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アレジーだけではないぞ!栄養価の高いデトックスハーブ〜ネトル
ネトル Nettle
春季療法だけではない!ネトルは高い栄養価と海藻の香りで貧血対策&デトックスハーブ
学名:Urtica dioica (ウルティカ ディオイカ)
和名・別名:セイヨウイラクサ、ネトル、ネットル,蕁麻(じんま)
科名:イラクサ科
使用部位:葉部
植物分類と歴史
ネトルは刺すという名のハーブ
セイヨウイラクサ(ネトル)は北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、アジアにみられる、高さ30~50 cmになる繊維質の多年生植物で、6月から9月にかけて葉腋から円錐形に緑色の花をつけます。
現在薬用ハーブとして利用されているネトルは、日本のイラクサの近縁種であるセイヨウイラクサのことです。英語名にあるStingingというのは“刺す”という意昧のラテン語に由来しており、その和名もセイヨウイラクサ(西洋刺草)といいます。
ネトルの茎や葉の表面には毛のような棘(とげ)があるため“Stinging”とつけられたと言われています。またネトル(Nettle)という名はその針を意味するNeedleからきたとされます。イラクサの葉には鋸歯があり、刺毛と呼ばれる鋭いトゲに覆われ、そのとげの基部にはアセチルコリンとヒスタミンを含んだ液体の入った嚢があり、とげに触れその嚢が破れて皮膚につくと強い痛みがあります。
ネトルは生薬名の蕁(じん)麻(ま)の仲間で蕁麻疹(じんましん)や麻疹(はしか)の語源となったことも有名な話。
イラクサの棘については、すでに紀元後1世紀の古代ローマのプリニウスが目に見えないとげに悩まされていたようです。
「とげもないのに、イラクサの綿毛が害を及ぼす。そっと触っただけで、痒くなり、やけどの様な水ぶくれができるのは、おかしい」と書かれています。
当時顕微鏡があれば、綿毛ととげの違いも分かっただろうにね。笑
呪いを解くハーブ
イラクサの葉はその棘のためにケルト民族では、呪いを解く力があると思われていました。
アンデルセンの童話の『野の白鳥』の一節に呪いによって白鳥にされた11人の兄たちを助けるため、妹は「イラクサで楔帷子(鎖のかたびら。鎧の下に着るシャツ)を編む話がでてきます。
「妹の手はイラクサのとげで火のように腫れ上がったが、兄たちを助けるため必死にシャツを編んだ。王に魔女として火あぶりにされそうになるもシャツを編み続け、周りから気味悪がられるが、処刑が始まる寸前、エリサが11枚の帷子を白鳥達に投げかけると、兄たちの呪いが解けて白鳥が王子(兄たち)に変わった、という話」
おそらくケルト民族においては、白鳥は「中間的存在」とされ、完全にこの世のものでもなく、また冥界のものでもないとみなされてました。そのためよく童話で人が白鳥に変えられたという物語が出てくるのでしょう。ケルト民族はこの中間的存在に変えられた人間を魔界から人間界に取り戻してくれる植物としてイラクサを捉えていたようです。そして権力者たちは、その植物を扱うものを魔女として恐れていくのです。
ドイツの俗名では、「雷のイラクサ」とも呼ばれます。
チロル地方でも古くからイラクサは稲光りの打撃を防ぐ植物とされ、雷雨の時にイラクサを沢山火の中に投げ入れると収まると信じられていました。古代ローマでは、睡眠をとるために、あるいは食料として栽培され、10分の1税が課せられた時代もあったようです
17世紀の英国のハーバリストであるニコラス・カルペパーによると、「冬の間に過剰になった粘液を消滅させる」という記述が残されており、イラクサは長い冬が終わり、季節の変わり目(木の芽どき)に体調を崩すことなく過ごすための活力を身体に与え、春の倦怠感や様々な不調を解消するために用いられてきたことが見受けられます。
主な成分
ビタミン類 (A、C、Kなど) やミネラル類 (カルシウム、カリウム、珪酸、鉄など) 、インドール類 (主にヒスタミン、セロトニン) 、クロロフィル、配糖体および遊離のβ-シトステロール、スコポレチン※ (scopoletin) 、ケルセチン (quercetin) 、ケンフェロール (kaempferol) 、ルチン (rutin) を含む。
※スコポレチン:抗炎症剤や抗ヒスタミン剤としての機能を持つことが確認され、アレルギー性鼻炎や花粉症、アトピー性皮膚炎、関節炎などにも効果があります。
安全性と相互作用
安全性
クラス1:適切に使用する場合、安全に摂取できるもの
相互作用
クラスA:相互作用が予想されない(医薬品との相互作用は認められないということ)
(Botanical Safety Handbook 2nd Edition アメリカハーブ製品協会(AHPA)収載)
学術データ(食経験/機能性)
ネトルは全草が利尿剤、緩下剤などの民間薬として用いられてきた歴史があります。1世紀ごろには、すでにギリシャの医師ディオスコリデスらがネトルの葉に利尿・便通作用があると報告し、それ以外にも幅広い使い方が残されています。
アメリカでは、南北戦争時に南軍の軍医であったフランシス・フロッシャーが、ネトルの葉と茎の浸出水に浸けた包帯を止血用に用いたとの記録を残しています。
また浄血作用によるデトックスハーブとして、ドイツなどの春季療法(春先のアレルギー予防)やアトピー・リウマチなどのアレルギー疾患の体質改善にも利用されています。
食経験(食べ続けられた歴史)
イラクサはその食経験を見てみると、これまた長い歴史を持つハーブだということがわかります。
ケルト民族にとってイラクサは特別な植物のひとつでした。土壌中の変化を良い方向に改善する植物であるとされ、ミネラルを多く含み土壌を豊かにし、土の中の多くなりすぎた窒素を取り除き、ミネラルバランスを整えてくれるため、土を元気にする植物として使われてきました。人間にとってもその目的はやはり体の状態を豊かにするという目的で使われることが多いようです。春になると健康でおいしい食べ物となり、そして根っこと葉っぱは毛布や布染めることができ、茎の一部は布として織ることができるなど様々な利用されてきました。
ゲルマンではビールの樽にイラクサの枝を置いておくと、発酵物が変色して酸っぱくならないようにすると言う風習もありました。
イギリスでは今日でもイラクサから作ったイラクサビールが血液のカスを、洗い流すために使われています。
また、ネトルはほうれん草同様、鉄分を多く含むため、特に春にお勧めの体を清めるスープとして食べられてきた歴史があります。
イラクサはユダヤ民族にもよく利用されていた植物です。ユダヤでは、「木曜日の9種類の薬草」の一つで、人を病気から守る祭礼食の重要な植物(野菜)でした。
*ユダヤの聖木曜日(カトリックでは洗足木曜日)は復活祭直前の木曜日のことで、この日に7種類あるいは9種類の野菜を使って、サラダやスープ、クッキーなどにして食べる風習がある。
またドイツなどの民間の治療では早春に月が欠けていくときに採取したネトル(ダイナミック農法やシュタイナー農法という)をジュースにして月が欠けていくときに飲むと血液の浄化に良いとされました。フランクフルトではパセリ、クレソン、チャービルなど7種類以上の野菜でソース(フランクフルト・グリューネゾーセ)を作る。
古代ローマ人はイラクサを生食用としても利用しており、ケルト民族ではオートミールと一緒に煮てスープのようにして食べる習慣があった。今でもイラクサは、ほうれん草の代用としてスープやソースなどに利用されている。またイラクサを煮て食べると胃の浄化になると言われ、さらにリウマチにも良いとされた。あるいは葉っぱを煮出したものは鼻血を止める、止血の働きがある、さらに月経を整え、授乳している人の母乳を出やすくする、肌につければ肌をきれいにしてくれる。 などなど、その利用価値は非常に高かったようです。
主な機能性(体への働き)
アレルギー症状を緩和するハーブ
クロロフィル等の浄血の働きからアトピーや花粉症などのアレルギー疾患に効果があるとされ、前述の春季療法として春先のアレルギーや肌荒れ予防にネトルティーが利用されています。またフラボノイドのケルセチン、ルチンの利尿作用や抗炎症作用もアレルギー対策に良いとされるため、花粉の季節にはネトルティーが特に多く飲まれます。コミッションE(ドイツの専門委員会で、ハーブを医薬品として利用する場合の効果と安全性を協議、審査する世界的権威をもつ委員会)により、アレルギーの炎症を抑える効果が承認されています。当社でもこの時期はエルダーフラワーとネトルは人気です。
ケルトの魔女たちが、植物に潜んでいる幽霊の力で病気を外に追い出すことができると信じ、特に熱が出る病気に利用していたのも、おそらくフラボノイドが働いていたのでしょう。ケルセチンには、ヒスタミンの分泌を抑制し、アレルギー症状を軽減する効果があることはよく知られます。また、ケルセチンには炎症を起こす原因物質であるロイコトリエンの分泌を抑制するため、抗炎症効果も期待できます。ケルセチンの抗ヒスタミン作用には即効性はないとされるが、継続して摂取することで体質が改善できるため、花粉の時期以外でもネトルティーなどを利用して摂取すると有用です。
実際の学術データとしては、アレルギー性鼻炎患者69名 (試験群31名、平均34.7歳、アメリカ) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、セイヨウイラクサ地上部の凍結乾燥エキス300mgを含むカプセルを症状のある間摂取させたところ、アレルギー性鼻炎の症状を緩和する可能性を示したという報告もあります。
排尿障害を改善するハーブ
ヨーロッパの自然療法ではネトルの葉っぱだけではなく根っこも使われます。根に含まれる成分が前立腺疾患の予防治療に優れた薬となることも知られています。生の根をチンキとして漬け込んで使用します。根には多糖類や植物ステロールが含まれ、前立腺に働きかけて肥大を予防する効果があることから、良性の前立腺肥大による症状の緩和に用いられています。前立腺は男性特有の臓器で、一般的には年齢を重ねると萎縮してくるが、ホルモンのバランスが崩れることで肥大する場合があります。それによって尿道が圧迫されると、頻尿や残尿感などの症状が現れます。
かつてイラクサの中にはいたずら好きの小さな妖精が住んでいるとケルト人が伝えていました。この妖精は、淫らで男を惑わせる妖精だったようで、イラクサを食することが精力剤の役割を果たしていくという言い伝えにつながっていったのでしょう。
実際にイラクサは中世では種(タネ)を精力剤として食べられていた記録も残っています。例えば、中世のドイツでは「蕁麻の種を甘いワインに入れて飲むとふしだらな欲望が生じ、詰まった子宮を開かせる」と言っています。農村では、男性の前立腺が肥大化し機能が低下しまった時は、イラクサの種と根っこで作ったチンキとかぼちゃの種と共に前立腺疾患の最も良い植物性の薬剤とされていました。実際に種子にはホルモン様作用のフィトステロールとビタミンCが含まれています。また身体機能の活発化、慢性的な疲れ、生殖能力の弱まりに役に立ちます。
貧血を予防する効果
ネトルは栄養価が高いハーブとしても知られ、「血を作るハーブ」とも言われており、クロロフィル、鉄分も多く含まれていることから、貧血に悩む女性におすすめのハーブでもあり、生理中の出血調整にも役立つことがしられています。
一般的に植物性の鉄分は体内への吸収率が低い傾向にあるが、ネトルには一緒に摂取することで鉄の吸収量を高めるビタミンCも豊富に含まれているため効率的に鉄を摂取することができます。クロロフィルはヘモグロビンの中心構造体である血色素のヘムと類似した構造を持つため、造血能力があり、また骨髄を刺激することで赤血球や白血球の生成を促し血液の状態を良くすることも知られています。古くからヨーロッパではこのクロロフィルの含有量の多さを使ったネトルの絞りたてジュースを飲む療法などが行われています。最近は、自然のフレッシュジュースやスムージーなどに利用されている。自分で栽培していない人はサプリメント等を利用すると良いでしょう。
ドイツの自然療法であるクナイプ療法においても、搾りたてのイラクサジュースを大さじ3杯から始め、3日ごとに一杯ずつ増やしていき、10杯になったところで終わりとする療法をすすめています。ネトルのジュースはクロロフィル以外に鉄分も多いため、生のジュースとしてはどちらかと言うと鉄臭い味わいになってしまうので、他の野菜と一緒に混ぜて飲むと良いと思います。
また、クナイプ神父はさらにイラクサの養毛剤としての働きを推奨しています。
生のまま刻んで1リットルの水で30分間煮出し、その煎じ汁を漉して、それで寝る前に頭を洗うと良いと書いています。おそらく血行を良くし、ミネラル補給によいのでしょう。イギリスの処方でもヘアコンディショナー&リンスとして、同様の作り方が紹介されていたので、ぜひ試してみたいですね。
ただしネトルは次のような注意喚起も出ているので留意する必要があります。「流産および子宮刺激作用があると考えられるため、妊婦が摂取することはおそらく避けるべきである」「ビタミンKが多く含まれているので、抗凝固剤と併用すると、作用を減弱させることがある」「糖尿病治療薬とネトルの併用は、血糖コントロールに影響を与える可能性がある」などが報告されています。
(文責 ホリスティックハーブ研究所)
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