芸術家たちを魅了した悪魔の酒アブサン〜薬草酒の会より

芸術家たちを魅了した悪魔の酒アブサン〜薬草酒の会より

薬草酒の会のご紹介
クラウターハウスの本校のビルの下にあるカクテルバーのマスターとクラウターハウスの代表が夜な夜な語るハーブとお酒とうんちくの夜会です。実はクラウターハウス大宮本校のあるビルの1階は大宮でも有名なカクテル&ショットバーなんです。
そこのマスターは、当然お酒のプロ。お店には、世界各地のお酒もずらり揃っていますが、中世ヨーロッパの修道院などで作られた、名だたる薬草酒も取り揃えています。ハーブスクールのクラウターハウスの代表こと、ハーブおじさんとバーのマスターの2人のお酒好きが、夜な夜な語り合う魔女と薬草酒の秘密の中で語られたお話の一部を、このハーブ&スパイスガイドでご紹介します。
  


第3回目は、「悪魔の酒アブサンのお話」です。
アブサンとは
アブサンは薄く緑色を帯びた薬草系リキュールです。アルコール度数は70%程度と高いものが多く、低くても40%です。かつてフランスでゴッホ、ゴーギャン、モネ、ロートレック、ピカソなどの芸術家を魅了し、彼らの感性を引き出したとされ、人によっては破滅に導いていったお酒でもあります。その主原料がニガヨモギです。
【分類】リキュール/蒸留酒
【生産国】スイス/フランス/スペインなど。
【主成分】ニガヨモギ
【度数】40度~90度。種類に拠るが、一般に度数はかなり強いです。

アブサンの歴史
アブサンは、スイスで作られていたニガヨモギを原料とした薬をピエール・オーディナーレという医者が古代ギリシアから中東を経由して入ってきた蒸留器を使った蒸留を応用して独自の処方を発案したことに始まります。そのレシピをぺルノーという酒造メーカーが買い取り商品化したのが製品としてのアブサンの発祥です。

一度口にしたら忘れられないこのアブサンは、19世紀にフランスの芸術家に愛され、作品の題材になることもよくありました。ただ、度数が非常に強く価格が安かったことからアルコール依存症に陥りやすかったり、主原料のニガヨモギに含まれる「ツヨン」という成分が幻覚等を抗精神作用を引き起こすといわれて、その後100年もの間多くの国で製造が禁止されていたいわく付きの歴史があります。1915年にフランスで製造販売禁止となりました。でも各国が禁止する中、スペインや東欧、日本など、禁止法がなかった国では細々と製造されていました。1987年に国際機関で「一定の濃度以下であれば安全」という提言が発表されて、その翌年から各国で生産が再開されるようになりました。


ニガヨモギとは
ニガヨモギ(Artemisia abrotanum/absinthum、菊科、ヨモギ属。別名southernwoon, lad’s love, maid’s ruin, southern wormwood; ワーム( worm ) とは蛇のことで、楽園から追放された蛇が這った跡からこの植物が生えたという伝説に由来) には防腐効果があり、腸内寄生虫を駆除するといわれていました。ニガヨモギはヨーロッパでは道端などに野生している植物で、普通のヨモギと比較すると写真(下)のように違いがわかります。(左がニガヨモギ、右は通常のよもぎ)

味は名前のとおり強い苦味を持っていますが、この苦味は切れ味が良く爽やかな苦味と評価されています。草もちに入っているヨモギとは品種が異なります。
成長すると1メートルほどの高さになり、全体が細かな白毛で覆われ、葉は羽状になります。切れ込みが深く表面は緑白色、裏面は銀緑色です。確かに日本のよもぎに似ています。ローマでは性的能力を高め性欲を掻き立てるためニガヨモギをベッドの下に入れ、女性を誘惑する際には花束の中にその花を散らしたと言われています。ヨーロッパでは白ワインの中にニガヨモギなどのハーブを浸けたリキュールが多く存在し、チンザノ、ベルモット( G. wermut: ニガヨモギの意 )の他、薬草系リキュールのアプサンがあります。
一度にたくさん摂取するとアルファ・ツヨシにより嘔吐、神経麻痺が起こり、習慣性が強いといわれる薬草です。そのため魔女の薬草としても知られるようになったようです。ハリーポッターの劇中で一番最初の魔法薬の授業で「生ける屍の水薬」の材料としても登場しましたね。下のイラストはイギリスのハーバリスト、ジョンジェラードの書物に出てくるイラストです。


左はBroad leafed Wormwood, 右はPonticke Wormwood。


アブサンに夢中になった芸術家たち
感性やインスピレーションを引き出す霊酒として、芸術家に愛飲された。アブサンに魅せられた人々をアブサニストと呼ぶそうです。彼らは、時に心身に異常を来たし、時に人生を破滅させた芸術家たち。それが幻覚成分ツヨンのせいなのか、単なるアルコール中毒だったのかは定かではないようですが。。
当時の芸術家はこのアブサンを愛用し、ゴッホはカフェで出されたアブサンを美しい色彩で描いています。またフランスの画家アルベール・メニャンは『緑色のミューズ』でアブサンの魔力に侵されているイメージを絵にあらわしています。

  
ゴッホ『アブサン』 (absinthe, 1888)    アルベール・メニャン『緑色のミューズ』

ゴッホ
オランダの画家。
生前に売れた絵はたった1枚だった。友人ゴーギャンに「自画像の耳の形がおかしい」と言われ、自分の左の耳たぶを切り落とした。最後はフランスの精神病院に入院し、猟銃自殺。(諸説あり)

ロートレック
フランスの画家。両足に障害をかかえながらも、娼婦、踊り子のような夜の世界を題材とした数々の作品を残した。また、ポスターを芸術の域にまで高めた。アブサンなどの長年の飲酒により体を壊したうえ、梅毒もわずらって死去。(諸説あり)

太宰治
日本の作家。後に入水自殺。太宰がアブサンを常飲していたという記録はないが、小説『人間失格』の中に以下のような記述がある。
「飲み残した一杯のアブサン。自分は、その永遠に償い難いような喪失感を、こっそりそう形容していました。絵の話が出ると、自分の眼前に、その飲み残した一杯のアブサンがちらついて来て、ああ、あの絵をこのひとに見せてやりたい、そうして、自分の画才を信じさせたい、という焦燥にもだえるのでした。」

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