日本のハーブ女王は抗糖化の救世主か〜ヨモギ

よもぎ

ヨモギ〜伝統食材は豊富な食経験をもつ

ヨモギ Yomogi
日本のハーブとしてのヨモギに焦点を当てて、その機能性を食経験と和方(日本の漢方以前から続く民間療法)の歴史的背景を交えながら紹介します。

学名:Artemisia princeps Pamp.
和名・別名:餅草(モチグサ)、繕草(ツクロイグサ)
生薬名:艾葉(ガイヨウ)
科名:キク科
使用部位:枝先、葉部


植物分類と歴史

ヨモギ属Artemisiaはおよそ250種もあり、主に北半球に広く分布し、日本だけでも北海道を除く各地の山野に見られる多年草で30種があって特産種もある。その中でも以下の3種類が、日本全国で一般に「ヨモギ」と呼ばれている植物である。3種は植物学の分類上かなり近縁の種である。加えて日本のほぼ全土に、これらのうちいずれかのヨモギが自生することになる。

ヨモギ(カズサヨモギ)Artemisia princes Pamp.〔分布〕本州・四国・九州・小笠原・朝鮮
カズサヨモギ

ニシヨモギ(沖縄ではフーチバー)Artemisia indica Willd.〔分布〕本州(関東地方以西)・九州・琉球・台湾・中国・東南アジア・印度
ニシヨモギ

オオヨモギ Artemisia montana (Nakai) Pamp.〔分布〕本州(近畿地方以北)・北海道・樺太・南千島

ただし、本州・四国・九州・小笠原地方以外の土地で「ヨモギ」と呼ばれているものは、厳密にはヨモギではなく「ヨモギ属植物」であると言える。正確を期すためには北海道・南千島地方のものはオオヨモギ、沖縄県のものはニシヨモギと区別すべきかもしれない。あるいは日本語の学名と区別するために「よもぎ」と、かなで表記するのが本来は望ましいとされる。またヨモギを使った食品の場合も「よもぎ」と表記することにしたい。

茎の高さは50~100cmになり多数分枝する。葉の裏面には白色の綿毛が密生し、秋には淡褐色小形の頭花を多数つける。夏から秋にかけ、花序(かじょ。枝上における花の配列状態)を出して目立たない花を咲かせる。頭花は少数の筒状花のみから構成され、舌状花はない。色は紫褐色で、咲いたとは思えない。頭花の幅は1.5mm、長さ3.5mmほどだ。

カズサヨモギの花

また、ヨモギはセイタカアワダチソウ 学名Solidago canadensisと同様にアレロパシー(植物が他の植物の生長を抑える物質(アレロケミカル)を放出したり、あるいは動物や微生物を防いだり、あるいは引き寄せたりする効果の総称)の能力を持っている。
地下茎などから他の植物の発芽を抑制する物質を分泌する。自らの種子も発芽が抑制されるが、ヨモギは地下茎で繁殖するので、特に問題はない。よくヨモギが密生して生育する理由は、ここにあるのではないだろうか。
葉は羽状に分裂してキク科植物の特徴を良く示している。茎や葉の裏には密に絹毛があり白い。この毛を集めて「もぐさ」を作る。
このほか、よもぎ酒やよもぎ風呂、せんじ薬など民間薬として使われてきた。夏の夜、葉を立てて葉の裏が見えるようになる。夜歩いていると、ヨモギが生えているのがおぼろげながら、白く光って見える。これは毛に覆われている面を外に向け、夜にやってくる蛾などの産卵を防いでいるのではないかとの説もある。地下の根茎は横向きに走行枝を出して伸び、各所から芽を出して拡がることから「佳萌草ヨモギ=佳く萌える草」の名が、あるいは、もぐさにちなみ、良く燃えることから「良燃草=ヨモギ 」の字をあてるともいわれている。


●ヨモギの歴史

学名のArtemisia(アルテミシア属)は、ギリシャ神話の女神アルテミス(アポロンの妹で月の女神)が婦人病に使ったことから、女性の健康の守護神といわれたことに由来する。
ヨモギは、以前のこの企画でも紹介した通り、ヨーロッパでもニガヨモギ(ワームウッド)学名Artemisia absinthiumという魔女の薬草の一つとして、有名なアブサンなどの薬草酒をはじめとして、広く民間利用されてきたハーブである。


ニガヨモギ(ワームウッド)

中世オランダでは、マグワート(オウシュウヨモギ)学名Artemisia vulgarisの小枝で作られた王冠は悪魔に対する防衛手段として、聖ヨハネの日のイブに着用していた。フランスでは、ヨモギのことを「エルブ・ロワイヤル(王の草)」、中国では「医草」と呼ばれている。とくに東洋医学におけるヨモギの総合的評価は非常に高く、驚くべき生命力で、ヨモギの語源が広く四方によく繁殖するので「四方草」、よく萌えでる草から「善萌草」であるといわれるほどである。このヨモギの生命力にあやかって、人々はヨモギを魔よけや厄払いに利用していた。さて、すこし日本での歴史を見ていこう。

日本での薬草の歴史を語る上で、外せないのが、伊吹山である。漢方生薬を学んだ方なら、誰でもご存知だろうし、野草好きの聖地の一つでもある。知らない方のために、少し伊吹山を紹介しておく。


伊吹山全景
岐阜県の滋賀県の境界に位置し、日本百名山の1つでもある伊吹山は、昔から薬草の宝庫と呼ばれている。神秘的な逸話も残されており、約2000年前、「日本武尊(ヤマトタケルノミコト)別邦次山の賊徒と大蛇に遭遇した際に受けた大傷を癒した」という伝説や「もともとはアイヌ系の民族が暮らしていた山」という説まである。最近はスピリチュアルポイントとして若い人の間でも知る人も増えている。伊吹山の北尾根は、岐阜県と滋賀県、福井県と石川県の県境の山並み、遠く白山まで続いている。白山からの山並みは北方系の植物群を運んでくるが、関ヶ原辺りのように標高の低い狭地は通ることができず、伊吹山でその分布が止まることになる。逆に暖地系の植物群は伊吹山の山麓で北上が拒まれることになる。また、伊吹山辺りが、太平洋側の温暖な気候と日本海側の寒冷な気候とのちょうど境にもなっているということもあり、伊吹山の立地環境そのものが植物の多様性、固有種を生んでいる要因だ。このように、伊吹山は自然条件に恵まれ、植物の種類が多く、古来より薬華の宝庫として親しまれているが、この伊吹薬草の歴史をたどっていくと、712年「古事記」では伊服技能山(イブキノヤマ)、720年「日本書紀」では胆吹山(イブキヤマ)とも記されているとおり、この辺りから薬草地としての価値が高まったのではないかと思われる。さらに伊吹薬草の山として有名になったのは、織田信長が人の病を治すには薬が必要であり、そのためには薬草栽培が必要であると進言したポルトガルの宣教師に命じて、伊吹山に薬草園を開かせたことからである。50ヘクタールという広大な薬草園には、西洋からもってきた薬草が3000種類も植えられた。当時から、伊吹山が薬草園として適地であったこと、そこにはすでに豊富な薬草が自生していたことからと考えられている。また有力な武器である鉄砲伝来とともに、火薬の原料となる薬草や、鉄砲によって受ける治療のための薬草を必要としていたのではないかとも考えられている。のちの江戸時代初期には「南蛮荒廃記」「切支丹宗門本朝記」「切支丹根元記」などに薬草園の記事が記録されている。


●伊吹山のヨモギ

伊吹山にはシダ植物以上の維管束植物は1300種類が分布していて、そのうち薬用植物は280種類ほどとされる。日本薬局方に収載され、医薬品として取り扱われるものから、漢方薬や民間薬として特に伊吹山周辺部での人々が現在も用いているものは100種類を越えていて、全国的にも珍しい地域である。

 
イブキボウフウの自生地(左)と軒先きで乾燥させている薬草たち(右)

伊吹山の植物は前述の通り、地理的、地質的、気候的な立地条件から伊吹山にのみ自生する伊吹山特産種類、北方系要素の植物、多雪型日本海要素の植物、好石灰岩植物などが見られ、特殊な立地条件から、イブキトラノオ、イブキトウキ、イブキタンポポ、イブキボウフウなど、伊吹の名前が頭についた植物名が多いのも特色だ。
中でもイブキジャコウソウこと、学名Thymus quinquecostatus(西洋のタイムにあたる)や「伊吹もぐさ」で有名な今回のヨモギなどがある。
ちなみにヨモギ、トウキ(当帰)、センキュウ(川芎)が「伊吹三大薬草」と呼ばれる。

伊吹山のヨモギ畑


●アイヌとヨモギ

北海道で普通にみられるのは「エゾヨモギ(オオヨモギ)」と呼ばれるもので、その他に海岸近くでは真っ白い毛で覆われた「シロヨモギ」、高い山では、低い山では「オトコヨモギ」や「イヌヨモギ」など20種くらい確認されている。日の良く当たる所ならどこでも生える逞しい野草だが、最近は悪名高く繁殖力の強い同じキク科の「セイタカアワダチソウ」に縄張りを侵略され、勢力争いに押され気味ということらしい。アイヌの人々はヨモギをこの世に最初に生えた草と考え、とても霊力の強い草として考えていた。
アイヌ語ではヨモギを「カムイノヤ」=神の草と呼び、各種の病気の薬として利用したり、ヨモギの強い香りが病魔を追い払う力を持つと信じられ、呪術的にも使われていた。中でもノヤイモシ(よもぎで作った守護神)は、天然痘などの伝染病が流行したときに緊急に造られるもので、どんな魔物でもこのヨモギで作った刀や槍で切られたり突かれたりすると、二度と蘇生することができないものだと信じていたからだ。ちなみにノヤ(noya)とは「もみ草」の意味でノヤノヤ(noya noya =もみのもむ)が語源であると言われている。

ノヤイモシ(平取町立二風谷アイヌ文化博物館NAH-M-19910927)


●琉球(沖縄)とヨモギ

沖縄で自生しているヨモギはニシヨモギという種類だ。沖縄は現在でも病気を治すのも食事をするのも、本質的には生命をつなぎ、健康を保つためにあるという「薬食同源(医食同源)」の考え方が浸透しており、数多くの薬用植物や海藻を材料に使うことも多い。ヨモギも「フーチバー」と呼ばれ、ヌチグスイの一つだ。
フーチバーは「フーチ」=病気を治す、「バー」=葉、つまり病気を治す葉という意味の名前になる。沖縄の言葉で食べ物のことを「ヌチグスイ(命の薬)」と呼ぶ。現在でも食後に「ご馳走様」ではなく「ヌチグスイになった(命の薬になった)」という表現が、日常的に使われる。

フーチバーの雑炊

沖縄に伝わってきた薬に対する独特の考え方として、「サギグスイ(下げ薬)」がある。
下げ薬は一般的には下剤として扱われるが、沖縄では中医学的な意味の「気」などの、のぼせを下げる薬、またはインドのアーユルヴェーダの考えに近い老廃物を浄化して取り除く薬と解釈されている。また「チーシマグスイ」も沖縄特有の考え方で、漢方における瘀血(おけつ)を改善する薬という意味を持っている。祖先を神として祀る独特の信仰など、沖縄には独自の伝統があり、食事に限らず自然の恵みもクスイ(薬)として取り入れることで健康であろうとする意識も受け継がれている。このフーチバー(ヨモギ)以外にも、チョーミクサ(ボタンボウフウ)、ンジャナバー(ホソバワダン)などが使われている。


●ヨモギの食経験

ヨモギはご存知の通り、春から初夏にかけての若葉を食用とし、日本では草餅や団子、おひたし、和え物、天ぷらやお茶として親しまれている。摘んだヨモギは、茎の堅い部分を折って取り除き、きれいに洗って塩を加えた熱湯でゆでる。ゆでたヨモギは水にとってそのまま1時間程おいて、もち米に混ぜ、草餅やヨモギ団子などにするのが一般的だ。ヨモギは日本人にとって極めて身近な存在であり、あの独特の香りから春の訪れを感じる植物としても愛されている。

一般にヨモギは茎が大きく伸びてくると雑草としてあまり利用価値(食用として)が無いように思われがちだが、伸びたものでも柔らかい葉は天ぷらに、柔らかい茎はキンピラにして食べると美味しい。アイヌの時代には葉を穀物やイモなどのだんごやもちに混ぜて食べていたし、また若い時期に葉を採集し、ゆでてから平らに固めて干して保存した。ヨモギの若葉は5月の節句の草餅に、煎じてせき止めや虫下しに、怪我をした時にはもんで傷口に当てて血を止め、さらにはもぐさにして、いぶして蚊遺に使ったり、かなり広く使われていたようだ。

また沖縄でもフーチバーは苦味が柔らかい種類なので、生で刻んで調理したり、健胃剤として飲んだり、リカーに漬けたものをヨモギ(薬用)酒として利用したりと、自宅の庭先や畑の隅っこなどの場所でも見ることができるくらい身近な沖縄料理に欠かせない食材だ。またニオイ消しの薬味として使うこともあり、クセの強いヤギ汁などの料理のにおい消しとして利用するほか、沖縄そば、ジューシー(雑炊や炊き込みご飯)、菓子、お茶などにも使われている。


ヤギ汁とフーチバー

ところで、日本の風習に「めでたいときは紅白で飾る」というのがある。その中に紅白の餅があるが昔は白と緑の餅が飾られていた。緑の餅は当初、ハハコグサ(母子草)学名Gnaphalium affineを使っていたが、厄を払う意味が込められ薬配して利用されていたヨモギが使われるようになった。ヨモギを使った餅は中国から伝わり、ヨモギの葉を軒先に飾るのは魔よけとしての意味が込められている。
雛祭りの菱餅にもヨモギが使われているが、白色は菱の実を使っており、菱の実には胃腸を整える作用がある。緑色はヨモギを使用しており、生理不順、子宮出血などの女性の病気治療に効果がある。ピンク色は江戸時代には無く、明治時代に菱餅の一番上に置かれた。ピンク色は桃をイメージしており、その桃には色々な薬効があり、その1つに便秘解消の作用、桃の種には月経痛、無月経などの女性研丙気治療に効果がある。雛祭りが女の子の成長を願い、菱餅もその意味が込められているというわけである。

また10年程前から韓国のヨモギ蒸しが日本でもブームとなり、美容と婦人科系の改善に役立っており、ヨモギを美容分野に取り入れた商品もよく目にするようになった。このようにヨモギはただ食するだけではなく、様々な想いが込められた植物なのである。また、ヨモギは腰痛や神経痛などの『お灸』の原料となる艾(もぐさ)として使われているのは有名である。またヨモギのチンキで痒みをとったりと、「食べても、飲んでも、つけてもよし」という『よもぎ療法』が日本の文化に深く関与してきた。このお灸だが、約3,000年前の古代中国の北方地方においてお灸が始まり、日本へ伝わってきたのは西暦600年ほど前の話だ。日本には平安時代に伝来し江戸時代のころには庶民層まで広がっている。松尾芭蕉が旅立ちに際し、三里にお灸を据えたことはよく知られている。そこでお灸について少し調べてみた。


●お灸の歴史


鍼灸治療が歴史上で確立されたのは、東洋医学の源、中国の殷王朝・周王朝(紀元前1500年~700年)時代と言われる。黄帝とその家臣が、幾多の問答をしながら、薬理の集積を編述したと云われる医学原典が世界最古の『黄帝内経(こうていだいけい)』の素問(そもん)と霊枢(れいすう)(紀元前1200年頃)だ。
この原典が生まれた黄河流域は北方の痩せた土地(つる草やよもぎ草程度しか繁殖しない)の地域の為に、石バリで膿等を出したり、圧したり、ヨモギ草を健康食やお灸材として利用するしか、すべがなかった地域であり、人間の自然治癒力を利用する治療方法を石バリやお灸で見つけ出したのであろうと考えられている。この医学原典を鍼灸の起源とすれば、お灸治療は3000年以上の歴史がありことになる。鍼灸は仏教伝来と深く関係し日本に渡来する。

飛鳥文化時代の欽明天皇(552年)の時、中国呉の国から薬書・明堂図などの鍼灸医書が輸入されたのが最初であると思われる。次に奈良朝時代の文武天皇(700年)の『大宝律令』には、わが国始めての医事制度(一般医療科と鍼灸の専門科等)が制定され、鍼灸が国家の医療として確立した。そしてわが国最古の医書『医心方(丹波康頼著)』が984年に完成し、今日の鍼灸の指導書の基となっている。
安土桃山時代から江戸時代には、宗教医学を改め、中国医学を日本化した実証医学の開祖、曲直瀬道三が「道三流鍼灸」として天皇や幕府に仕えていた。さらに江戸時代になると古方医学の名古屋玄医が、徳川綱吉時代には杉山和一の杉山流鍼灸などが発展し、実証的東洋医学の全盛時代となっていく。お灸の全盛もこの頃で、徳川綱吉時代の延宝元年(1673年)から元禄3年(1960年)にかけて、オランダやドイツの医者が来訪し、各著書の中に灸治療を記述すると共に、お灸の材料にはモグサ(Moxa)と日本名で、広く欧州にもモグサを紹介している。
しかし明治時代になり、維新の変革ですべてが西洋風潮となり、治療方法も西洋化し、鍼灸治療の優秀性を主張する医術者の努力も充分でなかった事もあって、明治28年の国会で「医師免許規則改正法律案」が否決され、鍼灸医術はついに民間療法と位置付けをされてしまったのである。ただ現在はまたセルフケアの観点から鍼灸を見直す環境が出来上がりつつあるようだ。
お灸に使う「もぐさ」は、主にオオヨモギの葉を5月頃に採取し、陰干しで乾燥してから臼でつき、粉末を取り去ると葉の裏の白い毛の部分が残る。良質の「もぐさ」は葉脈や葉柄が混ざらず、白く柔らかい綿のようにしたもので、滋賀県の「伊吹もぐさ」などが有名である。伊吹もぐさの歴史は古く、百人一首の51番目にある、藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)の歌、
「かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 萌ゆる思ひを」
に登場するので、ご存知の方も多いのではないだろうか。

◎解説=こんなにもあなたのことを恋しているということだけでも、私は打ち明けて言えないが、よもやあなたは伊吹のさしもぐさのように燃える私の思いご存じないでしょうね。(解説は諸説あるようだ)


もぐさの成分としては 蝋(ろう)分、トリコサノール(tricosanol)カプリン酸(capric acid)パルミチン酸(palmitic acid)、ステアリン酸(stearic acid)などの脂肪酸の混合物が知られている。
元来ヨモギは仙人草で下熱剤・駆虫剤・利尿剤・止血剤としての効能がある。またもぐさは「燃え草」の意味も有り、古代より木を擦って火を起こす時の点火材(ホグ)として、点火しやすく消え難いという長所があり、お灸に向いているのだろう。ヨモギの独特な香りは、体を温める、胃腸を丈夫にする、冷え性、腰痛、生理痛、生理不順、筋肉痛、リウマチ、喘息、気管支炎、貧血、整腸などに効果が期待できる。
精油成分のシネオール、α‐ツヨンの香りの力はヨモギの灸の治療効果を高める働きがある。

学術データ(食経験/機能性)

さて生薬としては、6~7月に採取した葉および枝先を乾燥したものが「艾葉(ガイヨウ)」で、艾葉は艾(モグサ)の葉を意味しており、第16改正日本薬局方第一追補に収載され、味は苦・辛、性は温とされる。
葉には精油が含まれ、その主成分はシネオール(cineol)、ツヨン(α-thujone)などである。止血、鎮痛作用などがあり、漢方では、『金匱要略(キンキヨウリャク)』に収載が見られる、「芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)」に配合されている。これは貧血や冷え症治療の基本処方である「四物湯(シモツトウ)」といい、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)に 甘草(カンゾウ)、阿膠(アキョウ)および艾葉を加えたもので、主に女性の不正出血、月経過多、痔の出血、皮下出血などに応用される。

また他の薬草と組み合わせて、腹痛や下痢止め、利尿、解熱、鎮咳、便秘などの改善にも効果的だ。ヨーロッパでもヨモギはリウマチや不妊に効果のある薬草として用いられている。ただし妊娠中の摂取は控えたほうが良い。その他、伊吹の御百草などの浴湯剤に配合され、腰痛や冷え症、湿疹などに効果があるといわれている。また新鮮な葉をよく揉んで外傷に貼ると出血が止まることが知られている。

また美容の分野では、よもぎ蒸しに代表されるように、婦人科系疾患の改善、美肌・美白の美容効果、冷えの改善などに効果が期待される。ヨモギ蒸しとは、約600年前から韓国に伝わる伝統的な民間療法でヨモギと数種類の薬草を煮詰めることで発生した漢方成分を含んだ蒸気を利用した美容法だ。漢方成分を多く含む蒸気を体の下半身を中心に当てて温めることで、体に良い漢方成分が皮膚から吸収されやすくなる。蒸気を全身に浴び、体の芯を温めて発汗することで、代謝が上がり、体に溜まった老廃物や毒素を排出するように促す。女性には嬉しい伝統療法の一つだ。

そのほか、伊吹山のヨモギを使った、岐阜県産業技術センターでの2012年の研究報告が知られる。
ヨモギのクロロゲン酸や3.5-ジカフェオイルキナ酸の抗酸化作用、血統上昇抑制作用など生理機能への機能性が報告された。クロロゲン酸は褐色細胞の活性を高め、脂肪燃焼を助けると言われている。ジカフェオイルキナ酸はa—グルコシターゼ阻害作用による血糖値降下作用や、強いACE阻害活性を示し、収縮期血圧において用量依存的に血圧の上昇を抑制する作用、抗酸化作用、メラニン色素を抑え、美白効果をもつとも明らかにされている。

さらにヨモギの強力な抗酸化作用だけではなく、ヨモギに抗糖化作用も確認されている。単なる糖化の抑制ではなく、糖化反応によって生成した*AGEs (advanced glycation end products)を分解する作用である。
ヨモギ抽出物には糖化によって形成された架橋結合を切り離す作用があることが確認されている。過去に国内企業でも既にできたAGEsをヨモギ抽出物が分解することを確認している。今では多くの化粧品原料としてヨモギエキスが使われているのは周知の事実であろう。
*AGEsはタンパク質と糖の反応により生成する最終産物で、生体では加齢に伴って蓄積することが知られている。特にコラーゲンなどの生体における代謝回転の遅いタンパク質に蓄積が認められており肌老化の因子の一つである。

ところでサプリメントにおける抗糖化素材では、マンゴスチン、黒ガリンガル、混合ハーブなどの植物成分が注目されている。またクロモジのエキスの抗糖化作用は内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術の成果として報告されている。
既にヨモギ抽出物のAGEs分解作用は前述の通り、化粧品に利用されてきたが、食品素材にも同様の可能性が示されている。フェンネル、ハイビスカス、フェヌグリークなど、ハーブの混合エキスはAGEs架橋分解作用と酸化タンパク質分解酵素(OPH)の活性増強作用を有し、ヒト臨床試験において血中ペントシジンの低下が報告された。
体内のAGEs分解作用は今後さまざまな素材で検証され、次世代の抗糖化対策となる可能性があると思うので、ぜひ注目したい分野である。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)
「パートナー生薬学(改訂第3版増補)」竹谷孝一他
「日本薬草全書」田中俊弘著 新日本法規
「漢方薬理学」 南山堂 高木敬次郎ら 監修
「和漢薬百科図鑑I/II」 難波 恒雄 著
「原色日本植物図鑑 草本編 1 」 北村四郎 著
「漢方薬理学」 南山堂 高木敬次郎ら 監修
「漢方実用大事典」学習研究社
「改訂第2版 生薬単(ショウヤクタン)」原島広至 著
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「フィトセラピー植物療法事典」フォルカー・フィンテルマン、ルードルフ・フリッツ・ヴァイス著
「Botanical Safety Handbook 2nd edition」アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

「The Complete German Commission E Monograph, Therapeutic Guide to Herbal. Medicines,1998 」American Botanical Council(ABC)

データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版
「BG Plants和名一学名インデックス」(YList)
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳
「ヒトで有効な抗糖化機能性食品の開発と実装化「マンゴスチンとクロモジ」(内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術「次世代機能性農林水産物・食品の開発」)

    関連記事

    1. 邪気を払い、快眠へいざなうハーブティーの女王〜レモンバーベナ

    2. アフリカのミネラルハーブは若さの味方〜ルイボス

    3. フィーバーフュー

      女性の悩みの種を解消、奇跡のアスピリン〜フィーバーフュー

    4. 健康コラムイメージ

      健康食品を考えるVo5 「食品と医薬品って何が違う?その3」

    5. 情熱の赤と天然の酸味が疲れを癒す〜ハイビスカス

    6. 消化機能を促進し血液循環を高めてくれるスパイス〜シナモン

    最近のコメント

      過去の記事検索

      error: Content is protected !!