聖ヨハネの神の薬、メンタルケアハーブ〜セントジョーンズワート

セントジョーンズワート St. John’s Wort

セントジョーンズワートは精神ケアのハーブとして、また傷の手当てや痛みを抑えるハーブとしてオイルや軟膏などにして世界中で利用されてきました。

学名: Hypericum perforatum (ヒペリクム ペルフォラツム)
和名・別名:西洋弟切草(セイヨウオトギリソウ)、
生薬名:貫葉連翹(カンヨウレンギョウ)、小連翹(しょうれんぎょう)
科名:オトギリソウ科
使用部位:開花時の地上部


leaf3_mini 植物分類と歴史

セントジョーンズワートこと、セイヨウオトギリソウはヨーロッパが原産でアジア、北アフリカに分布します。北半球の温帯を中心に300種以上あり、この植物が悪魔を払う力があるとして、中世以降は魔よけとして聖ヨハネの日である6月24日に戸口や室内につるす習慣ができました。
英名の St. John’s Wort はこの聖ヨハネ(英語読みでジョーンズ) に由来します。
高さは 30~90cmで、茎は無毛で円柱状、葉は単葉、長楕円形、対生、無柄で長さは 0.7~3 ㎝で幅は 0.3~1.5cmほどです。花は5弁で黄色。花弁の縁や葉の縁に黒い点をもち、初夏の6月末から7月末に茎先に集散花序(最初の花が枝先につき、その下に次々と側枝を出して花がつく)を出し、たくさんの黄色い5弁花をつけるが、花は一日花です。花びらや萼片には黒い点や黒い線があり、やや縁が多い。雄しべはたくさんあって、つけ根のほうでくっついて3つの束になります。雌しべは1つで、花柱は3つに裂ける。茎には毛はなく緑色で、円柱形をしています。

Hypericum perforatum

オトギリソウ属の代表的な種類としていくつか紹介しておく。

オトギリソウ属(Hypericum)
*セイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum英名:St. John’s wort
ヨーロッパから中央アジアにかけて分布。「セントジョーンズワート」と呼ばれる。
*キンシバイ(金糸梅)(Hypericum patulum)、英名:Tall St. John’s wort
中国原産で、江戸時代の宝暦10年(1760年)に渡来したといわれる。花の形が良く梅に似ており、色が黄色であることが名前の由来である。長い雄しべを金糸、花弁のかたちを梅に見立てて名づけられた。庭木や地覆い用植え込みとして、北海道をのぞく日本各地に植えられている。

Hypericum patulum

*ビヨウヤナギ(美容柳)(Hypericum chinense var. salicifolium
中国の中南部、広西省から湖北省西部、四川省東部に分布。枝先がやや垂れ下がり葉がヤナギに似ているので、ビヨウヤナギと呼ばれる。園芸種。

Hypericum chinense

日本のオトギリソウとセイヨウオトギリソウは近似種だが、同じものではない。オトギリソウは、わが国の山野に普通に見られる多年草で、日当たりのよい草地に好んで生え、高さ20~60cmにのび、茎は丸く直立する。花は7~8月頃茎の先が数多く分かれて多数の黄色花を開きます。オトギリソウ属植物は、日本に20種ほど自生している。同属のものとしてトモエソウ、キンシバイなどがある。これらの種も伝統的薬草として、切り傷などに用いられてきた。

山の谷間に多いサワオトギリ(Hypericum pseudopetiolatum)の葉面には有効成分のヒペリシンが無い明点が散在する。

Hypericum perforatum
Hypericum pseudopetiolatum

日本のオトギリソウ

オトギリソウは漢字で「弟切草」と書くが、平安朝の頃からの伝説はあまりに有名で、江戸中期の漢方医、寺島良安(てらじまりょうあん/1654-1720頃)によって刊行された日本で最初の百科事典といわれる『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(1712年)には、この草を原料とした秘薬の秘密を漏らした弟を兄が怒りのあまり斬り殺したという伝説が紹介されている。
ちょっと紹介しておく。

花山院(かざんのいん=花山天皇/安和元年~寛弘五(968-1008))の御代(みよ)に晴頼という鷹匠が鷹については神わざと思えるほどの知識を持っていた。傷を負った鷹にすぐ適当な薬草を用いると、たちまち全快する。人がその草の名を聞いても、秘して教えない。ところがある時、彼の弟がひそかに秘密を洩らしてしまった。非常に怒った晴頼は刀を抜いて弟を切った。
この事件で、この草が鷹の良薬であることが世に知られ、弟切草と名づけられるようになった。
切られた弟の血しぶきがその葉などに黒点として残ったと思われていたらしい。生薬名は「小連翹(しょうれんぎょう)」といい、果実を結んだ頃、全草を乾燥したもので、タンニンを含み、収斂、含そうや、切り傷の止血薬や鎮痛薬として用いる。中国では「貫葉連翹(カンヨウレンギョウ)」と呼ばれて、清熱、解毒、収斂、止血の効能があると中薬大辞典に記されている。喀血、吐血、腸風下血、外傷出血、リウマチによる骨痛、口や鼻の瘡、腫毒、やけど等に使用されていた。

また「弟切草」の名はガマの油売りにも登場する。
「さあさあ、お立会い。止血の薬はござらぬか。あるよ、あるよ、ガマの油かオトギリソウ・・」
ガマの油売りの口上で有名な薬草なのだ。

また、前述の和漢三才図会には「弟切草、正字未詳、按ずるに弟切草、初生は地膚子(ははぎ)の苗に似て、両々対生し、枝が有って、茎葉は揉めば汁が有って、暫くすれば紫色に変ず。六、七月に小黄花を開き、単への五弁にして細きズイ有り。三つの稜有り、中に細子有り、黒色。茎葉は金瘡、折傷及び一切の無名の腫物につけて神効有り」とあり、植物形態とともにオトギリソウに関する切傷や腫物に対する薬効が記されている。

古くから日本各地で行われている使用方法の一つとして「弟切草酒(オトギリソウの焼酎漬け)」がある。外傷や炎症患部への湿布はもちろんのこと、特に虫刺されに対して効果が高いことから、今でも多くの家庭で作られている事例も残る。中国から伝わった漢方(現在の中医学)、以前より日本古来の自然療法である和方に由来する。さらに、喉の痛みには弟切草酒でうがいをしたり、健康酒として飲用する地方もあるようだ。
この「弟切草酒」は、オトギリソウの花から根まで(全草)を使う。採取したオトギリソウを丁寧に洗い天日でしっかりと乾燥させたオトギリソウ約200グラムを、1.8リットルの焼酎(35度のホワイトリカーなど)に漬け込み、3ヶ月以上冷暗所で寝かせて完成。液体が次第に琥珀色に変化し、ほんのりと甘い香りになっていく。
アルコール漬けせずに「オトギリソウ茶」として飲む地方もある。
秋田県のある地域では、オトギリソウを採取するのは土用の丑の日が良いとされ、断崖絶壁のような厳しい地形、厳しい自然環境の中で咲くオトギリソウが最も良く効くとも言われているそうだ。

日本の弟切草の薬効も素晴らしいのだが、この先は「セントジョーンズワート」の歴史と機能性を見ていこう。

セントジョーンズワートの歴史

セントジョーンズワート(以下略してSJWということにする)は、西洋でも開花期のものを日干して乾燥させたものが、止血、月経不順、打撲などに用いられてきて、民間薬として2000 年以上の伝統をもつ。
ハーブティーとして、痛風、関節炎,生理痛に飲用したり、オリーブ油に浸したものを火傷や外傷に用いてきた。使用部位が開花時の地上部となっている理由には、深い意味がある。これは、この輝くような黄色い花が夏至の近くに咲くこと、そしてその根や花に赤い斑点が現われるのが、聖ヨハネが首をはねられた日であることに由来している。そしてこの赤い斑点は「聖ヨハネの血」とも呼ばれている。

洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ
赤く染まる散り始めの花

ヨーロッパではSJWは古くから「妖精よけ(an elf-chaser)」のハーブとしても知られてきた。妖精や精霊が活発に動きまわる危険な季節には人々は武装しなければならなかった。古代ゲルマン民族たちはいくつかの聖なる植物(シダ、ヨモギ、SJW、アルニカ、キンセンカなど)はそのなかに太陽の力と闇を呪縛する力を持つと考えており、これらの植物は夏至の祭りと特に結びつきが深く、夏至の魔法の草だった。
特にSJWで人々は祭壇を飾り、夏至の時期の火をめぐる踊りのときは花の咲いているSJWで編んだ花輪を光の力との結びつきのしるしとして頭にのせた。この植物の冠は上なる物から下なる物まで循環しているすべての物が生成と消滅とに結びついていることを示していた。

夏至祭
現在の夏至祭

また夏至の日には太陽が最も高いところに達するだけではなく、その日から太陽の力は徐々に弱まり、力がもっとも弱い点、すなわち冬至に向かう転換点でもある。
SJWの黄金色の5弁の花は小さな日輪のように輝き、数多い雄しべは火花のように光っている。ケルトの民はそれに太陽の力が閉じ込められていると考え、5枚の花弁はドルイド(ドルイド(Druid)は、ケルト人社会における祭司のこと)の聖なるシンボルである五星を連想させた。
またケルト人はこの現象を彼らの神話のなかで光の神バルディアの物語として表現している。ゲルマンの神、バルディアは燃える火に包まれ、頭は太腸そのもののよう輝いている。彼はのちに弟のヘデュアに重傷を負わされて死んだが、のちにこのバルディアこそ、ちょうどこの日に処刑された聖ヨハネであるとされた。のちに夏至の祭りが聖ヨハネの日になり、聖ヨハネはもともとのゲルマンの神、バルディアを受け継ぎ、数千年来祝われてきたこの古い祭りをキリスト教徒たちは3日だけずらして聖ヨハネの日と結びつけたのだった。
SJWの花を指でつぶすと汁がでるが、それはバルデュアと聖ヨハネの血のように赤い。葉を太陽にかざすと、まるで針で突き剌したようにみえる。
これは透明な油腺で花にもそのまわりに黒っぽい点があり、赤いオイルが含まれている。この釘で突き剌したような葉もキリスト教では殉教者の傷を象徴するが、同時に人々はそこに、太陽の生命力をこの赤い滴のなかにとり入れ、蓄積するSJWのパワーの源と感じたのだ。私たちの体が生命の液体である血液をもっているように、SJWは太陽の生命の液体、すなわち太陽の力の元てあるルビー色の血をもっている。と考えたのだ。

いまに至ってもよく聞くSJWの物語、儀式、呪術における使用法は、すべてこの草の太陽の力と悪魔を寄せつけない力と関連しており、それに関係する多くの習わしが今日までも残っている。SJWは聖ヨハネの日に摘むともっとも治癒力が強いことが伝えられているが、なかでも朝露のおりている頃に摘むのがいちばんといわれる。聖ヨハネの朝のこの露そのものが魔力をもち人間を癒すからだ。アイスランドではこの日の朝、力に満ち、強くなるために朝露のなかを転げまわるという。大昔、人々はこの露が天と地が夏至の夜に結婚する際の天からの精液だと考えたようだ。
また中世全体を通じて現代に至るまで、SJWは悪魔除けの植物とされてきた。農夫たちは家畜が魔法にかけられるのを防ぐためにこれを家畜小屋に吊し、また部屋のなかの十字形の窓桟にSJWの小さな束を差し込んで、悪霊が家に入り込むのを防いだ。魔法を解く力があることから「悪魔払い、悪魔の呪縛者、悪魔の逃亡、悪魔の遁走」等々の名前がつけられている。

有名な本草学者であるバンクスの本草書(1525年)の中にも次のように書き記されている。「ヨハネのハーブ、この草はセント・ジョンーズワートと呼ばれる。これを家の中につり下げておけばいかなる邪悪な悪魔も入ってくることはできない」と。
そこからこのハーブをミッドサマー・イブ、つまり6月24日の聖ヨハネの日の前日に摘み、家の中にその束をつり下げて魔よけ、雷よけとする習慣ができたのである。
ミッドサマー・イブのかがり火で燃やされたのも、その魔よけの威力のためである。このかがり火の煙には、聖ヨハネのハーブと呼ばれる、いくつかのハーブ(ヤローやニガヨモギなど)の魔力を強める力があるといわれた。
同様にフランスのある地方では猫は悪魔の動物とされ、生きた猫が生贄として、このかがり火にくべられて燃やされたという。
英国ウェールズ地方ではこのハーブの魔力、そしてその対生する葉から「キリスト(または聖マリア)のはしご」の名で親しまれ、ミッドサマー・イブに家に飾られるのが習わしとなっていった。
アイルランドでは子供の病よけのお守りとしている。


leaf3_mini 安全性と相互作用

安全性:クラス2d(色白の人は、使用中、日光への過度の暴露を避けるべき。光線療法中には使用禁忌)
相互作用:クラスC (薬物代謝酵素の誘導による相互作用が起こりうる)
(Botanical Safety Handbook 2nd edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
*2000年5月に厚生省が、医薬品のインジナビル(抗HIV薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)、経口避妊薬について、その相互作用を認めている。


leaf3_mini 学術データ(食経験/機能性)

SJWの葉を光にすかしてみると透明なだ円形の斑点がみえる。そのため学名の種小名であるperforata(穴の開いた)がつけられた。
これはエッセンシャル・オイルを出す腺なのだが、花びらを指でつぶすと出る赤い汁がヨハネの血であり、有効成分のヒペリシンだ。
SJWからつくったもののなかで最も有名なのがヒペリシンのもつ赤い色素で染まったルビ一色のオイルだ。これをつくるためには、花を摘み、透明のねじ込み瓶に入れて常温搾りの植物オイル(オリーブオイルなど)を植物がすっかりかくれるように注ぐ。
密閉して2,3週間ほどエキスを抽出後、漉して遮光瓶に入れて涼しいところに保存する。濁った水っぽい沈澱物が底にたまることもあるが、その場合には注意深くとり除く。また瓶に少量のSJWを入れ、良質の亜麻仁油を注ぐと亜麻仁油そのものにも火傷を鎮める作用があるので、相乗効果で日焼けと火傷の治療用の特別なオイルが出来上がる。
またこのオイルは、美容にも使われてきた。ひび割れた肌を鎮静し治す。さらに皮膚を再生し、皮膚の物質代謝を活性化する。中世ヨーロッパの修道院医学においても、SJWは止血、月経不順、打撲・やけど等の手当ぐすりとしての利用が主であった。かの薬草魔女ヒルデガルトはうつ病に関心があったにもかかわらず、SJWが抗うつ作用を持っているハーブだとは気がついていなかった、と「ヒルデガルトのハーブ療法」に記しているほどだ。このころは、まだ心の病に対する認識が低かったのかもしれない。

●穏やかに神経系に作用する神秘的なハーブ

中世の時代は、体のケアのハーブであったSJWだが、その心への働きに気が付いたのは、「医化学の祖」と呼ばれるパラケルススだと思う。スイスの医師、化学者、錬金術師、神秘思想家で、悪魔使いであったという伝承もあるほどの人物だ。

パラケルスス


彼は450年以上前に詳細で深遠なSJWの記述をしている。彼にとってはこの植物は神が人間を助けるため、癒すために贈ってくれた万能薬だった。著書のなかで、彼はこの植物に1章全体を捧げ、神の意思についての詳細な記述から書きおこしている。「医者がこの草をみつけて正しい薬として患者に処方するようにと、神が自然界にそっとおいた」のだという。
一生涯「神の錬金術・賢者の石」を追い求めたパラケルススにとって、神の意思は特にSJWにおいて顕著だった。「強さほど病気を追い払うものはない。ゆえにあらゆる病気を追い払う強さと力が薬となる。そのためにはあるものに抗する強さが充分あり、その強さをひきだす力のある薬剤を探すとよい。オトギリソウは神が針目のなかにおいた強さをもつことが明確であり、この強さによってこの草は自然界の妖怪や悪い虫を追い払い、傷や骨折を癒し、うちひしがれている状態をも助ける力となる。」と記した。

こうしてSJWは偉大な人間の万能薬となる。
ここで興味深いのは、パラケルススが当時すでにSJWを意気消沈、メランコリー、ヒステリーに処方していたことだ。彼はこうした状態を「本質と物質のない幻想、病い、瞑想の亡霊のなかでさらに別の亡霊が生まれ、それが人間を支配する病い」と規定している。
現代の治療学は近年になってはじめてSJWの抗うつ作用に注目し、この植物が脳の中枢に影響を及ばすことが臨床的に証明された。自然治療法ならびに民間療法では現在SJWを神経と傷の治療薬として用いている。
さらにSJWは一般的な強壮効果をもつため、精神的に消耗したとき、貧血、重病後の回復にすすめられる。

日本では、弟切草は抗うつ作用の薬草としては用いられてこなかったが、法規上、全草が「医薬品としての効果や効能を標榜しない限り医薬品とは判断されない成分本質の区分」であり、食品であり、ハーブティーとして市販されているのみだが、サプリメントとしての価値を高めているのも事実だ。
1996年にBritish Medical Journalに発表されてからは、米国では、既存の抗うつ薬の代替として大ヒットのサプリメントとなり、またこの影響を受けて日本でも注目を浴びるようになっていった。

以下に、SJWの注目すべきメンタル面の機能性について整理しておく。

●神経伝達物質調節作用

抗うつ作用のメカニズムとして、神経伝達物質のモノアミン類の濃度調節が推察されている。ヒペリシン(hypericin)のモノアミン分解阻害(MAO、COMT阻害)、つまりカテコールアミンやセロトニンの分解を促すA型酵素に対し阻害活性が高いことが示されてきた。
またセロトニンの再取り込み阻害などによりセロトニン濃度を上げるという報告もされている。1998年以降、ヒペリシンの神経伝達物質の再取り込み阻害作用について報告がなされている。しかし当初はこのヒペリシンが抗うつ作用を示す原因物質(モノアミン酸化酵素(MAO)阻害)だと考えられていたが、現在では、ハイパーフォリン(hyperhorin)の抗うつ作用や他の薬物などとの相互作用であることが調べられてきている

ヒペリシン(hypericin)とハイパーフォリン(hyperhorin)

また最近では、フラボノイドについても研究が進み、ヒペロシド(hyperoside)の抗うつ活性、花部抽出物中のフラボノイドによるベンゾジアゼピン受容体の結合阻害などが報告されている。
その他、ハイパーフォリンは MAO 阻害作用はないことも報告されているが、ケルセチンや SJW 抽出物では阻害作用が報告されるなど、一定ではない。
ハイパーフォリンはブドウ球菌と連鎖球菌、多剤耐性ブドウ球菌、グラム陽性菌に対して抗菌的作用ももつ。グラム陰性菌に対しては、抗菌性はない。さらに凝集β – アミロイドを分解し、生体内で空間記憶を改善し、アルツハイマー病に対して神経保護効果を持ち、治療薬の可能性をもっているとも報告されている。またⅠ型およびⅡ型糖尿病における膵臓のβ細胞がサイトカインに誘導されて損傷することを防御する効果も報告されている。

SJW の有効性については、二重盲験無作為化比較試験で有効性が検証され、さらに無作為化比較試験のシステマティックレビューのメタ分析により、規格化抽出物(ハイパーフォリンを5%含むもの)はDSN-IV 診断基準による軽~中等症のうつ病にほぼ有効であり、プラゼボより2 倍以上有効で、三環系抗うつ剤やセロトニン再取り込み阻害薬と同等の効果があるという報告がされている。
しかも標準的な抗うつ剤よりも副作用が少ない。これらの結果は、最も信頼性の高い試験結果である。このようにSJW については無作為化比較試験のメタアナリシス付きのシステマティックレビューは、いくつも報告されておりハーブの中では最も有効性の科学的根拠が蓄積されたものの一つである。

米国ではヒペリシンを含有しない SJW の抽出物をアルコール飲料に使用することが GRAS(アメリカ食品医薬品局FDAより食品添加物に与えられる安全基準合格証) で認められている。2000 年には、アメリカ内科学会が SJW を軽度うつへの処方としてガイドラインを作り推奨した。2002 年には、米国の成人の 12%が最近 12 ヶ月のうちにこの SJW を使ったことがあると報告されている。臨床試験の大半は0.3%のヒペリシン含有の規格化抽出物か、ハイパーフォリン含有を規格化させて5%のハイパーフォリンを含有したものを用いて行われている。

ヨーロッパでは SJW を植物製剤として使用しており、ドイツCommission Eでは、1 日あたりのヒペリシン量を 0.2~ 1.0 mgと規定している。

●光毒性

ヒペリシンは SJW の花や葉、茎などに赤黒い斑点として見られる色素であることは前述したが、この色素は親油性で赤い蛍光を発し、抗グラム陽性菌性、抗腫瘍性、抗 PKC 活性などが報告されている。
SJWには「光毒性」という性質があり、紫外線に当たると毒性が出て、皮膚に触れると炎症を引き起こす可能性があるので注意が必要だ。
特にオイルなどを皮膚につけて、そのまま炎天下などに長時間出るような時は、肌を露出しないよう気をつける必要がある。

●薬物相互作用

SJW 使用上の最大の問題点は、薬物との相互作用である。
2000年5月に厚生省医薬安全局安全対策課から「セントジョンズワートと医薬品との相互作用について」という通知が出された。
医薬品との相互作用は、吸収、代謝、分布、排泄、作用部位で5つの過程で起こることが多いが、SJW と薬物との相互作用については代謝過程での相互作用である。
セントジョンズワートを含有する製品を摂取することにより、薬物代謝酵素が誘導され、以下の医薬品との相互作用を指摘している。
インジナビル
抗HIV薬インジナビルは主にCYP3A4で代謝を受ける薬物であり、SJW含有製品との併用により血中濃度が低下することが、米国国立衛生研究所(NIH)の研究によって報告されている。
ジゴキシン
ジゴキシンは主にCYP3A4で代謝を受ける強心薬であり、SJW含有製品との併用により血中濃度が低下することが、ドイツでの研究によって報告されている。
シクロスポリン
シクロスポリンはCYP3A4で代謝を受ける免疫抑制薬であり、SJW含有製品との併用により血中濃度が低下した臨床例がスイスで2例報告されている。
テオフィリン(CYP1A2で代謝される気管支拡張薬)
ワルファリン(CYP3A4及びCYP1A2で代謝される血液凝固防止薬)
経口避妊薬(CYP3A4で代謝される)
についてもSJW含有製品との併用により血中濃度の低下又は作用の減弱が見られた症例が英国MCA及び米国FDAから報告されている。

これらを受けて厚労省は、SJW含有食品との併用により効果が減少するおそれの高い医薬品については、添付文書に本剤投与時はSJW含有食品を摂取しないよう注意する旨を記載し、医薬品を服用する場合には本品の摂取を控えるなどの注意を表示するよう、関係営業者等に周知、指導している。

*ただし日本の弟切草(オトギリソウ=ショウレンギョウ=小連翹( Hypericum erectum )には薬の相互作用の報告はない。


最後に・・今後の研究への期待

癒しのハーブとして 2000 年以上の歴史をもち、抗炎症、抗不安、抗うつ剤として利用されてきたSJW は、ハーブ類の中でも保健の用途に関する有効性について充分な科学的根拠が得られている数少ないハーブの一つである。
単独使用、短期の使用においては、ほぼ安全で副作用も少ないことから、軽度から中等度のうつ病に関しては有力な選択肢になりうるハーブと言える。
しかし薬物代謝酵素を誘導し他の医薬品の代謝を促進してその医薬品の薬効を減弱する作用があるため、他剤との併用は避けなければならない。

現在でもSJW の中のどの成分が有効であるか精力的な研究が積み重ねられている。しかしハイパーフォリンだけが、SJWの中の唯一の有効成分ではなく、ヒペリシンやアメントフラボン、プロシアニジンなど多彩な成分が相乗的に影響しあい、中枢神経系への作用を表していると考えるべきである。
単離された成分の特性がそのまま SJW の有効性となるわけではないので、自然療法のハーブの中では、最も有効性に関する科学的データが蓄積されている SJW であっても、まだ、そのすべての成分についての性質や成分間の相互作用について解明し尽くされたわけではない。

SJWの作用機序の解明を通して、シナプスにおける神経伝達の機構についてのさらなる知見が積み重ねられることに期待したいし、神経軸策の発芽促進や神経細胞保護効果がアルツハイマー病治療への可能性をもち、糖尿病の膵臓細胞の保護効果が発見されたことなどは大変興味深いものである。

SJW の中には、多くの成分があり、様々な薬効をもつもの、薬物との相互作用をするもの、光増感性(活性酸素を生じるもの)、抗腫瘍性、抗菌性など、その成分自体の性質も興味深いが、成分同士の相互作用についても重要な課題である。

ヒペリシンのような光があたったら活性酸素を生じるような光増感性色素とハイパーフォリンのような酸素の存在で不安定になる物質との共存は奇妙ではある。
しかしヒペリシンが植物の花や葉のふちに粒のように局在していることを考えると、植物体にとってヒペリシンは他の害虫からの捕食を免れたり、細菌やウイルスによる病毒から自身を守る役割を果たしており、植物の中では、ヒペリシンとハイパーフォリンはあまり相互作用しないのかもしれない。

健康の基本的要素は栄養、運動、休養である。健康食品を利用するについても、その有効性と安全性に注意し、栄養・健康・病気についての基本的知識、薬物との相互作用、科学的根拠に基づく情報をもつ専門家の正確な情報を得て、消費者が自ら選択する必要がある。とつくづく思うこのごろだ。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考図書
「魔女の薬草箱」西村佑子著 山と渓谷社
「ハーブ歳時記」北村佐久子著 東京堂出版
「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著
『ハーブ大全』 R.メイビー著 小学館 1985.
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「中世の食生活」B・A・ヘニッシュ著 藤原 保明 訳
「ケルトの植物」Wolf‐Dieter Storl (原著)
「世界樹木神話」 ジャック ブロス,‎ Jacques Brosse (原著)
「カルペッパー ハーブ事典」 ニコラス・カルペッパー(著)  改訂新版
「日本の野生植物」佐竹義輔、原寛、亘理俊次、冨成忠夫編
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編集
「Botanical Medicine for Women’s Health, 1 &2 edition 」Aviva Romm CPM RH(AHG) 著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著
「The complete New Herbal Richard Mabey著
「Botanical Safety Handbook」アメリカハーブ製品協会(AHPA)編集
 Proceedings of the National Academy of Sciences  
健康食品データベース 第一出版
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳

【参考文献】
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