があるペクチンに代表されます。
ペクチンは植物の細胞壁の構成成分として、セルロース等他の成分と結合して、植物細胞をつなぎ合わせる「セメント」の働きをしている天然の多糖類です。
ゼリー化(ゲル化)作用をもつ成分であることから、1825年にフランス人であるJ.Braconnot によってギリシア語の「pektos(硬い)」にちなんで、「pectin:ペクチン」と名付けられました。

果物を煮ると、含まれているペクチンが水に溶け出し、糖分とともに煮詰めると果実中の酸との作用によりゼリー化します。
食品添加物として使用されるペクチンは主にりんごや柑橘類(レモン・ライム)から抽出されており、ゲル化剤や安定剤、増粘剤としてジャムやフルーツソース、酸性乳飲料などに使用されています。ハーブではローズヒップに多く含まれていますね。

4、樹液系

アフリカ北部やスーダン等、北緯10度から20度の間に広く分布するアカシア属セネガル種(Acacia senegal)の樹脂から得られるアラビアガムやインドに分布するアオギリ科カラヤ(Sterculia urens)の樹脂から得られるカラヤガムが代表的です。
(食品分野ではアイスクリーム等の増粘・安定化剤として使われる。医薬分野では義歯安定化剤、ストーマ製品の接着剤などに広く利用されている。)


海藻類と野菜類の粘液質

海藻のネバネバといえば、私はまず浮かぶのがメカブ。メカブはワカメの葉体の下部の茎の部分にできる胞子を出す生殖器官で、このメカブは粘質物(粘液)をたくさん出します。
ワカメのメカブだけではなく海藻は一般にたくさんの粘質物を持っている。メカブ以外でも粘質物の多いことで有名な海藻は、褐藻類のコンブ類、モズク、アカモク、アラメ、カジメ、紅藻フノリなどがあります。

海苔の粘液質は多糖類でポルフィランという成分が知られます。コンブやワカメなど褐藻類の粘液質は多糖類のアルギン酸とフコイダンが混在したものです。

一方、野菜にもヤマイモ、サトイモ、オクラ、モロヘイヤのように粘質物をたくさんだすものがあります。多くの野菜の粘液質は多糖類および多糖類とタンパク質が結合したものとが混在したものです。


微生物由来の発酵物

微生物キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)がブドウ糖などを栄養源として菌体外に分泌した多糖類を、回収・精製して生産されるキサンタンガムや水草から採取された微生物スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)がブドウ糖などを栄養源として菌体外に蓄積した多糖類を分離・精製して生産したジェランガム。(オレンジジュースに添加した場合、パルプの沈降を防止し見栄えの良い製品を作製できる。)、
微生物アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)がブドウ糖などを栄養源として菌体外に分泌した多糖類を回収・精製して生産されるスクシノグリカンなどがあります。(構成成分にコハク酸(Succinic acid)を含有することからスクシノグリカン(Succinoglycan)と命名されました。多くの多糖類はタンパク質、特に乳タンパクとの相互作用が見られるが、スクシノグリカンはその程度が非常に弱いため、乳製品分野において有用です。)

そのほか、ヒトの体内ではムコ多糖類が有名です。
「ムコ」は粘液類似物の意のムコイド(mucoid)の意味で粘液質の多糖類です。糖質とアミノ酸やウロン酸、またはその硫酸エステルからなり、ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・ヘパリンなどがあります。
特に軟骨の主成分で皮膚や肉芽などにも広く存在し、結合組織の弾力の原因となるコンドロイチン硫酸、肺臓や肝臓などの毛細血管の壁に近い細胞に存在し,血液の凝固を阻止しているヘパリン、胃粘膜や角膜にあるムコイチン硫酸、関節の滑液にあるヒアルロン酸など、生理的に重要な意義をもつ数多くの物質が含まれています。

一言で、粘液質といっても多種多様なのですね。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)

「したたかな植物たち: あの手この手のマル秘大作戦」多田多恵子著
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「有用草木博物事典」草川俊著
「さらにやさしい食品添加物」湯川宗昭著 食品化学新聞社
「食品多糖類: 乳化・増粘・ゲル化の知識」 佐野征男、 國崎直道著
「有用草木博物事典」草川俊著

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