目次
胃腸対策と抗うつ効果のカミツレパワー
ジャーマン・カモミール German chamomile
ハーブの定番とも言え、世界中で使われている薬用ハーブです。
学名:Matricaria chamomilla/Matricaria ricutita (マテリカリア カモミラ/リクチタ)
和名・別名:カミツレ
科名:キク科
使用部位:花部
植物分類と歴史
カモミールはヨーロッパ原産のキク科植物で、オランダ語ではカミツレ、フランス語ではカモミーユと呼ばれる。ハーブとして親しまれているものには、多年草のローマン・カモミール(学名は異なりAnthemis nobilis L )と一年草のジャーマン・カモミールの2種類があり、特にジャーマン・カモミールに胃炎・ストレス・不安・不眠症などへの効能が期待されているハーブ。日本でも、カフェなどでは、ローズヒップと並んで、ハーブティーの代名詞のひとつとなっている。またカモミールを表わす言葉は『可憐な恋』で、乙女のやさしさや純粋さを表わしている。
そのほかの近似種として、以下の種がある。ただし薬用ではない。
ワイルドカモミール/モロッコ(モロカン)カモミール:学名Ormenis Multicaulis/Ormenis mixta
(100cm以上の丈になる場合もあり一年草。花びらの先はハートのようにすこし割れている。花の中心に近い部分が黄色いのが特徴)
ケープカモミール:学名Eriocephalus punctulatus
(ケープカモミールは他のカモミールとは少し違った外見で、一見カモミールとは思えないほど異なる花である)
一般的にカモミールというと、ジャーマン・カモミールを指すことが多く、古代ギリシア語の「地上の(chamai)リンゴ(melon)」から派生された「カマイメロン(chamaelan)」に由来している。そのためか、よくりんごの香りにたとえられる。
俗に、「消化管の健康を維持する効果や抗炎症作用、鎮静作用、抗菌作用などがある」といわれている。使用法も経口摂取、外用、また入浴剤をはじめ、シャンプーやローションに配合されることも多い。
古代エジプト、アラビア、バビロニア、ギリシャ、ローマの自然療法士たちが処方し、のちにシルクロードを通って東洋にも伝わっていった。日本でも古くは江戸時代に伝わり、加密列(カミツレ)薬として、日本薬局方にも第7改正(1962年)まで「カミツレ花」として収載されていた。
古代エジプトでは安眠の薬としてよく用いられたハーブで、あのクレオパトラも安眠の薬として愛用したと言われている。古代ギリシャのディオコリデスは、出産、膀胱炎、肝臓疾患の薬草として、著書に記しているほど歴史の長いハーブ。古代エジプトやローマ時代から痛みの鎮静薬、婦人病の薬として、その薬効が活用され、月経痛などの女性特有の症状の緩和に用いられていたことから、別名「マザーハーブ」とも呼ばれている。
イギリスでは中世から親しまれ、別名が『植物の医師』と言われ、害虫駆除にも用いられていた。中世ヨーロッパの植物療法で有名なヒルデガルトは、カモミール軟膏は「花をつぶしてペースト状にし、バターを混ぜて軟膏を作る」と記した。この軟膏の効果は「カモミールの温性と消炎作用がバターの穏やかな温性と結びついて痛みを和らげる」と考えられる。
成分ほか
精油(αービサボール・カマズレン)、マトリシン、フラボノイド(アピゲニン・ルテオリン)など
安全性基準
クラス1:適切に使用する場合、安全に摂取できるもの
相互作用:クラスA
(Botanical Safety Handbook 2nd Edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
*ただしキク科アレルギーの人は要注意
学術データ(食経験/機能性)
カモミールの民間での伝承的な効用は多岐にわたっていることは前述のとおり。イギリスの童話「ピーターラビット」の話の中にもカモミールティーが登場するほど、親しまれてきたハーブの一つだ。特に消化管の健康を維持する効果や抗炎症作用、鎮静作用、抗菌作用などがあると報告されている。
古くはクレオパトラが安眠の薬として利用していたなど、古代エジプトや古代ローマの時代から、「痛みの鎮静薬」、「婦人病の薬」としてその薬効が活用されていた。リラックス効果があり、不眠症や不安神経症等の治療に使われている。
また、ドイツのNaturwissenschaften誌に発表された論文のなかでは、スペイン北部にあるエル・シドロ洞窟に住んでいたネアンデルタール人がカモミールを食用だけではなく、自然治療のためにも使っていたと報告している。(スペイン・バルセロナ自治大学の研究グループによる)
中世ヨーロッパの植物療法で有名なヒルデガルトは、カモミール軟膏は、「花をつぶしてペースト状にし、バターを混ぜて軟膏を作る」と記した。この軟膏の効果は「カモミールの温性と消炎作用がバターの穏やかな温性と結びついて痛みを和らげる」。と考えられる。
今日では、アズレンを含む精油成分がカマズレンに変化していくことで抗炎症、鎮痛、鎮痙などに関与することがわかっている。その臨床研究は 1930 年代にベルリンの薬理学者ヒューフブナーらが精油成分である、アズレンに優れた消炎作用が認められたことに端を発する。
さらにフラボン、苦味質、タンニン、クマリンなど多くの有効成分が重要な治癒物質を含んでいることが、この植物が古の人々の胃や腸の薬となり、炎症を起こした粘膜を修復してきた歴史を物語っている。現在ドイツではカモミールが歯肉炎の予防や治療に有効とされている。ドイツの植物療法のリーダーであるヴァイス氏は、ジャーマン・カモミールには消炎性、ペパーミントには制吐性、メリッサ(レモンバーム)には鎮静性、鎮痙性の性質があるとして3者の補完的な関係を捉え、 胃炎、胃潰瘍にはジャーマン・カモミールを、胆嚢疾患にはペパーミントを、神経性胃炎にはメリッサをすすめている。一方、抗炎症作用・抗菌作用を持ち、皮膚にやさしく保湿効果も高いことから、入浴剤をはじめ、シャンプーやスキンケア用品にも配合されていることは周知のことであろう。特に子供には効果的で、皮膚がただれている赤ちゃんの治療にも、非常に役立つと言われている。アルコールチンキは蒸気吸入として使うことで、上気道の炎症にも効果があると言われている。
*蒸気吸入の方法:カモミールの花と カモミールチンキをボウルの中の熱いお湯に入れる。そのボウルを覆うように顔を近づけ頭の上にタオルを被り、気をつけながら深呼吸をする。
●鎮静作用と消炎作用
鎮静作用や催眠作用もあるので神経が高ぶっている時や不眠に悩まされている時にカモミールティーを飲めば、精神がなだめられてスーッと深い眠りに入っていくことができる。エジプトでは昔、「怒り」を抑えるために使用されていた。「体の中の痛みを和らげる力を創造主はカモミールに授けた」とケルト人に言わせたカモミールは、「お腹の調子が悪いかも。」と思ったときのハーブの救世主だ。世界中でもっとも愛されているといっても過言ではないハーブティーのひとつで、胃腸炎や胸焼け、冷え性からくる生理痛などにも有用だ。またペパーミントとの相性もよいため、ブレンドすると味わいも香りも深まる。ドイツではペパーミントとのブレンドが胃炎や過敏性腸症候群の治療に使われる。
また平滑筋(血管、気管、腸管、胃、膀胱、子宮などの臓器壁を構成している筋肉の一種で不随意筋)を落ち着かせる効果があるため、ストレスからくる腹痛、胃痛、生理痛等に効果を発揮する。月経痛などの女性特有の症状の緩和に用いられていたことから、別名「マザーハーブ」とも呼ばれている。
●糖化反応阻害剤として
冒頭でも記したが、この数年、カモミールの機能性として注目されているものにアンチエイジングがキーワードになってきた。つまり「抗糖化」である。
近年、心筋梗塞やがん、アルツハイマーなどの加齢に伴う病気の発症に関係するものとして注目されている反応で、体内の余分な糖分がタンパク質と結びつき、結果、強力な「老化促進物質」を作り出し、身体の細胞を老化させる現象だ。
一般的に糖化反応阻害剤の種類としては「合成化合物」「既存医薬品」「ビタミン類」「その他の物質」「天然物質中の成分」に大別される。近年、機能性素材市場では抗糖化作用を有する天然物が食品・化粧品原料として利用されている。これらの抗糖化作用は、糖たんぱく質のin vitro反応系でのAGEs(最終糖化生成物)生成阻害作用で評価されている。(ただし、臨床評価例はまだ少なく、多くの素材で有効性が明確になっているわけではない。)ローマン・カモミールのカマメロサイドも有名な抗糖化関与成分のひとつだ。このカマメロイドによる3DG(3-deoxyglucosone)、CML (carboxymethyl)、ペントシジン(pentosidine)などの前駆体やAGEsなどの生成抑制効果が確認されている。
カマメロサイド
●その他の科学的有効性
*カモミール抽出物が血糖値上昇に関連する酵素アルドース還元酵素を抑制することから、血糖値上昇抑制効果ならびに抗糖尿病効果が示唆されている。
*老齢マウスにおいて、カモミールに含まれるフラボノイドの一種カミロフランを摂取させたところ、胆汁酸分泌量が増加したことから、胆汁分泌効果と肝臓脂質減少効果があることが示唆された。
*カモミールティーの飲用によって、末梢皮膚温を上昇させる、心拍数を低下させる、自律神経系を副交感神経優位にする等々の報告が多く見られる。また感情測定尺度(M CL-S.1)によってリラックス感得点の上昇を認めたことが報告されている。
*カモミールエキスを添加したゼリーを温めた状態で摂食した場合には末梢皮膚温の上昇や心拍数の低下が起こり,副交感神経優位の傾向が示された。睡眠実験では、カモミールエキス添加ゼリーの摂食日の夜間睡眠では、眠気の因子,寝つきの因子などが、無添加ゼリーを摂食した日に比べて改善したことが報告されている。
(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)
研究報告紹介
抗うつ効果
ジャーマンカモミール(Matricaria chamomilla)の花は、アピゲニン、ケルセチン、パツレチン、ルテオリンおよびそれらの配糖体など多くの有効成分を含み、その抗炎症、抗酸化、抗がん、神経保護、抗アレルギー、抗菌作用などが知られている。
抗うつ作用においては、これまでもいくつかの研究報告がなされている。カモミールに含まれる活性成分が、TNF-およびIL-1の組織レベルを低下させるなどの抗炎症効果を示すだけでなく、カテコールアミン、5-HT、および アミノ酪酸 (GABA) などの神経伝達物質を制御(文献1)、HPA軸を調節することにより抗うつ効果をもたらす作用(文献2)が、その抗不安作用とは別に独立して存在する可能性があることを示唆されている。
文献1(柑橘類に関連する化学物質アピゲニンの抗うつ薬のような行動および神経化学的効果 )
Yi LT, Li JM, Li YC, et al. Antidepressant-like behavioral and neurochemical effects of the citrus-associated chemical apigenin. Life Sci. 2008 Mar 26;82(13-14):741-51. doi: 10.1016/j.lfs.2008.01.007. Epub 2008 Jan 30.
文献2(ウシの取り扱いストレスを防ぐ効果)
Reis LS, Pardo PE, Oba E, et al. Matricaria chamomilla CH12 decreases handling stress in Nelore calves. J Vet Sci. 2006 Jun;7(2):189-92. doi: 10.4142/jvs.2006.7.2.189.
参考図書
「The Green Pharmacy James A Duke著
「The complete New Herbal Richard Mabey著」
「Botanical Safety Handbook アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集」
「メディカルハーブの辞典 林真一郎編集」
「ハーブの安全性ガイド Chris D. Meletis著」
「薬用ハーブの機能研究 CMPジャパン(株)編集」
「Fifty Plants that changed the course of History Bill Laws著」
『西洋博物学者列伝―アリストテレスからダーウィンまで』ロバート ハクスリー著
「ケルトの植物」Wolf‐Dieter Storl (原著)
データベース
Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版 Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
米国国立医学図書館 PubMed®
どんな風味?
キク科独特の苦みはありますが、香りはフルーティーでリンゴに似ていて、とてもよい香りと甘酸っぱく果実を思わせる風味が特徴です。
ティーを淹れる際は、抽出時間を4,5分を目安に淹れます。量が多いと苦くなるので注意しましょう。また5分以上淹れるとえぐみなどが出る為、苦手な場合はそれ以前に出し切るようにします。また茎部分が多いとハーバルな香りが強くなります。
おすすめブレンド
おすすめのブレンドは、ミントとのブレンドが有名です。胃がしくしくするときや二日酔いなどで胃が疲れているときなどにもおすすめです。そのほか、ローズヒップ、レモングラス、ルイボスなどとのブレンドも良いですよ。
こんな使い方もありますよ!
浸出液(ハーブティー)は湿布に使えば傷や湿疹、やけどの治りを早めます。暑い季節は、あせものケアや赤ちゃんのおむつかぶれにもおすすめです。また目の疲れにも、冷たくした浸出液をガーゼに浸したアイパックがおすすめで、これはヨーロッパで古くから伝わる民間療法です。
またマカダミアナッツやアーモンドオイルといった植物オイルに浸して、浸出油(インフューズドオイル)を作っておくと、お肌のトリートメントや、ミツロウを使ってクリームに仕上げることもできる手作り化粧品の材料としても使えますよ!
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