雑草の持つデトックスの力〜クリーバーズ

クリーバーズ

クリーバーズ〜浄化のハーブはむくみや肌荒れ予防でも注目

クリーバーズ Cleavers

ヨーロッパでは紀元前から現在に至るまで浄化のハーブとして利用されてきたクリーバーズ。現在でも春のデトックスとして春季療法という伝統療法などで使用されています。

学名: Galium aparine

和名・別名:グースグラス、シラホシムグラ

科名:アカネ科

使用部位:茎、葉部


植物分類と歴史

クリーバーズはアカネ科ヤエムグラ属の植物でヨーロッパやオーストラリア、北アメリカなどに広く見られ、春が訪れる頃に現れる植物だ。
ガチョウがよく食べている草であることから別名“Goosegrass(グースグラス)”とも呼ばれている。ヤエムグラ属の植物は世界に約400種・日本国内でも19種が自生している。成熟した実にはカギ状の毛が生えており、衣類につけるとマジックテープのようにくっつくので、日本でも雑草の一種としてご存知の方も多いのではないだろうか。

クリーバーズ   クリーバーズ

ヤマムグラ、ヨツバムグラ、ヒメヨツバムグラ、ケナシヨツバムグラ、ハナムグラ、ハナヤエムグラ、キクムグラ、ヤエムグラ、シラホシムグラなどなど、様々な名称で知られる。中でも、クリーバーズはシラホシムグラと呼ばれるものが相当する。
よく、万葉集や百人一首にも出てくる「ヤエムグラ(八重葎)」と紹介されることも多いのだが、植物分類ではヤエムグラの学名はGalium spurium var. echinospermonであり、外来種(帰化植物)のため、厳密には別種である。

*小倉百人一首には
「八重むぐら しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり(恵慶法師)」
と謳われている。「八重葎」は家などが荒れ果てた姿を表すときに、象徴的に使われる言葉だそうだ。かつての大豪邸(河原院)が寂れてつる草がぼうぼうに生い茂るさびれた家となった。そこには誰も訪れる人はいない。それでも季節だけは移り変わっていくのだなあ、という内容の歌である。ムグラ(葎)とはそういった、山野や道ばたに繁茂するつる草の総称で、夏の季語でもある。

クリーバーズの和名、シラホシムグラはヤエムグラによく似た帰化植物で、2004年、植村修二氏によってヨーロッパ原産のGalium aparine L.と同定され、花が薄黄緑~クリーム色のヤエムグラに対して、白花をまばらにつける様子からシラホシムグラ(白星葎)と命名された。またシラホシムグラは葉の付け根あたりに白い毛が生えていることも特徴である。神奈川・静岡・香川・兵庫・大阪で確認され、すでに日本各地に侵入・定着している可能性が高いと報告されている。


ヤエムグラとシラホシムグラの花
ちなみに属名として使われているGaliumは“乳”を意味するギリシア語が由来で、かつてチーズ作りの時に牛乳を固めるために、この植物が使われていたことが由来とされている。

クリーバーズは紀元前からヨーロッパで有用な働きを持つ薬用植物・ハーブとして利用されてきた歴史がある。
1世紀に活躍した古代ローマの医師・植物学者であるディオスコリデスが疲労回復に良いハーブとして処方していた。同じくローマの医師ガレノスは肥満治療に使ったという史実が残っている。また大プリニウス(ガイウス・プリニウス・セクンドゥス)はむくみによる体重増加の治療に使ったとも伝えられている。少なくとも約2000年前から現在に通じるような利用法が存在していたと言えそうだ。

また、皮膚疾患や火傷・外傷のケアにも使用されてきたと伝えられており、ケルト時代(英国、アイルランド、フランスにあたる地域に暮らした古代ケルト民族)のドルイド(ケルト人社会における祭司であり、薬草使い。中世の魔女のモデルとなる。)は、クリーバーズを皮膚病の薬などに使われた。17世紀に活躍し「ハーブ療法の父」と称されるハーバリスト、ニコラス・カルペパーもクリーバーズを止血用ハーブとして用いていた。
彼は「薬草大全」の中で「リンパに効く最も重要なハーブのひとつ・免疫強化・秋分と関係がある」と記し、葉の汁か、少しすりつぶした葉を傷につけると良いとすすめている。加えてクリーバーズの若い葉を煮込んで食べると肝臓強化に良いと紹介していた。


学術データ(食経験/機能性)

クリーバーズは紀元前から“浄化のハーブ”として利用されてきた。ヨーロッパでは刻んだ葉と茎をスープやシチューにして食べたり、デトックスのハーブとしての食経験も豊富だ。あるいは種子を焙煎してコーヒーの代替品として利用することもあるようだ。現在でも特にイギリスのハーバリストはクリーバーズを使用することが多く、ハーブ療法で欠かせないハーブの1つである。

ちなみに日本の「春の七草」と似たようなもので、ヨーロッパには春に血や身体を綺麗にしてくれるハーブを摂る「春季療法(Spring Cleansing)」と呼ばれる療法がある。クリーバーズも春季療法で活用されるポピュラーなハーブの一つだ。イギリスやドイツでは、グリーバーズを老廃物や毒素を排出させることからニキビや肌荒れ対策など美容サポート系、体質改善に良いため、授乳期サポートティーにブレンドする習慣もある。近年、クリーバーズティーは「母乳分泌をサポートするハーブ」として紹介される機会も増えている。老廃物や毒素の排出をサポートし巡りを整えることで母乳の詰まりを改善する働きがあると考えられていることが起因する。

●春季療法のハーブたち

ヨーロッパでは春先の吹き出物や花粉症などのアレルギーに備え、1月~2月頃からハーブを使った体質改善が広く行われていて、これを春季療法という。
動物は本来、冬の間は冬眠モードになり代謝が落ち、摂った栄養を溜め込み易い状態になるが、それは私たち人間も同じで、冬は代謝が落ち老廃物が体内にたまりがちになる。そうして溜まった毒素をそのままにしておくと、代謝が上がるにつれ、老廃物が前面に出てアレルギーや肌荒れを起こしやすくなるわけだ。そうした症状が現れる前に冬季に溜めた毒素をデトックスしておく、というのが春季療法の狙いである。春季療法が盛んなドイツなどでは体の中にたまった老廃物を体外に出すため、数週間にわたり春の野草を食べるが、その野草はオオバコ、セイヨウタンポポ、ミツガシワなど、70種類以上にもなる。この春季療法的な自然療法は世界各地にも存在しており、日本でいえば、これからの季節は菜の花、フキノトウ、タラの芽などの野草をてんぷらやおひたしにして食べる習慣はご存知の通り。「春の七草」は七つという意味ではなく「たくさん」と考えたほうが妥当で「苦いものを食べる」ということがキーワードである。ちょっと苦みのある葉っぱ類を食べることで、体内の解毒と抗アレルギー体質を抑える働きがある。
ところで春の七草に使われる、ぺんぺん草とも呼ばれる「なずな(薺)学名Capsella bursa-pastoris」もイギリスでは、shepherd’s purse(シェパーズパース)といって止血などに利用されている。また「なずな」と共に春の七草にある「はこべ(蘩蔞)学名Stellaria media」は、Chickweedチックウィードといって かゆみをやわらげ、リウマチ体質に浄化剤として用いられている。東西問わず、春のデトックスは共通のテーマなのである。
代表的な春季療法のハーブとしては、エルダーフラワー、ネトル、ダンディライオンなどがあるが、これに加えてイギリスなどではスイートクローバーなども利用される。それ以外にもウッドラフと呼ばれるGalium odorataやレディースベッドストローと呼ばれるGalium verumなども使われている。
春季療法ではこれらのハーブを食材として、またブレンドしたティーで飲むことを1ヶ月以上続ける。


クリーバーズの機能性

クリーバーズは伝統的に利尿剤のような役割で使用され、デトックスやリンパの浄化作用を持つハーブと考えられてきた。現在でもハーブ療法や民間療法ではフラボノイド類とクマリン誘導体を含むため、穏やかな刺激作用によってリンパ機能の強壮・活性化を促すハーブとされ、体内の老廃物や毒素の排出促進にも繋がること・利尿作用を持つことと合わせてむくみの軽減やデトックスに利用されている。以下に代表的なクリーバーズの効果について紹介しておく。

*リンパの流れを改善し老廃物を排出

クリーバーズはリンパ液の循環を整えてくれるハーブとして伝統療法の中で用いられてきた。リンパの流れを良くすることで倦怠感を軽減、リンパ腺の腫れを抑えることで扁桃腺炎・中耳炎・乳腺炎などのリンパ節炎のケアに役立つという報告がある。そのため老廃物や毒素の排出を促してくれるデトックスティーとしても利用されている。リンパ刺激や利尿作用によって腎臓や肝臓の働きを整える・穏やかな緩下作用を持つとする報告もあり、体内を綺麗に保ってくれるハーブとしてイギリスなどでは春季療法に取り入れられ、前述のようなデトックスティーとしてネトルやダンデライオンなどとブレンドして使われている。

また、クリーバーズは女性の方には嬉しい、セルライト予防用としても注目されている。セルライトは医学的な言葉ではなく、美容業界の定義のため曖昧な所もあるが、脂肪細胞が老廃物と結びつき肥大化したものと考えられている。つまり血液やリンパ液の流れを整えて老廃物をスムーズに回収・排泄できればセルライト予防に繋がる可能性があるため、セルライトの予防や改善のサポートにも役立つとされている。その有効成分としては、イリドイドの一種、アスペルロシドがある。植物にとってはクマリン類の生成に必要な成分でもあり、体内では効率よく胆汁酸分泌を働きかける成分のひとつとして注目されている。

アスペルロシド
胆汁酸は肝臓・筋肉・褐色脂肪細胞の脂肪の代謝を活発にするため、基礎代謝が高まり、内臓脂肪の減少に役立つわけだ。クマリンを含む植物が、葉が乾燥する時に牧草のような香りがするのは、このアスペルロシドの成分によるところである。

*女性のPMS緩和に。

生理前に起こるむくみやイライラなどの不快症状はPMS(月経前症候群)と呼ばれる。婦人科などでも治療が行われているが、原因・悪化要因については諸説あり、女性の多くが生涯で経験するということで、医学的にも様々な成分やハーブの有効性が研究されている。イギリスではPMSの原因の一つにリンパの停滞やむくみの可能性が高いとして、PMS軽減にクリーバーズをアルコールに漬け込んだティンクチャ(チンキ)を飲むことが推奨されている。

クリーバーズ
クリーバーズのティンクチャ

日本でもPMS症状が発生する要因として「水分貯留」が挙げられているが、胸のハリや倦怠感などを感じる方はこのタイプが多いとする学説もある。生理前にむくみやすい・体が重いと感じる方はPMS軽減効果が期待されているチェストベリーやラズベリーリーフなどのハーブティーブレンドにクリーバーズも加えて取り入れてみても良いかもしれない。
PMS緩和の背景には、炎症を鎮めるという働きも関係するわけだが、クリーバーズには抗炎症の成分も含まれている。アスペルロシド同様、イリドイド配糖体の一つ、モノトロペインという成分だ。


モノトロペイン

人間の体内ではイリドイド配糖体はイリドイド類の様々な物質に分解されるが、このイリドイドがアンチエイジング他、骨芽細胞に作用して骨粗鬆症を軽減する働きや、認知症の予防など、いろいろな健康効果の研究が続けられている。

*風邪の予防・疲労回復に。

クリーバーズは身体の巡り・老廃物排出促進をサポートする働きが期待できるため、間接的に新陳代謝の向上にも役立つと考えられている。食材として見るとビタミン・ミネラル・アミノ酸等も含まれていて、疲労蓄積予防や疲労回復のサポートに役立つ。イギリスでは春先など季節の変わり目に疲労感や倦怠感などの“だるさ”を感じる時に取り入れているという。代謝を良くすることでスタミナ増強や強壮にも有用だと考えられる。

またリンパ系は“体の下水道”とも呼ばれることもある通り、老廃物や毒素の回収に関わる働きがあるわけだが、免疫力とも関わりが深い器官だ。リンパ液の中にはT細胞・B細胞・NK細胞などの免疫細胞の約35%が含まれるとされる。リンパの状態が良ければ「組織液に侵入した細菌や異物の除去が速やかに行われる=リンパの流れが良い人のほうが風邪などの感染症にかかりにくい」とも言える。
ヨーロッパのハーバリストは風邪やインフルエンザからの回復期・抗生物質を服用した後などに、体を整えるためのハーブとして処方することもある。風邪予防や免疫力のサポートとして、エキナセアなどとブレンドして使われる。

*美容に。肌トラブル予防・美肌サポートに。

リンパ機能を整えることから、美容全般に利用されている。
特に脂漏症や湿疹・乾癬などの皮膚トラブルにも効果が期待されている。こうした皮膚疾患の全てがリンパ循環が悪いがために、老廃物・毒素が溜まっていることが原因というわけではないが、自然療法では「汚い血液が循環する⇒それを取り込んでしまった皮膚が炎症を起こす」という考え方がある。漢方でいう「瘀血(おけつ)」の状態である。

老廃物・毒素の蓄積によって起こるとされるより身近なトラブルとしてはニキビや肌荒れ・くすみなども代表として挙げられるが、クリーバーズティーで体液循環を整えることで肌荒れ予防・美肌サポートにも役立と考えられる。リンパ循環の改善や利尿作用から顔のむくみ改善にも効果が期待できる。

*泌尿器トラブルに。

またクリーバーズは高い利尿作用に加えて、抗菌作用や抗炎症作用を持つハーブとして膀胱炎や前立腺感染症など多くの泌尿器疾患の軽減にも利用されている。そのためクリーバーズはペットケアでも利用されることが多い。利尿やデトックスに有効とされることから尿道や腎臓結石の予防、尿毒症の治療に役立つとする報告もある。
ペットのための植物療法のバイブル『Herbs for Pets: The Natural Way to Enhance Your Pet’s Life』では猫の下部尿路疾患の治療に適したハーブとしても紹介されている。

*内用以外の使い方(外用)で期待できる効果

クリーバーズは殺菌・抗菌作用や炎症を抑える働きが期待できることから、外用でも皮膚トラブルのケアに利用されてきた。
収斂作用や抗菌作用が期待できるタンニンなどが含まれていて、脂性肌やニキビケアに適していると考えられる。古くは日焼けや湿疹などの皮膚トラブルに対しても生葉を湿布のようにして患部に当てていた。
現在でも欧米ではクリーバーズが配合された軟膏があるし、チンキ使って化粧水を作る・洗顔に使うなどスキンケア方面でも使われている。またヘアトニックとして利用することで頭皮の乾燥やフケ予防に良いという説、抗酸化作用や血液・リンパ液循環を促すことで肌のシワを防ぐなどの説もある。


クリーバーズは、科学的な研究が進んでいるハーブというわけではないが、ヨーロッパの長い歴史の中で、食材や民間療法として長く利用されてきた食経験を持つハーブであることには間違いない。特にデトックスやむくみの改善、老廃物を排出する働きなど、どなたでも手軽に使える安全性の高いハーブとして利用できる。上手くご自身の健康維持・美容に活用していただきたい。

(文責 株式会社ホリスティックハーブ研究所)


参考文献(書籍)
「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著
「基本ハーブの事典」北村佐久子著 東京堂出版
「世界薬用植物百科事典」 誠文堂新光社  A.シェヴァリエ
「和漢薬百科図鑑 改訂新版」難波恒雄著

「日本に帰化したシラホシムグラ」帰化植物写真ニュース2004(全農協)
「ポプラディア情報館 世界の料理」サカイ優佳子,田平恵美 編
「薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて」伊澤一男 著
「健康・機能性食品の基原植物事典」佐竹元吉ほか著
「メディカルハーブの辞典」 林真一郎編
「フィトセラピー植物療法事典」フォルカー・フィンテルマン、ルードルフ・フリッツ・ヴァイス著
「Botanical Safety Handbook 2nd edition」アメリカハーブ製品協会(AHPA)編
「The complete New Herbal」 Richard Mabey著
「The Green Pharmacy」 James A Duke著

「The Complete German Commission E Monograph, Therapeutic Guide to Herbal. Medicines,1998 」American Botanical Council(ABC)

データベース・公文書等
NIH National Library of Medicine’s MedlinePlus Proceedings of the National Academy of Sciences
健康食品データベース 第一出版
「BG Plants和名一学名インデックス」(YList)
Pharmacist’s Letter/Prescriber’s Letterエディターズ 編 (独)国立健康・栄養研究所 監訳

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