学名って何?

皆さんは、植物についている学名を気にして購入したりしていますか?

今から10年くらい前に、あるニュースが世の中を駆け巡りました。御存知の方も多いかと思います。

「ポピーの花畑をつくろうと種をまき育ててみたら、ケシ(麻薬成分のモルヒネを含むアヘン)だった――。」というなんとも怖いニュースです。

茨城県下妻市などが主催しているフラワーフェスティバルの会場に、法律で栽培が禁じられている「アツミゲシ」学名:(Papaver setigerum)があることが分かり、市職員とボランティアら約100人があわてて手で抜き、焼却処分にしたというニュース。

当時のニュースのライブラリーを見つけたので、リンクしておきます。

http://www.afpbb.com/articles/-/2392032

市によると、ケシは河川敷の約1ヘクタールにわたり咲いていたそうです。
どうやらケシとポピーを間違えて植えたらしいです。ポピーの花の色は赤で、アツミゲシ(栽培が禁止されているケシ)は薄紫。
形状はよく似ているため、花が咲かないと区別ができないというくらい似ています。


植物にはそれぞれ、学名が付いています。その学名はどうやってつけられているのでしょうか?
ちなみにポピー(ヒナゲシ)の学名は(Papaver rhoca)といいます。他にもPapaver nudicaule(アイスランドポピー)、 Papaver orientale(オリエンタルポピー)、 Papaver dubiumなどがあります。植物には、必ず学名が付いていますが、Papaverと、前に着く名が「属名」と呼ばれます。
そして、後ろに付く名を「種名」といいます。すべての植物の学名がこのように「属名+種名」で表記され、世界共通なのです。

植物はその産地(国)によって呼び名が違います。日本ではヒナゲシ、外国ではポピーといった感じです。それを世界的に共通の言語で表したものが、学名なのです。

また学名を表記する大事な理由は、次の3つが、あげられます。
「園芸種と薬草を区別する」、「海外での判別を容易にする」、そしてもっとも大事なのが「購入時に間違えない」ということです。きっとこのことを担当の方が御存知であれば、今回のような事件は起きなかったのでしょうね。

今回は、この学名についてもう少し詳しくご説明します。


近代植物学の父であるヨアヒム・ユンギウス(1587-1657)、ジョン・レイ(1627-1705)、そしてリンネ
3人は「自然史」と呼ばれる科学の一分野の礎を築くことに貢献し、その功績は、偉大な学者たちが立ち並ぶ森を覆い隠しまうような存在感を放っています。

中でもカール・フォン・リンネ(Carl von Linné、1707年- 1778年 スウェーデンの博物学者、生物学者、植物学者。)の研究は、進化論をはじめ多くの矛盾をはらみながらも発展を続け、そこから生まれた用語もほぼそのまま使われています。


カール・フォン・リンネ(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

当時、生命あるいは生物という観念は存在しませんでした。
ただ生きものという存在があるだけで、名称はただの名前として認識されていました。植物や動物に与えられた名前はあるがままに名付けられたもので、それが持つ薬効や神秘的な力を表している場合もありました。また、栽培方法(あるいは狩猟方法)のほか、それをモチーフにした紋章や神話、伝説にまつわるものもあり、事実からフィクションまでさまざまでした。
この頃、学者たちは分類学と呼ばれる学問にとりかかっていたのですが、それはリンネによって完成されます。

分類学とは生物の分類を目的とした科学の一分野で、種の記述や研究の体系化に用いられます。
リンネが確立した厳格かつ精密な命名のシステムは、味や匂い、食感といった曖昧なものではなく、目視できる計測可能なものを分類化するものでした。目に見えない生命体は、同一性と類似性を基準に構成されるこの系統学的チャートには当然現れません。
リンネは、この二名式命名システムを使って、異なる8,000種類もの植物を定義しました。

植物の自然史を記録するこの新たな方法は、裸眼で確認できる特徴と記述された情報の関係の合理化に基いており、創造論者と呼ばれるナチュラリストであったリンネは、生物は神によって創造され、以後ほとんど変わっていないと考えていましたが、当時のフランスの哲学者たちは、リンネが用いたシステムとは対照的な認識論的アプローチによる方法論を支持し、種は時を経て変化するという説に賛同していました。
リンネの考えは、生物の分類体系を検証したチャールズ・ダーウィン(1809-1882)の進化論とは相容れないものです。
ですが、こうしたすべての論争によって、生物の分類、その基準や体系、命名法は確立されたのです。

リンネの階層では、次の7つの階層に分かれます。

みなさんがよくご存知のローズヒップを例にとって、説明していきましょう。
まず、一番広い階層(植物界)の「界」。現在では27万5千種以上の植物が明らかになっています。

その下に、「門」と呼ばれる階層があります。
例えば被子植物と呼ばれる植物群で現在、25万種です。その下に「網」という階層があり、双子葉植物網となります。葉の形、種類によって分けれる、約23万5千種です。ここから先が、バラ目という「目(もく)」という感じでようやく花の名前らしくなってきました。このあたりで、約数百種あたりまで絞り込まれます。さらに、バラ科という「科」という分類なり、おそらく3桁から2桁でしょう。そのさらにしたの階層に、実際の学名に使用される、バラ属という「属」がでてきて、最後が、「種」となり、ここで初めて、ローザ・カニーナという学名に限定されてくるわけです。

のちにこのリンネの2命名法は、新エングラー体系として、現代まで、植物分類の主役となっていくのです。いかに学名のルールを記載しておきます。

学名の言語
学名はラテン語で書かれます。ラテン語は、イタリア語、フランス語、ルーマニア語、スペイン語、ポルトガル語などラテン系諸言語(ロマンス語)の祖先語で、前述のようにトゥルヌフォールやリンネの時代の国際語でした。ラテン語の単語にはギリシャ語からの借用語が多く、そのために学名に用いられる語にもギリシャ語由来のものが多くあります。ラテン語のアルファベットは英語のアルファベットからWを除いた25文字ですが、学名では外国語の表記のためにWの使用も可能なので結局英語の26文字と同じです。

学名の呼び方
ラテン語の母音はa、e、i、o、u、y の6種類あり、前の5個の発音はそれぞれ日本語のア、エ、イ、オ、ウとほぼ同じです。y も母音で、ドイツ語の ü あるいはフランス語の u と同じように発音します。日本語ではイとユの中間のような音です。
ae、au、oe の場合は後の音を弱めに発音して、それぞれアェ(アィ)、アゥ、オェ(オィ)、ei、eu、ui の場合は重母音ではなく別々の母音として発音しますから、それぞれエイ、エウ、ウイとなります。

主な読み方のルール
■ c は、後に来る母音に関わらず常に[k] クの音になる。
■ 同じ子音が重なる場合は別々にふたつの子音として発音する。
例cassis(カス(ッ)シス)
■ bs は[ps]、bt は[pt]の発音にそれぞれ変わる。ビーがピーになる。
■ ch、ph、rh、th などのHは発音しない。ただし単独のhは、フランス語やスペイン語のように無音(サイレント)ではなく常に発音されます。日本語のハ行の音
■ q はフランス語と同じように常に qu+母音の形で用いられ、[kw]クゥの発音になる。
■ W の文字はラテン語にはありませんが、外国語の固有名詞に由来する学名に使用することは可能で、読み方はその固有の発音

更に細かい表示の規則

その他、さらに細かい説明を学名に入れる場合があります。その場合、省略した文字を入れて表します。多くみられるものは、3名法と呼ばれ、種の下位分類である、「ssp. / subsp.(亜種)」・「var.(変)」・「f.(品種)」です。その他、同意語を表す「syn.」や、雑種を表す「x」、ケモタイプを表す「ct.」があります。これらはすべて斜体にせず表示されます。
ssp. / subsp.
subspeciesの略で、亜種名を表します。亜種とは種として分類するほどの違いはないが、基本的な種とかなり違いがあるものを指します。例:プチグレン「Citrus aurantium L. ssp. amara」
var.
variantの略で、変種名を表します。変種とは、基本的な種とあまり違いはないが、気候などの理由からはっきり違いがわかるものを指します。例:イリス「Iris germanica var. florentina」
f.
formaの略で、品種名を表します。品種とは、基本的な種と殆ど変わりはないが、1,2点ほど違いがわかるものを指します。例:「Canaga odorata f. geniuna」
syn.
synonymの略で、同意語を指します。例:ラベンダー「Lavandula angustifolia syn. L. officinalis」
A × B
AとBの雑種を意味します。例:ラバンジン「Lavendula officinalis L. x L.latifolia Medikcus」
ct.
chemotypeの略で、ケモタイプを指します。ケモタイプとは、同じ学名の植物でも、育つ環境によって成分が異なったものです。化学分析して、化学的に何の成分が多いかを調べて初めて分かります。これらはケモタイプ種、化学種、ケモ種などと呼ばれます。

新しい学名の考え方

そしてさらに、この10年ほど主流になってきた分類法として新しい概念の分類法が出てきました。
それはAPG法という考え方です。

1990年以降、被子植物の分類体系に、DNA解析(葉緑体DNA解析)による系統学手法が導入されます。
この手法の進展により欧米では植物図鑑などに新しい体系に変わってきています。

APG分類体系は、DNAの塩基配列を用いて推定された系統関係を反映するように作られた、被子植物の分類体系です。ようやく、一般書籍でも多く見られるようになりました。図鑑で用いられる科の配列が大きく変更されたり、これまでに慣れ親しんだ科の名前が消えてしまったりしていますが、最新の研究成果を基に作られた分類体系を見るとわくわくしますね。

2016年にはAPGIV(http://onlinelibrary.wiley.com…)にアップデートされました。

植物分類について、詳しく調べたい方は、ぜひ国会図書館のホームページ

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