生活習慣病にはαリノレン酸〜亜麻仁オイル

生活習慣病にはαリノレン酸〜亜麻仁オイル

フラックスシード(亜麻仁) Flaxseed

αリノレン酸を多く含むフラックスシードは生活習慣病の予防に有用です。

学名:Linum usitatissimum (リヌム・ウスタシムム)

和名・別名:リンシード、亜麻仁(アマニ)

科名:アマ科

使用部位:種


leaf3_mini 植物分類と歴史

フラックスシードは、日本名ではアマニ(亜麻仁)と呼ばれる。アマ(亜麻)のニ(仁=種子)の意味です。アマ科の植物であるアマ(亜麻)の学名は、 Linum usitatissimum で、Linumはケルト語で「糸」、英語ではリネンを意味し、usitatissimumはラテン語の形容詞usitaus(最も有益な)に由来しています。
一年草で原産地は小アジア・地中海地方といわれていますが、現在の主産地は、比較的寒い地方が多く、主にフランス北部・ベルギー・ロシア・東欧諸国及び中国地方が多いです。亜麻は毎年同じ土地で連作すると収穫量が減り、品質も低下するので、6~7年の輪作を行います。4月頃に種子をまき、7~8月に抜きとって収穫します。茎はマッチの軸位の太さで、1m程の高さに育ち、先端に白または紫色の花が咲き、やがてボール状の実をつけます。茎の表皮と木質部の間に繊維の束が並んでいて、その部分から糸が作られます。

通常、植物体からスライバー(繊維質)までをフラックス(Flax)と呼び、糸及び製品をリネン(Linen)と呼んでいます。種からは亜麻仁油(フラックスシードオイル)が採れます。種には、「ブラウンフラックス(一年草)」と「イエローフラックス(多年草)」の2種類があり、収穫した際の種子の色が異なり、栽培方法も利用方法も全く同じで、ブラックの方が原種とされています。

  
フラックスシードの花と種

フラックスシードの歴史

亜麻の原産は地中海地方で、石器時代にスイスの湖畔に住んでいた民族が、繊維分と種子を利用していたという記録があり、古代から栽培されていたことが知られています。考古学的には人類が亜麻(リネン)を使い始めて1万年になると言われ、考古学者によれば、紀元前8,000年頃より世界文明発祥の地チグリス・ユーフラテス川にリネンは芽生え、人類最古の繊維と言われています。

紀元前7000年にはトルコやシリア、紀元前5000年にはエジプト人も布地を使用していた記録も残っています。また2009年9月13日付の日経新聞等に、米国の科学誌「サイエンス」へ、グルジア国立博物館とハーバード大学の国際チームがグルジアの洞窟より黒や青緑に染まった約3万年前の亜麻先染糸が発見されたとの記事が掲載されたことで知っている方も多いかもしれないですね。

古代エジプトでは、リネンは ”Woven Moonlight(月光で織られた生地)”と呼ばれ、広く神事にも使用され、ミイラを包む布としても利用されていました。またイエス・キリストの遺体を包んだトリノの聖骸布も亜麻布とされています。ギリシャ人やローマ人の間では、上質で純白なリネン(亜麻布)が、重宝されていて、聖書の中にも記されている繊維として18世紀頃はとくに多くの生産高を示しており、ヨーロッパに長い歴史を築きあげ、現在まで衣料のファッション素材としてもその伝統を誇り続けています。


製織・手織り職人
「1783年 英国ウイリアム・ヒンクス画」

また欧米では広く良家のお嬢様の嫁入り道具となり、暮らしの豊かさをあらわす特別な布として親しまれていました。
現在でも英国の王室をはじめ、世界の正式な晩餐会のテーブルにはリネンが使われています。日本では「麻」というと比較的ゴワゴワした布を思い浮かべることが多いのですが、海外では大麻から織られるヘンプで、亜麻から織られるリネンとは別のものです。

ヨーロッパにおいては、その長い歴史の中でリネン文化があります。例えば「ホームリネン」といえば、シーツ、ピロケース、パジャマ、バスタオルなどを指し「テーブルリネン」といえば、テーブルクロス、ナプキンなどを指します。
このようにリネンは、豊かな心地よいライフスタイルに欠かせないものとして、生活に密着しているのです。ここでちょっとリネンが関連する語源について紹介しておきます。

<ライン Line>

亜麻でできた細い丈夫な糸という意味でラインといい、「糸」という形状から「線」「筋」「列」その他多くの意味を表す言葉につながってく。

<リノリウム Linoleum 床材>

Linoleum(リノリウム)とはラテン語のlinum(亜麻)とoleum(油)の合成語で、麻布に亜麻仁油と針葉樹の木粉、コルク、松ヤニ等で圧着した長尺床敷材料の総称で、最近は、その耐久性(東京丸ノ内ビルにて60年間使用)と環境問題等より見直され、英国、オランダ、ドイツ等から積極的に輸入されている。

<ランジェリー Lingerie 下着>

ランジェリーは、フランス語のランジュ Linge(家庭用衣類、下着類)から出た言葉で、その布地の主材料はリネンであり、下着としてもリネンが最も多く使用されていた。そのため、ランジュは下着の代名詞となり、フランス語では下着の総称として残っている。また辞書にも Lingerie:(F)リネンの婦人用肌着とある。仏語では、LinenをLin(ラン)と呼ばれる。

さて、繊維としての最古の歴史を持つ亜麻ですが、食用として使われるようになったのはそこから比べるとかなり後になります。
西暦800年代のフランスで「臣民はアマニをとるべし」と法令化されていたといいます。布地の歴史に比べれば浅く感じますが、この時代から健康面での価値が認められていたことになります。このころにはすでに亜麻仁油も使用されていました。
こうして中世から近代にかけ、亜麻の栽培は欧州全体、そして全世界に広まっていったようです。

亜麻の栽培は寒冷地に適しているため、世界では北米産のものが多いです。特にカナダは世界の生産量の1/3以上を生産しています。日本でも北海道開拓時に導入されたものの化学繊維の普及とともに栽培は行われなくなっていきましたが、近年北海道の一部地域で食用種子としての栽培が復活しています。その種の薬効もまた古くから知られていて、紀元前400年頃にはヒポクラテスが「亜麻種子を食べると胃腸の不快に良い」として亜麻栽培を推奨していました。西暦800年代に食用として広まり、17世紀にはアメリカへも伝播していきます。欧米ではチアシードやバジルシードなどと並んでフラックスシードも「スーパーシード」と呼ばれ、近年急速に消費量が伸びています。


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

フラックスシードの機能性

亜麻仁は機能性食品として、世界の食材に確個たる地位を築いています。
必須脂肪酸であるオメガ3系α-リノレン酸フィトケミカルに富み、食物繊維と蛋白質も多く含んでいます。フラックスシードは現代人に不足しがちな栄養素(オメガ3系脂肪酸、リグナン、食物繊維)が豊富で肥満をはじめとするメタボリック症候群や心臓病・ガン・糖尿病などの生活習慣病、便秘、腸炎、骨粗鬆症、関節リウマチ、更年期障害、うつ病などの予防・改善に効果的です。

また亜麻仁を食べさせ育てた鶏の生んだ卵は、北米、南米、欧州などのスーパーマーケットに並んでいますし、ベーカリー製品に含まれる亜麻仁の人気は着実に上昇しています。製パン業界では穀物入りパンの素材として、あるいは特殊なパンやベーグル、マフィン用に魅力あるトッピングとして亜麻仁を採用していたりします。また亜麻仁は温かいシリアルや冷たいシリアルに、マフィン、パンケーキ、ワッフルなどのドライミックス、エネルギーバー、グラノーラなどのスナック、粉末状の飲料ミックスに、そしてパスタにも使われる様になってきました。さらに、動物の健康とその維持の為に、各種の家畜や養鶏、ペットの餌にも入れるようになってきています。

そもそも人類が大昔からフラックスシード(アマニ)を食べていた記録は数多く存在していて、欧米においては、過去20~30年の間にアマニの栄養価値が学術的に立証され続け、米国のガン協会ならびに食品衛生局もその効用を認めるようになり、それに伴って食用としての消費も増大してきました。既にドイツでは、年間6万トンのアマニがパンやシリアル等を中心に消費され、2005年における米国での消費量は55万トンと報告されています。(日本アマニ協会だより第4号)

中でもオメガ3系脂肪酸、リグナン、食物繊維に焦点を当てて、機能性を整理してみました。
α-リノレン酸がゴマの160倍以上も含まれています。オメガ3系脂肪酸は、血液をサラサラにしたり、アレルギーの予防や免疫力を高める作用が知られます。2015年の保健機能食品制度の改定で栄養機能食品の成分としても指定されました。さらに細胞膜を保護したり、炎症を抑え、紫外線によるダメージから肌を守ることも知られます。フラックスシードの重量の約4分の1がα-リノレン酸で、食品の中でこれほど多く含むものは珍しいのです。

ところで、n-3、n-6系脂肪酸はエネルギー源として利用されるほか、n-3系は体の中でアレルギー反応を抑える物質に、逆にサフラワー油、コーン油、紅花油などのn-6系はアレルギー反応を促進させる物質に変換される。このバランスが崩れると体は不調をきたすことが知られていて、フラックスシードはこの脂肪酸バランスを整えることに有用です。

また「リグナン」は、ポリフェノールの一種で、抗酸化力が高く、炎症を緩和する作用があり、老化防止、ガン予防、動脈硬化予防が期待できる。さらに体内で女性ホルモンのエストロゲンと同様の働きを持つ成分に変わり、悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やしたり、骨の生成をサポートする働きもあります。このリグナンの機能性について、いくつか整理しておきます。

*更年期障害の症状を改善する効果

更年期障害のめまいやほてりなどの症状の原因は閉経前後の女性ホルモンの分泌量の低下によりホルモンバランスが崩れてしまうことにあるわけですが、リグナンは女性ホルモンであるエストロゲンと似た働きをするため、更年期障害の予防や改善に有用です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12270216

骨粗しょう症を予防する効果

骨は骨芽細胞破骨細胞によって新陳代謝が行われています。
骨芽細胞とは骨を作る細胞で、破骨細胞とは骨を破壊する細胞のことです。これらの細胞のバランスが保たれていることにより、骨は強度を保ち新陳代謝を繰り返し行うことができます。この骨芽細胞と破骨細胞のバランスを保つために女性ホルモンは働きます。女性ホルモンが減少してしまうと、このバランスが保てなくなり、破骨細胞の働きが促進してしまい、骨の中のカルシウムが体外へ溶けだして骨がスカスカになってしまいます。女性に骨粗しょう症が起きやすくなるのはこのあたりが要因です。報告では更年期障害を起こしているマウスにおいて、亜麻リグナンを与えることで骨粗しょう症が予防されました。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12270198

コレステロール値を下げる効果

女性は閉経後にエストロゲンの分泌が低下することにより、悪玉(LDL)コレステロール値が高くなる傾向にあります。更年期障害を起こしているマウスに亜麻の種子を与えることで、悪玉(LDL)コレステロール値を下げて、善玉(HDL)コレステロール値を改善したとの報告があります。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15777541

さらにフラックスシードには水溶性食物繊維・不溶性食物繊維ともに含まれているため、便のカサを増やして腸の蠕動運動を促進する働きから、便の硬さの調整、腸内善玉菌の増加・活性化による腸内フローラ改善など便秘解消や美腸作りに嬉しい様々な効果が期待出来ます。

また食物繊維含有量が100gあたり28gと豊富だです。その内訳は水溶性食物繊維が10g・不溶性食物繊維が18g。
便秘解消に効果的と言われる水溶性:不溶性=1:2の比率に比較的近く、普段不足しがちな食物繊維、特に水溶性食物繊維の補給源としても有用だということがわかります。
フラックスシードは水に浸しておくと、ヌルヌルのジェルみたいになりますが、使い勝手が良くないし種をかみ砕くことができないので、パウダーにしてくれてるミールがおすすめです。封を開けたら、酸化するので冷凍庫で保管した方がよいです。

最近では、フラックスシードと同じ効果を持つチアシードも注目されています。
特にアメリカではフラックスシードよりチアシードの方がヘルシーな人たちに好まれているようです。どちらも見た目がゴマのような感じですが、チアシードは柔らかいのでそのまま食べることもできます。フラックスシードは、殻が硬いのでそのままは食べられず、オイルとして摂取するのが一般的という点も要因なのでしょう。

本来、日本人は魚や穀物・野菜をたくさん食べる民族だったので、脂肪酸が不足することはなかったのですが、昨今はカルシウム同様、不足しがちな栄養素になってしまいました。昔のように穀物として食事に取り込むことは難しくなってきましたが、幸い食用油として各メーカーさんからいろいろ食べやすい食品が出てくるようになったので、積極的に摂取したいものです。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)

「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著
「中世の食生活」B・A・ヘニッシュ著 藤原 保明 訳
「中世ヨーロッパの生活」ジュヌヴィエーヴ・ドークール著 大島誠訳
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「Botanical Safety Handbook」 アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
・Prasad K. (2005) “Hypocholesterolemic and antiatherosclerotic effect of flax lignan complex isolated from flaxseed.” Atherosclerosis. 2005 Apr;179(2):269-75.
・Martin JH, Crotty S, Warren P, Nelson PN. (2006) “Does an apple a day keep the doctor away because a phytoestrogen a day keeps the virus at bay? A review of the anti-viral properties of phytoestrogens.” Phytochemistry. 2007 Feb;68(3):266-74.

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